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本編

初めてのサロンで

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「はぁ、疲れた」

 お昼休み僕は雅のサロンでソファーにぐったり座っていた。
 行儀悪いけれど、姿勢良くなんて出来ない。

「お疲れですよね。千晴様、おいたわしい」
「ありがとう。でも舞も気をつけてね」

 雅は佐々木様と離れた場所で話し合っているから、僕の隣には舞が座り労ってくれている。

「あの方、なりふり構わずで恐ろしいです」
「谷崎様の退学が受け入れられないんだろうね」

 メイドさんが入れてくれた紅茶を飲む間もため息が出る。
 休憩の度に木村君がやって来て大騒ぎされるから、精神的に疲れてしまった。

「貴族の病気療養は謹慎と同じだとは知らないみたいだけど、川島君は教えてあげてないのかな」
「貴族の中では常識ですし、あの方が知らないと気がついていないのではありませんか?」
「そうか、僕でも知ってる位だから、川島君ならそう考えててもおかしくないかも」

 ゲームにはそんな展開無かったから、木村君が前世の記憶を持っていてもそんな知識はないのかもしれない。

「はあ、このソファーふわふわで眠くなっちゃうな」
「お疲れなのですね。お二人はまだお話しされている様ですし、少しお休み下さい」
「うん、でも舞と話すのも久しぶりだし。ごめんね、舞を巻き込んで」

 僕があのメールを無視して小姓になってしまったから、あのメールが脅しでなければ舞に危険が及ぶ可能性が高いんだ。
 僕の幸せの為に舞を不幸になんて、望んでないし絶対に阻止したい。
 でも、木村君が何をしようとしてるのか予想すらつかないんだよなぁ。

「大丈夫です、藤四郎様は頼もしい供を付けてくださいましたから。それに、今の僕の幸せは千晴様のご尽力あってのものですから。今度は僕が頑張る番です」
「舞、ごめんね」
「ごめんだなんて、仰らないで下さい。千晴様、僕は今まで沢山千晴様にお世話になっていたのですから、僕にご恩返しさせてくださいませ。それに謝られるよりありがとうと言って頂ける方が嬉しいです」

 にこにこと、舞は笑って僕の両手を握る。
 僕何もしてないのに、舞が優しすぎる。

「舞ありがとう」

 なんだか最近の僕は涙もろいみたいだ。
 ありがとうの言葉と一緒に涙がこぼれ落ちた。

「千晴様、僕は大丈夫です。何があっても藤四郎様は僕と一緒にいて下さいますし、きっと守ってくださいますから、僕はちっとも不安なんて感じていませんから」
「僕も雅が守ってくれると信じてるよ」

 自分で対抗出来るのが一番だけど、昨日のことでそれは無理だって自覚があるから僕が出来るのは絶対に隙を作らない。これだけだ。

「僕達、頼れる旦那様がいて幸せですね」
「うん、幸せ。へへ、こんな時に呑気にしてるの申し訳ないけど」

 舞と一緒にと笑ってたら、メイドさん達に微笑ましそうに見られていると気がついた。
 恥ずかしすぎるな、今さらだけど。


★★★おまけ★★★

「なんだあの可愛い生き物は」
「天然記念物的な可愛さだな、」

 大事な話をしていたのに、ハルの可愛さについ向こうの会話に耳をすませてしまう。
 ハルは普段からおっとりしているが、佐々木の小姓と一緒だとそれに輪が掛かるようだ。
 佐々木を見れば、普段の気難しい顔が若干緩んでいる。
 こいつが小姓に執着しているのは昔からだが、小姓手続きして気が緩んでいるんだろう。

「あれを害そうなど、ろくなことを考えないな。盛りのついた雌犬が」
「その雌犬に一時でも名前呼びを許したのが不思議だよ」
「あれは一生の不覚だった。だが私にも訳が分からないんだ」
「ふうん?」
「谷崎にしろ、川島にしろ同じだろう。訳が分からず側にいる。何かに操られでもしているかの様にな」

 操られる。それは正しいのかもしれない。
 谷崎だって、あそこまで短慮な奴では無かった。

「だから警戒は怠るな。いっそあれを退学にしてしまった方が安全だ」
「だが、あんなんでも奨学金と特待生両方取っているからな、平民とはいえ退学させられる程の不始末がなければ難しいだろう」

 あれの今日の言動からは、とてもその頭があるとは思えないんだがな。

「あれだけ派手にやらかしているんだ、放っておいてもいずれ自滅するだろうが、それまで待てないな」
「少し煽ってみるか」

 正攻法では難しいだろうが、佐々木は自信ありげに口を開く。

「どうする?」
「簡単だ、害したいなら行動させればいい。あいつを貶し、同時に自分の小姓を存分に可愛がる。幸い小姓持ちも増えたからな。私達がそうすれば乗ってくる奴らもいるだろうし、馬鹿も釣れれば一石二鳥」
「馬鹿?」
「節操なく振る舞えば品位がないとして、家からも学園からも査定されるし、許可が出ず焦る馬鹿もいるだろうな」

 どっちを落としたいのか分からないが、こいつに比べたら俺は甘いなと反省した。

★★★★

可愛いちびっこ二人を愛でる旦那達でした。
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