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城塞都市の怪異
~2~
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城塞都市の通商において、唯一にして最大の玄関口である交易所の船着き場。
下流の都市からの交易船が停泊する桟橋では、船乗りたちが慌ただしく荷物の上げ下ろしに追われていた。
だが、作業にあたっていた一人が、普段は見慣れぬ光景に気づく。
北の河岸から渡ってきた一艘の小舟が桟橋に寄せてくるのを、男は怪訝な顔で見守っていた。
大河流域の他都市から、河を上下する船が訪れるのはこの街の日常だ。
だが、対岸の丘陵地から人が渡ってくることは滅多にない。あちら側はいまだ蛮族の脅威が根深く、往来を支える規模の町など存在しないからだ。
今は平時で襲撃こそ下火であるが、点在するのは防衛線を張る国境守備兵の駐屯地のみだった。
物珍しい客を見るような視線を受け、小舟から桟橋へと移ってきたのは、膨れ上がった袋を背負い、深くローブを纏った人物だった。
任務を終えて帰還した兵ではないことは一目で判ったし、大きな荷を背負っているとはいえ、駐屯地に物資を運ぶ商人とも思えなかった。
巻物の端が収まりきらずに幾つも顔を覗かせているほどに、はち切れんばかりの背負い袋。
身に纏う赤黒いローブからは鉄錆と香の混じった妙な臭気が漂い、目深に被ったフードの陰には、薄笑いの弧を描く大口が見える。
そして、腰紐にある金具からぶら下がっているのは、赤い光が煌めく奇妙なランタンであった。
……いかにも怪しい風体の旅人だ。
ローブの出で立ちから、一見すれば巡礼の修道僧に見えなくもない。
しかし、その身からは隠しようのない禍々しさが漂っていて、見る者の本能に警鐘を鳴らしていた。
交易所を通り抜けていく姿を見て、交易船と倉庫の間を往来していた荷運びの労働者や、交易で商談中の商人たちがヒソヒソと囁きあう。
誰もが噂の種としそうな異様な人物であったが、彼が通り過ぎた途端、人々はすぐさま別の話題へと戻っていった。
なぜなら、今のこの街には彼の奇妙さを上回るほどに大きな噂――彼とはまた別の『禍』が、既に猛威を振るっていたからだ。
街を囲む城壁の中で、最も外側にある第三外壁。
その内側は最外郭と呼ばれ、東西南北で大まかに四分割されている。大河沿いの北地区は活気あふれる商業区域だ。
交易所に隣接する市場を、赤黒い衣の旅人は人込みをすり抜けるように歩き、喧騒の中に潜む声に耳を傾ける。
ここは耳ざとい商人たちが集う場所であり、彼らの噂話からは、あらゆる情報の断片が手に入るからだ。
東にある港湾都市から来た流行り病が、ついに街の南にある貧民街区も蝕み始めたという話。
西の山岳で採れる薬草が病に効くらしいが、富裕層の買い占めで高騰しているという話。
「……なるほど。これは次の研究段階に進むための実験体が、すぐにでも手に入りそうだ」
フードから覗く薄い唇が、耳の端に届きそうなほど歪んだ笑みを浮かべていた。
下流の都市からの交易船が停泊する桟橋では、船乗りたちが慌ただしく荷物の上げ下ろしに追われていた。
だが、作業にあたっていた一人が、普段は見慣れぬ光景に気づく。
北の河岸から渡ってきた一艘の小舟が桟橋に寄せてくるのを、男は怪訝な顔で見守っていた。
大河流域の他都市から、河を上下する船が訪れるのはこの街の日常だ。
だが、対岸の丘陵地から人が渡ってくることは滅多にない。あちら側はいまだ蛮族の脅威が根深く、往来を支える規模の町など存在しないからだ。
今は平時で襲撃こそ下火であるが、点在するのは防衛線を張る国境守備兵の駐屯地のみだった。
物珍しい客を見るような視線を受け、小舟から桟橋へと移ってきたのは、膨れ上がった袋を背負い、深くローブを纏った人物だった。
任務を終えて帰還した兵ではないことは一目で判ったし、大きな荷を背負っているとはいえ、駐屯地に物資を運ぶ商人とも思えなかった。
巻物の端が収まりきらずに幾つも顔を覗かせているほどに、はち切れんばかりの背負い袋。
身に纏う赤黒いローブからは鉄錆と香の混じった妙な臭気が漂い、目深に被ったフードの陰には、薄笑いの弧を描く大口が見える。
そして、腰紐にある金具からぶら下がっているのは、赤い光が煌めく奇妙なランタンであった。
……いかにも怪しい風体の旅人だ。
ローブの出で立ちから、一見すれば巡礼の修道僧に見えなくもない。
しかし、その身からは隠しようのない禍々しさが漂っていて、見る者の本能に警鐘を鳴らしていた。
交易所を通り抜けていく姿を見て、交易船と倉庫の間を往来していた荷運びの労働者や、交易で商談中の商人たちがヒソヒソと囁きあう。
誰もが噂の種としそうな異様な人物であったが、彼が通り過ぎた途端、人々はすぐさま別の話題へと戻っていった。
なぜなら、今のこの街には彼の奇妙さを上回るほどに大きな噂――彼とはまた別の『禍』が、既に猛威を振るっていたからだ。
街を囲む城壁の中で、最も外側にある第三外壁。
その内側は最外郭と呼ばれ、東西南北で大まかに四分割されている。大河沿いの北地区は活気あふれる商業区域だ。
交易所に隣接する市場を、赤黒い衣の旅人は人込みをすり抜けるように歩き、喧騒の中に潜む声に耳を傾ける。
ここは耳ざとい商人たちが集う場所であり、彼らの噂話からは、あらゆる情報の断片が手に入るからだ。
東にある港湾都市から来た流行り病が、ついに街の南にある貧民街区も蝕み始めたという話。
西の山岳で採れる薬草が病に効くらしいが、富裕層の買い占めで高騰しているという話。
「……なるほど。これは次の研究段階に進むための実験体が、すぐにでも手に入りそうだ」
フードから覗く薄い唇が、耳の端に届きそうなほど歪んだ笑みを浮かべていた。
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