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本編
これで終わる?
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教室の中は騒がしかった。
ホームルームの時間になっても担任の先生は現れず、木村君は戻ってこない。
教室のあちこちから、此方を盗み見ながらヒソヒソと会話されるのは辛かった。
「気にするな」
「でも」
「ハルは何もしていないし、あれが合成であることはすでに確認されている。それでも事実だと言い張るなら、山城家に敵対の意思があるものとして厳しく対応する。勿論そんな噂をたてる輩も同じだ」
雅のその一言でシンと教室中が静まり返る。
「山城家に厳しく対応されてしまったら、大抵の貴族の家は潰れてしまいますよ」
大林君が面白そうに笑うけれど、僕はちっとも笑えない。
山城家の影響力なんて怖くて考えたくもないよ。
「遅くなったがホームルームを始めるぞ」
突然ドアが開いて先生が入ってきた。
「今日の欠席は川島だけだな」
先生は木村君の机を一瞬見た後そう言うと「川島は暫くの間家に戻ることになった」と言い出した。
まさか川島君も家に連れ戻されたのだろうか。
だとしたら彼も谷崎様同様もうこの学園には戻れないのかもしれない。
木村君に関わるとこんなことになるの?
川島君が最後なの、それとも。
さっきの木村君の姿を思い出し、無意識に両手を握っていた。
「ハル」
そっと雅の手が僕の手に重なり、雅の手の温度で我に返った。
「ごめん、大丈夫」
雅の方を見て笑顔を作ると雅は笑って手を離した。
「今朝は騒ぎがあったそうだが、落ち着いて良識ある行動をとる様に、それでは今日の連絡事項を伝える」
先生は淡々といつもの様な態度だ。
持ち主不在の二つの机に僕はつい目が行ってしまうのに、そんなそぶりもない。
木村君は今何を聞かれているんだろう。
昨日の様に僕に苛められている話をするのだろうか。
木村君の万年筆は僕の机に入っていたんだっけ?
何も入っていなかった筈の机に、万年筆だけ木村君は入れたんだろうか?
「いっ」
左手を机の中に入れ、手探りで中を確認しようと手を滑らせた瞬間指先が何かに触れた。
「ハル?」
「何でもな、え?」
痛いような熱いような、一瞬の感覚に驚きながら反射的に何かを掴んで机の上に置いた。
何か引き剥がす様な感覚があったのは、セロハンテープだと分かった。分かったけど。
「ハル、なんで怪我してるんだ?」
「あの、えと」
机の上にあるのは、刃が剥き出しになったままのカミソリだった。
「机の中に貼り付けられてたみたい」
確率的にこれで怪我するのは稀な気がするけれど、僕はどうも運が悪いみたいだ。
「何を呑気に、手を」
言われて手を出すと、雅が傷の様子を確認しながらティッシュで流れ出る血を押さえてくれた。
「鈴森?」
「すみません、なんか怪我したみたい、です」
「え、あの、たった今なのか?」
「はい。あの、机の中にこれが」
触りたくなくて、机の上を指差すと先生が慌てて近寄ってきた。
「ナイフ?え、テープがついてるというのは、どういうことだ、誰かが故意にやったと?」
「多分」
これも木村君の仕業なんだろうか。
「勘弁してくれよ」
先生の心の声が漏れた。
そうだよね、僕もそう思う。
もう勘弁して欲しい。
「あ、悪い。これは意味は無くてだな」
「いいえ、ご迷惑お掛けして申し訳ありません」
謝ってしまうのは反射神経のなせるわざだ。
「絆創膏で足りるか? それとも保健室に行くか?」
「血が止れば多分」
「絆創膏で足りる傷じゃない」
先生に愛想笑いをしながら答えると、雅が眉をしかめてティッシュを交換していた。
真っ赤に染まったティッシュ。
一瞬むき出しになった傷からぽたりぽたりと落ちるのは、真っ赤な血。
あ、これ駄目だ。
血を見た瞬間に気がついた。これ貧血みたいな症状。
血が引いていく気配。
実際、そんなの貧血の症状には無いけれど、そういう感覚に陥っている。
「ハル、サロンに行こう医者を呼ぶから。ハル?」
ぽたぽた、ぽたぽた。
真っ赤な血が落ちていく、これ、今? 現実?
「ハル? おい、医者を今すぐ呼べ。ハル、俺の声が聞こえるか? ハル」
雅の声が遠くから聞こえる。
目の前に広がるのは、真っ赤な血の色?
