3 / 20
禁断の秘術
~3~
しおりを挟む
広い祈りの間を疾走し、不遜な男の背後に迫らんとする黒き騎士。
だが、標的たる彼も黙ってそれを受け入れはしない。迫り来る影にようやく振り向き、短く一言を唱えた。
腰のランタンがその呪に応じ、黒水晶の内に宿る赤い光が奔流となって溢れ出す。血管のような紅の稲妻が床を埋める死体たちへと走り、仮初めの命を吹き込んでいった。
生ける屍。動く骸骨。生気を啜らんとする呪われし亡者。
伝説に語り継がれる不死の怪物たちが、主を守るべく次々に起き上がって壁となる。
さらには、左右に並ぶ墓室の入り口からも亡者の群れが波のごとく押し寄せ、あっという間に死神騎士を取り囲んでいった。
長らく静止していた祈りの間は、今や蘇った死者たちの叫びや唸り声に満たされた。
馬上の相手を引きずり降ろそうと、数多の手が迫り来る。だが、群れる不死者たちの空しき願いが叶うことはなかった。
死神は手にした鎌槍を縦横無尽に振るい、行く手を遮る群れを、まるで水をかき回すかのように薙ぎ倒していく。
鎌の湾曲した刃が煌めくたびに亡者の残骸が撒き散らされ、槍の穂先が放つ雷光のごとき突きに、動く躯の骨は粉々に砕け散る。
並の兵士なら絶望に呑み込まれる屍の群れ。それを物ともせぬ騎士の姿は力強く、まさに荒波を断ち切って道を開く神の奇跡そのものであった。
――これで、詰みだ。
亡者の海に漂うかのように赤黒いローブが、禍々しい光を纏って揺れ動く。
しかし、群れの奥に潜んでいた討伐対象にまで辿り着くと、騎士は鎌槍を横一線に振り抜いた。
『!!』
両断されたはずの男に、手応えがない。
虚しく空を切ったような鎌槍の音。予期せぬ無感触に、死神の眼窩で火が微かに揺れた。
嘲笑の表情を浮かべたまま上下に分かたれた術師の姿は、次の瞬間、煙のごとくかき消える。
亡者たちの群れに紛れている間に、幻影と入れ替わっていたらしい。
死神騎士はまんまと、空蝉の術に嵌められていたのだ。
実体はいずこかと辺りを見回して、ようやく彼は気づく。
砕け散る骨の雨、亡者たちの咆哮の裏で、密かに石壁が動く掠れた音がしていたことに――。
破壊された神像の背後で、壁を模した隠し扉が開き、漆黒の通路が口を開けていた。
腕に抱えた背負い袋に、研究成果を記した書物や古代の伝承が記された巻物を押し込みながら、新たな道へ駆け込んでいくローブ姿の男。
彼は死神の方を振り返ると、蛇のごとき不敵な笑みを浮かべた。
だが、標的たる彼も黙ってそれを受け入れはしない。迫り来る影にようやく振り向き、短く一言を唱えた。
腰のランタンがその呪に応じ、黒水晶の内に宿る赤い光が奔流となって溢れ出す。血管のような紅の稲妻が床を埋める死体たちへと走り、仮初めの命を吹き込んでいった。
生ける屍。動く骸骨。生気を啜らんとする呪われし亡者。
伝説に語り継がれる不死の怪物たちが、主を守るべく次々に起き上がって壁となる。
さらには、左右に並ぶ墓室の入り口からも亡者の群れが波のごとく押し寄せ、あっという間に死神騎士を取り囲んでいった。
長らく静止していた祈りの間は、今や蘇った死者たちの叫びや唸り声に満たされた。
馬上の相手を引きずり降ろそうと、数多の手が迫り来る。だが、群れる不死者たちの空しき願いが叶うことはなかった。
死神は手にした鎌槍を縦横無尽に振るい、行く手を遮る群れを、まるで水をかき回すかのように薙ぎ倒していく。
鎌の湾曲した刃が煌めくたびに亡者の残骸が撒き散らされ、槍の穂先が放つ雷光のごとき突きに、動く躯の骨は粉々に砕け散る。
並の兵士なら絶望に呑み込まれる屍の群れ。それを物ともせぬ騎士の姿は力強く、まさに荒波を断ち切って道を開く神の奇跡そのものであった。
――これで、詰みだ。
亡者の海に漂うかのように赤黒いローブが、禍々しい光を纏って揺れ動く。
しかし、群れの奥に潜んでいた討伐対象にまで辿り着くと、騎士は鎌槍を横一線に振り抜いた。
『!!』
両断されたはずの男に、手応えがない。
虚しく空を切ったような鎌槍の音。予期せぬ無感触に、死神の眼窩で火が微かに揺れた。
嘲笑の表情を浮かべたまま上下に分かたれた術師の姿は、次の瞬間、煙のごとくかき消える。
亡者たちの群れに紛れている間に、幻影と入れ替わっていたらしい。
死神騎士はまんまと、空蝉の術に嵌められていたのだ。
実体はいずこかと辺りを見回して、ようやく彼は気づく。
砕け散る骨の雨、亡者たちの咆哮の裏で、密かに石壁が動く掠れた音がしていたことに――。
破壊された神像の背後で、壁を模した隠し扉が開き、漆黒の通路が口を開けていた。
腕に抱えた背負い袋に、研究成果を記した書物や古代の伝承が記された巻物を押し込みながら、新たな道へ駆け込んでいくローブ姿の男。
彼は死神の方を振り返ると、蛇のごとき不敵な笑みを浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
碧天のノアズアーク
世良シンア
ファンタジー
両親の顔を知らない双子の兄弟。
あらゆる害悪から双子を守る二人の従者。
かけがえのない仲間を失った若き女冒険者。
病に苦しむ母を救うために懸命に生きる少女。
幼い頃から血にまみれた世界で生きる幼い暗殺者。
両親に売られ生きる意味を失くした女盗賊。
一族を殺され激しい復讐心に囚われた隻眼の女剣士。
Sランク冒険者の一人として活躍する亜人国家の第二王子。
自分という存在を心底嫌悪する龍人の男。
俗世とは隔絶して生きる最強の一族族長の息子。
強い自責の念に蝕まれ自分を見失った青年。
性別も年齢も性格も違う十三人。決して交わることのなかった者たちが、ノア=オーガストの不思議な引力により一つの方舟へと乗り込んでいく。そして方舟はいくつもの荒波を越えて、飽くなき探究心を原動力に世界中を冒険する。この方舟の終着点は果たして……
※『side〇〇』という風に、それぞれのキャラ視点を通して物語が進んでいきます。そのため主人公だけでなく様々なキャラの視点が入り混じります。視点がコロコロと変わりますがご容赦いただけると幸いです。
※一話ごとの字数がまちまちとなっています。ご了承ください。
※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。
※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ
流石ユユシタ
ファンタジー
2032年、日本。
この国には異形の化け物――【怪異】が潜む。
だが、その事実を知る者は少ない。
表の世界は平穏を装い、裏でただひとつの集団――陰陽師が怪異を封じるために命を散らしてきた。
倒すことは不可能。
祓うことも不可能。できるのは、ただ寿命を削って封印することだけ。
そんな理不尽な世界へ、ひとりの少年が転生した。
そして彼だけは、人の身で容易に怪異を倒せてしまった。しかも本人はこの世界をRPGのシステムだと勘違い。
それにより、人類最悪の怪異領域すら「レベリング場所」と信じて突っ込んでいく。
──いずれ、彼は伝説と化す。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる