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本編

お引っ越ししましょ2

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「これでよし、後は」

 メモは数ページだけだったから、すぐに片付けられた。
 シュレッダーはめちゃくちゃ細かくカットされるから、誰も読めないだろう。

「んーと、カード関係と学園の書類と。あ、これはもういらないかな、シュレッダーしとこ」

 寝室には貴重品を仕舞う金庫が備え付けられていて、そこの中に普段使わないキャッシュカードやクレジットカードの類いや学園に入学する際に渡された書類とかが入ってる。
 この部屋はこのまま僕の部屋だけど、この辺りは雅に預かって貰った方がいいと思う。

「なんか、こういう大事なもの預けるとかいいのかな。いいよね、僕の旦那様なんだし」

 言って一人で照れまくる。
 恥ずかしい奴だな、僕。

「これは、この箱にまとめてあるからこのまま持っていこう」

 ベッドの枕元に置いていた狼雅を抱っこしてリビングに戻ると、和歌子さんの他に雅の配下の人達が何人かいて革製の大きな箱をウォークインクローゼットから運び出していた。
 あんな箱この部屋にあったっけ?
 革製の箱は金色の金具が角を守っている。なんか高級に見えるんだけどどうなんだろう。判断が出来ない。
 首を傾げてみていると、和歌子さんが気がついて近づいてきた。

「千晴様、お荷を物お持ち致します」
「ありがとう、これは雅に預かって欲しいものなんだけど」
「畏まりました。私が責任持ってお預かり致します」

 綺麗な礼の後受け取ってくれる。安心感は、雅の使用人ならではだと思うから、笑顔でお願いする。

「お願いします。貴女に頼めば安心ですね。僕ちょっと向こうの部屋に行ってるね。何かあれば聞きに来てくださいね」
「畏まりました」

 雅に見られたら困るものその二。
 前世を思い出す前に書いていた、日記帳。

 机の引き出しにしまっていたそれを取り出して、中を見る。
 前世を思い出した後は、書いてる内容が恥ずかしすぎて開いてなかったけれど、これ殆んど内容が雅についてなんだ。

「う、本当に雅のことしか書いてない」

 ペラペラとページを捲る。

山城様に名前でと言われて、嬉しくてすぐに返事が出来なかった。
呆れられているかもしれないな。どうしよう。
でも、僕をハルと呼んで下さるし、様などを付けずに雅と呼んでいい等言われたら、夢だと思っても仕方ないよね。
部屋に帰ってきても信じられなくて、嬉しくて涙が止まらないよ。
本当にいいのかな。

 別な日。

雅さまが、僕が落とした消ゴムを拾って手渡して下さって。
手渡された消ゴムを握り締めて、僕は嬉しくて頭がボーッとしてしまい、ちゃんとお礼が出来ませんでした。
雅さま、心の中でそう呼んでもいいのでしょうか。
雅さまは、優しくて。
僕は辛いです。お慕いしてます。大好きです。

「わーっ。むりっ」

 最初の方を読んで慌てて閉じる。

「心臓止まるかと思った、なにこれ駄目でしょ。絶対に雅に見つかったら駄目だよぉっ」

 恥ずかしすぎてパタパタと顔を両手で仰ぐ。
 興奮しすぎて暑くなってきた。

「何が駄目なんだ」
「駄目なのっ、恥ずか、え?」

 今の声雅? 慌てて振り返るとドアのところに雅が立っていた。

「み、雅っ。い、いつから居たのっ」
「雅に見つかったら駄目の辺りかな」

 笑ってる? 怒ってる? 判断がつかない。
 でも、見つかっちゃったのは困る。どうしよう。

「秘密にしたいなら、無理には聞かないし見ないよ」
「雅」
「ハルが俺に話したくない、知られたくないと思うものがあってもおかしくない。だから聞かない。ただ、さっきみたいに。ハルが困っていたと他人から聞かされるのは嫌だ。ハルが辛い目に合っていたのを知らなくて守れないなど、二度と。だからその類いの話は隠さずに教えて欲しい」

 さっき、大林君に僕が嫌味を言われた件を言ってるんだ。
 そうだよね。
 僕が内緒にしてたのがいけなかったんだ。

 前世の記憶の話は絶対に言えないけど、それ以外には僕には秘密なんかないし、これは僕が恥ずかしいだけだもん。見せちゃえ。
だって、雅に悲しい顔させたくないよ。

「話したくないとかじゃなく、ただ恥ずかしいだけだよ。あと、雅に呆れられたくない」

 これには誰かに嫌味を言われたとか、舞の話しとか、大林君が助けてくれたとか何も書いてない。
 引く程ずっと、雅が格好いいとか、素敵だとか。今日は挨拶しか出来なかったとか、体育の時に目が合った気がするとか、凄く好きだけどどうしようとか、雅の耳に小さな黒子があったとか、そんなのも格好いいとか。

 あれ、やっぱり見られたらマズイかな。

「あの、引かないでね、僕に呆れて嫌にならないでね」

 念押しな上の駄目押し。
 こんな気持ち悪い思考の持ち主だったのかとか、嫌になっちゃうかもしれない。
 恐る恐る、雅に、僕の大好きなご主人様に日記帳を差し出したのだった。
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