【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

呪いとまじない(舞視点)

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「どうした美空」

 昼食を頂いて部屋に戻った僕は、着替えもせずにリビングのソファーに座り込んでいました。
 藤四郎様が僕の好みに合わせ用意して下さった、ふわふわなクッションを抱き締めて考え込む僕に、着替えを終えた藤四郎が声を掛けて下さったというのに、考えに没頭していた僕は返事が遅れてしまいました。

「何を気にしている?私以外の何が気になる?」

 口調は優しいというのにお声に不機嫌そうで、僕は慌てて顔を上げました。

「申し訳ございません。藤四郎様」

 クッションを床に落とし、隣に腰を下ろした藤四郎にしがみつくと、クククと笑う声が聞こえました。

「怒ってはいない。どうせあの犬が心配なのだろう?」
「犬ではなく千晴様です」

 たった一人と言うと藤四郎様のご機嫌が急降下すると知っていますから口には出したりしませんが、千晴様は僕の唯一のお友達です。
 藤四郎様は山城様と家同士が対抗派閥の為、親しくお話される等今までは無かったのですから、その小姓である千晴様を良く言うわけもないのですが、犬と言われると悲しくなってしまいます。

「犬で十分だ。一人で立つことも出来ぬ弱い犬等、よくも小姓に選んだものだ」
「藤四郎様、千晴様は木村春に害されておいでなのですよ、気弱になっても仕方ないかと」
「なら、大事な小姓を守れぬ山城が能無しなのだな」
「藤四郎様は本当はお優しい方なのに、どうして美空の前でもその様に仰るのですか? 本心を明かしていただけないのは悲しゅうございます」

 犬発言は兎も角、藤四郎様なりに千晴様を心配して下さっているのだと理解して、拗ねながら尋ねました。

「心配等しているわけがないだろう?」
「されています。もし本当に呆れておいでなら、美空にもう関わるなと仰る筈です。それに、先程も千晴様にお食事をさせようと僕を使われておいででした」

 常日頃、僕の食事の量は小鳥の餌の様だと仰る藤四郎様ですから、今日の千晴様の食事に驚かれたのでしょう。
 僕も少食だけれど、千晴様は少しの寝不足で体調を崩されるし食欲も無くなってしまわれるから、心配で仕方ありません。

「なんだ拗ねたのか」
「拗ねておりません。藤四郎様は優しいなと嬉しくなりました。美空は優しい旦那様にお仕え出来て幸せにございます」

 藤四郎様に抱き締められて眠り、その腕の中で朝目覚めます。
 それは奇跡の様な幸せです。
 その幸せは千晴様のお陰なのです。

「美空が今幸せなのは、千晴様のお陰だと言うのに。美空は何もお力になれないのです。ですからいくらでもお使い下さいませ」
「優しいのはお前だ」

 くしゃりと髪を撫でた後、藤四郎様が僕を引き寄せ抱き締めて下さいました。

「あれは何をするか分からない。美空絶対に一人になるなよ」
「はい」

 千晴様が眠ってしまった後、木村春から届いたメールについて山城様から伺いました。
 山城様と木村春が、裸で睦み合っている写真が送られて来たというのです。
 勿論その写真は合成だと一目で分かる程の稚拙な物だったそうですが、ただでさえ木村春の本性を目の当たりにしたばかりで動揺していた千晴様には、衝撃がありすぎたのでしょう。山城様がいらっしゃらない間にそのメールを受信して、倒れて仕舞われたのだそうです。
 今千晴様のスマホに送信されるメールはすべて山城様の方に受信する様設定されており千晴様のスマホには届かないそうですが、心配です。

「前後の記憶を無くされる程の衝撃を受けたのです。今日授業に出られただけでもお体の負担になっていたのではないかと、心配です」

 体育の時間の千晴様は憔悴されている様に見受けられましたし、目の前で撮影されていた筈の動画の内容もお忘れになっていたようでした。
 他人のあられもない姿が突然送られて来た上、その相手が大切な旦那様だったとしたら倒れてしまわれるのも当然です。

「衝撃なあ」
「藤四郎様?」

 僕を抱きしめながら藤四郎様は「あれは違うだろう」と呟きました。

「あれは衝動による記憶障害ではないのかもしれないぞ」
「え」
「山城が言っていただろう? 『美味しいものを食べて眠ったら元気になる』そして『美味しいものを食べると幸せな気持ちになる』と」
「そうでしたか?」

 僕は聞き逃していたのだろうか?

「美空は神子だから。あの言霊は弾いてしまっただろうが、あれには呪が付いていた」
「え、何故」

 呪とは、言葉に宿すと相手に呪いやまじないを施せるものです。
 僕の家に伝わる神子舞は神に捧げる祈りですが、呪はその真逆にあるものです。
 それは医療に使われる場合がありますが、大抵は呪いの為に存在するものです。

「山城様は千晴様を大切にされているのに、呪とは」
「美空が呪いの類いを見て気がつかぬわけがないだろう。あれはまじないだ」

 のろいもまじないも呪という感じを当てますが、僕の家ではまじないは漢字を使いません。漢字にも言霊が宿ると考えるから、のろいと同じ文字は使わないのです。

「まじない。では、千晴様を守るためのものということでしょうか?」
「多分な。山城の言葉にまじないの力を感じた。山城に神に仕える力はないから、誰かに使える様にして貰ったのだろう。記憶の封印か、心の安寧か。両方かもしれぬな」
「それは、つまり」

 顔を上げると藤四郎様は眉間に皺を寄せ考え込んでいる様子でした。
 まじないで心の治療を行なうことがあると聞いた事があります。特定の言霊に力を加えて精神に影響がある様にするのです。眠りをもたらすだけの軽いものもあれば、誰かを思う、特定の記憶を無くす等のものもあります。

「千晴様は今まで飲まれていなかったハーブティーを飲まれていました。あれも?」

 千晴様は普段甘いカフェオレか、ミルクティを好まれています。
 それなのに、山城様は千晴様にハーブティーを勧めておいででした。

「まじない? 千晴様に?」

 僕は右手を挙げ、藤四郎様の眉間の皺に触れ「清めよ」と唱えました。
 親しくない者のまじないの場にいたのです。大切な旦那様に何か影響が出ていないか心配です。

「私はあの程度のまじないには何も感じない」
「それでも、僕は、美空は嫌です」
「馬鹿だな。あの言霊にあったのはあの犬を守る思いだけ、あれのまじないに罪はない」

 不安になる僕に藤四郎様は笑いながら唇を塞ぎました。
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