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禁断の秘術
~1~
しおりを挟む城塞都市の傍らを流れる大河。
その北に広がる丘陵地帯には、かつて人の営みがあった。
しかし、住民は都市へと移住して久しく……。
崩れかけた石壁や苔むした礎石、割れ目から草木が芽吹いた石畳のみが、ここに集落があったことを今に伝えている。
月が中天に昇り、遺構に夜霧が漂う。
集落跡の一角にある丘の斜面には、地下へと通ずる石の門が口を開けていた。
そこは当時の住民たちが眠る墳墓の入り口であったが、封をしていたはずの石扉が無造作に脇へ打ち捨てられている。
……使う者がもはやいないはずの通路の奥からは、微かな活動の気配がした。
時の流れを物語る、冷ややかな石壁。
長く続く通路の先には、地下遺跡の中心部を占める大部屋が広がっていた。
奥行きのある部屋の壁面には死者たちへの鎮魂句が刻まれており、左右対称に並ぶ墓室への入り口が深い闇を湛えている。
そして、最奥に祀られているのは、冥府の主を象った神像。
――ここは、かつて「祈りの間」と呼ばれる場所だった。
しかし……。
死せる人々の魂の安寧を願う為の像は、無残にも破壊されていた。
祈る者もいなくなったはずの祭壇だが、何故か左右に立つ燭台にあかあかと火が灯されていて、供物の代わりに古びた巻物や大きな書物が広げられている。
明かりに照らされた壁には、不気味な影が古代文字をなぞるように揺らめいていた。
部屋の中にいたのは、乾いた返り血のような色のローブを纏う一方で、血の気の失せたような色をした肌を持つ禿頭の男。
その凹凸が乏しい顔には、紅い瞳孔が際立つ円眼。鼻孔だけがあるような鼻。薄い唇が裂けているかのように、口が横に広がっている。
冥府神に代わって広間の主となっている者の印象は、まさに「人の形をした蛇」そのものであった。
彼はここで、何をしていたのか。
床に所狭しと並べられていたのは、老若男女を問わぬ多種多様な死体。
絶命した直後かと見紛うほどに生々しいものから、干物のように干からびたもの、あるいは、肉が朽ちて骨しか残っていないものまで。
人々に忘れ去られたこの地で、これほどの骸をどうやって集めたのか。疑問を抱かずにはいられない光景であった。
不快な死臭と、くすぶる薬草の奇妙な香りが混ざり合う異様な空気の中、男は片手に奇妙なランタンを提げていた。
ランタンの中には、蝋燭の代わりに赤い火を宿した黒水晶が収められており、彼は時折、死体に近づいてはそれをかざして何かを施し、祭壇に広げた書物に戻っては結果を記して何やら思案に没頭する。
かつては魂の安寧を願う聖域であった場所は、今や死を冒涜する禁断の研究室へと変わり果てていた。
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