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禁断の秘術
~2~
しおりを挟む――ふいに、男の集中を乱す微かな何か。
墳墓の入り口に通じている通路の奥から、床石を叩く蹄の音が聞こえる。
通路から吹き込む季節外れに冷たい風が靄を伴い、祭壇の書物を照らす燭台の明かりを一層揺らした。
ゆっくりと、だが着実に明瞭になっていく音。……何者かが近づいているのは明らかだった。
やがて、通路の暗闇から姿を現したのは、青い馬に跨る黒い影のような人物。
闇色のつば広の帽子とマントは輪郭が陽炎のように揺らぎ、馬上の者がこの世の者ではないことを物語っている。
帽子の下には白銀に輝く髑髏の仮面が覗き、右手には槍の穂先に鎌の刃を併せ持つ長柄の武器が携えられていた。
彼が乗る馬の口から漏れる息は魂をも凍てつかせる冷気を含み、床に薄く靄を這わせていく。
「冥府の許しもなく不死者を生み出し、天地の理を乱そうとする者よ。……汝の行いは死を、そして神々を冒涜するものなり」
仮面の内より聞こえてくるその声は厳かに響きながらも、聞く者の心臓を握りつぶすような恐ろしさを伴っていた。
訪問者が来ても背を向けたままの無礼な男を、黒い騎士は空いた左手で指差す。
その腕に見えるは、黒革に腕骨を模した銀の板金が光る篭手。
翻った黒マントの下にも、同じく骨格を模した白銀のプレートが縫い付けられた黒の革鎧が覗き、腰には剣を帯びていた。
その姿は、まさしく伝承にある死神そのものであった。
「……冥府の使い、死神か。お前のような者が現れるとは、いよいよ私の研究が真理に近づいたというわけだな?」
神が定めし法を破る罪人は、自分を糾弾する者の方へ未だに振り向こうともせず。
ただ、手にしたランタンを腰紐の金具にゆっくりと掛けて、背中越しに嘲るような調子で言葉を返した。
「ところで、お前たち神々は死すべき者の定めとして、魂の浄化と輪廻を語るが……それに、何の意味がある? 魂という存在が根本的に不滅だというのならば、肉体を持ったままで永遠の生を追究しても、何ら不都合はあるまい!?」
変わらず天地の理を嘲笑う術師の言葉に、死神はただ静かに武器を握りなおす。
ここに至っても悔い改めもせず、自らの論理を振りかざす悪しき者に、何を言っても無駄だと判断したのだ。
「――もはや、汝の魂を刈り取り、冥府の判官のもとに連れて行くより他なし! 本来の寿命には早いが、汝の罪の報いと知れ!!」
「フフフ、そう簡単に捕まってたまるものか。死神よ、我が実験の成果をとくと見るがよいわ!!」
術師の挑発を合図に、鎌槍を水平に構えた死神騎士。その眼窩に灯る蒼き魂の火が、赤く染まる。
不死の探究者へ向かって必殺の一撃を放つべく、彼は馬を駆けさせた。
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