「ハル、ハル。駄目だ、気を失っている。おい、これの指紋を取っておけ。それから理事長に状況説明だ」
「わ、分りました。皆ホームルームは修了。次の授業の準備をして待期だ」
慌ただしく動く気配。
ああ、僕は何も出来ない。何も。
「ああ、クソ。なんでハルばかり」
雅が吐く言葉が悲しい。
僕のせいで雅を苦しめている。
「雅、ごめ……」
言葉は音にならないまま、僕は意識を手放した。
ホームルームの時間になっても担任の先生は現れず、木村君は戻ってこない。
教室のあちこちから、此方を盗み見ながらヒソヒソと会話されるのは辛かった。
「気にするな」
「でも」
「ハルは何もしていないし、あれが合成であることはすでに確認されている。それでも事実だと言い張るなら、山城家に敵対の意思があるものとして厳しく対応する。勿論そんな噂をたてる輩も同じだ」
雅のその一言でシンと教室中が静まり返る。
「山城家に厳しく対応されてしまったら、大抵の貴族の家は潰れてしまいますよ」
大林君が面白そうに笑うけれど、僕はちっとも笑えない。
山城家の影響力なんて怖くて考えたくもないよ。
「遅くなったがホームルームを始めるぞ」
突然ドアが開いて先生が入ってきた。
「今日の欠席は川島だけだな」
先生は木村君の机を一瞬見た後そう言うと「川島は暫くの間家に戻ることになった」と言い出した。
まさか川島君も家に連れ戻されたのだろうか。
だとしたら彼も谷崎様同様もうこの学園には戻れないのかもしれない。
木村君に関わるとこんなことになるの?
川島君が最後なの、それとも。
さっきの木村君の姿を思い出し、無意識に両手を握っていた。
「ハル」
そっと雅の手が僕の手に重なり、雅の手の温度で我に返った。
「ごめん、大丈夫」
雅の方を見て笑顔を作ると雅は笑って手を離した。
「今朝は騒ぎがあったそうだが、落ち着いて良識ある行動をとる様に、それでは今日の連絡事項を伝える」
先生は淡々といつもの様な態度だ。
持ち主不在の二つの机に僕はつい目が行ってしまうのに、そんなそぶりもない。
木村君は今何を聞かれているんだろう。
昨日の様に僕に苛められている話をするのだろうか。
木村君の万年筆は僕の机に入っていたんだっけ?
何も入っていなかった筈の机に、万年筆だけ木村君は入れたんだろうか?
「いっ」
左手を机の中に入れ、手探りで中を確認しようと手を滑らせた瞬間指先が何かに触れた。
「ハル?」
「何でもな、え?」
痛いような熱いような、一瞬の感覚に驚きながら反射的に何かを掴んで机の上に置いた。
何か引き剥がす様な感覚があったのは、セロハンテープだと分かった。分かったけど。
「ハル、なんで怪我してるんだ?」
「あの、えと」
机の上にあるのは、刃が剥き出しになったままのカミソリだった。
「机の中に貼り付けられてたみたい」
確率的にこれで怪我するのは稀な気がするけれど、僕はどうも運が悪いみたいだ。
「何を呑気に、手を」
言われて手を出すと、雅が傷の様子を確認しながらティッシュで流れ出る血を押さえてくれた。
「鈴森?」
「すみません、なんか怪我したみたい、です」
「え、あの、たった今なのか?」
「はい。あの、机の中にこれが」
触りたくなくて、机の上を指差すと先生が慌てて近寄ってきた。
「ナイフ?え、テープがついてるというのは、どういうことだ、誰かが故意にやったと?」
「多分」
これも木村君の仕業なんだろうか。
「勘弁してくれよ」
先生の心の声が漏れた。
そうだよね、僕もそう思う。
もう勘弁して欲しい。
「あ、悪い。これは意味は無くてだな」
「いいえ、ご迷惑お掛けして申し訳ありません」
謝ってしまうのは反射神経のなせるわざだ。
「絆創膏で足りるか? それとも保健室に行くか?」
「血が止れば多分」
「絆創膏で足りる傷じゃない」
先生に愛想笑いをしながら答えると、雅が眉をしかめてティッシュを交換していた。
真っ赤に染まったティッシュ。
一瞬むき出しになった傷からぽたりぽたりと落ちるのは、真っ赤な血。
あ、これ駄目だ。
血を見た瞬間に気がついた。これ貧血みたいな症状。
血が引いていく気配。
実際、そんなの貧血の症状には無いけれど、そういう感覚に陥っている。
「ハル、サロンに行こう医者を呼ぶから。ハル?」
ぽたぽた、ぽたぽた。
真っ赤な血が落ちていく、これ、今? 現実?
「ハル? おい、医者を今すぐ呼べ。ハル、俺の声が聞こえるか? ハル」
雅の声が遠くから聞こえる。
目の前に広がるのは、真っ赤な血の色?
「ハル、ハル。駄目だ、気を失っている。おい、これの指紋を取っておけ。それから理事長に状況説明だ」
「わ、分りました。皆ホームルームは修了。次の授業の準備をして待期だ」
慌ただしく動く気配。
ああ、僕は何も出来ない。何も。
「ああ、クソ。なんでハルばかり」
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僕のせいで雅を苦しめている。
「雅、ごめ……」
言葉は音にならないまま、僕は意識を手放した。
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