【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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番外編

IF テスター千晴は恋をする2

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 二千四十五年の元日は僕にとって試練の年の幕開けだった。
 バイトで地元に帰れなかった僕は、新年の挨拶をする為実家に電話して「すまない千晴。来期の授業料は払えそうにないんだ」というお父さんの謝罪を聞いた。
 会社の業績不振で年末で仕事をリストラされたお父さんは、退職金を元手に小さなお弁当屋さんを始める事にしたのだそうだ。
 僕は鈴森家の末っ子で兄二人と姉一人はすでに社会人だ。
 料理上手で道の駅で手製のおこわやお総菜を売っていた母、そのおこわやお総菜は結構人気でお弁当を売って欲しいという話も元々あったらしい。両親はまだ辛うじて四十代で今からなら店を開いてもやっていける体力もある。だけど予定外の出店には資金が少し足りなかった。
 一年休学して、その間資金を準備するから待っていてくれと言われてつい「実はそれくらいはバイトで貯めていた」なんて見栄を張ってしまった。
 お店なんて流行るかどうか分らないし、お金なんていくらあっても足りないだろう。
 兄さん達だって独立してそれぞれ部屋を借りて住んでいるからそんなに余裕があるわけない。だとしたら自分で頑張るというしか無かったんだ。

「もし三百五十万貰えるなら、卒業までの授業料払えるし、部屋代も出せる」

 お金を即急に用意しないといけなくて、どうしようと高額バイトのサイトを見ていたら見つけたのがVRMMOのゲームのテスターだった。
 価格が高いのは、十八禁BLゲームのテスターで、エッチィ状態になった時のデータを取る事を了承してくれる方という但し書きがあったからだ。
 ゲームを殆どやらない僕は知らなかったけれど、昔あったゴーグルを付けてゲームをして臨場感を楽しむなんてのじゃなく、今時のゲームは脳にゲーム世界が影響するらしい。

 映像を見て自分が体験している気持ちになるのじゃなく、なんて言うか夢を見ている感覚に近いらしい。
 ゲームによっては現実の自分の感覚を持ちながら、ゲームだと理解して体感するものもあるらしいけれど、僕がバイトとしてやったのは現実の自分の記憶は無く、ゲームの世界の一員として実際の自分は全く忘れてゲームを楽しめるものだった。
 つまり、現実の大学生鈴森千晴ではなく、ゲームの世界に生まれ変わったと思っているモブとしてゲームの世界を体験するというバイトを僕は引き受けた筈だったのだ。
 このゲームはノーマルエッチありの十八禁と特殊プレイや特殊性癖ハードプレイがある二十五禁の二種類があったけれど、僕はまだ十九歳の成人前だから選んだのは十八禁の方。

 エッチィ反応もデータとして記録されるのは恥ずかしいけれど、その分バイト代が高い。
 このバイト代一回と今までバイトで貯めてたお金を会わせたら、なんとか一年分の授業料が払える。部屋代は無理だけど、その位はこれからバイト探して頑張れば何とかなるかもしれない。
 あと、両親にはまだ言えてないけれど、恋愛対象が男性な僕はゲームで男性との疑似恋愛が出来るのもちょっと興味があったから、このバイトはお金だけではない利益もあったんだ。

「二十五禁ゲームになんでなったのか謎だけど、でもラッキーだよね。これでお金の心配しなくてすむ」

 騙された感が薄いのは、ゲームでの僕の相手雅が格好良かったっていうのがある。
 本気で僕好みだったんだよ、雅。
 ゲーム中、リアルな僕の記憶は無かった。
 リアルの記憶ありでもゲーム出来るらしいけれど、僕は記憶無し、完全にゲームのキャラになりきるバージョンのテスターだったから、ゲーム体感中はリアルは忘れてハルになりきってたけれど、ゲームが終わるとプレイ中の記憶は残って、あれがゲームだったという記憶だけが残る。

「なんか、凄い喪失感」

 これが未成年がプレイ出来ない理由なんだろうな。
 現実とゲームの両方の記憶があって、今凄く辛い。
 だって、現実には雅はいないし、僕は好きになってくれる人も好きな人もいないんだ。

「やばい、淋しい。泣きそう」

 雅の小姓として求められていたゲームの中とは違い、現実に雅はいない。
 ハルが不安になると抱きしめてくれた、あのたくましい頼りになる腕、優しい笑みに言葉。
 あんな幸せな時間はもう二度と僕の前には現れないんだ。

「雅」

 シャワーを浴びながら、涙が溢れるのを止められない。
 馬鹿だなあ僕、あれは仮想空間の産物。今回僕以外テスターはいないと聞いてるからあれはつまりゲームのキャラでしかないし、僕とした会話もすべてインプットされていたものなんだ。

「早くアンケート書いて帰ろう」

 テストが終わって今はテスト休み期間中だ。
 バイトをするからと誰とも約束をしていなかったから、アパートに帰っても一人。
 淋しい気持ちのまま、一人の部屋に帰るのはもの凄く淋しいけれど、どうしようも無かった。
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