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城塞都市の怪異
~9~
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「くそっ、後を頼むって言われても困るんだがな……」
若き兵士を追っていった隊長から部隊の指揮を任された、今夜の夜番を担当する班長は思わず愚痴をこぼした。
最強戦力である隊長の離脱は、この状況においてあまりに手痛い。
巡回で見知った馴染みの顔ぶれが、理性を失い獣となって襲いかかってくる。その現実に、兵士の多くがいまだに戸惑いを隠せず、中には武器を振る手が震えている者さえいた。
「顔見知りとはいえ、躊躇うな。……こうなったら、もはや元には戻れん。引導を渡してやるのが、せめてもの情けだ」
隊長から授かった言葉を、自分に言い聞かせるように繰り返す。
しかし、急所を突かねば倒せぬと分かっていても、いつもの対人訓練のようにはいかない。
四つん這いという体勢でありながら、まるで本物の獣のように素早く動く相手に、的確に当てることは難しい。
……それこそ、隊長のような手練れでもない限りは。
不死身の人獣を相手に、兵士たちは劣勢に追い込まれていく。
空を飛んでいた蝙蝠のような翼手の不死者も、死に体の餌を狙う腐肉喰らいの猛禽のごとく、屋根の上に音もなく降り立ち始めていた。
まさに絶望の状況であった。
……だが、突如として怪物たちの動きが一変した。
人型の獣たちは一斉にある方角へと向きを変えると、骨と皮ばかりの体から想像もできぬ跳躍を見せて、建物の上に飛び移り、屋根の上を四つん這いのままで走り去っていく。
屋根の上から隙を窺っていた人蝙蝠たちも、急に興味が失せたかのように、同じ方向へと飛び立っていった。
その方角は北東。
城塞都市の最外郭・東地区の辺りから、一陣の風のごとく屋根の上を移動してくる黒い影を、彼らは察知したのだ。
途上で数体の翼を持つ不死者が迎え撃つべく迫るが、その影に接触するや否や、青い火花と共に砕け散っていく。
やがて、貧民街を見下ろす一際大きい建物の上に闇色の者が降り立つ。……それは、青き馬に乗った冥府からの使いであった。
月に照らされながらも夜に溶け込むマントをたなびかせる騎馬の者を、屋根伝いに集まった人獣たちが、獲物を追い詰める狼の群れのごとく輪に囲む。
上空には、夜の灯に集う羽虫のように人蝙蝠たちが舞っていた。
異形たちが放つ獣じみた唸り声と耳障りな羽音が夜気を震わせる中、マントと同じく闇に同化するつば広帽の下、銀色の髑髏の眼窩には、自分を取り巻く相手を憐れむ青い火が灯っていた。
若き兵士を追っていった隊長から部隊の指揮を任された、今夜の夜番を担当する班長は思わず愚痴をこぼした。
最強戦力である隊長の離脱は、この状況においてあまりに手痛い。
巡回で見知った馴染みの顔ぶれが、理性を失い獣となって襲いかかってくる。その現実に、兵士の多くがいまだに戸惑いを隠せず、中には武器を振る手が震えている者さえいた。
「顔見知りとはいえ、躊躇うな。……こうなったら、もはや元には戻れん。引導を渡してやるのが、せめてもの情けだ」
隊長から授かった言葉を、自分に言い聞かせるように繰り返す。
しかし、急所を突かねば倒せぬと分かっていても、いつもの対人訓練のようにはいかない。
四つん這いという体勢でありながら、まるで本物の獣のように素早く動く相手に、的確に当てることは難しい。
……それこそ、隊長のような手練れでもない限りは。
不死身の人獣を相手に、兵士たちは劣勢に追い込まれていく。
空を飛んでいた蝙蝠のような翼手の不死者も、死に体の餌を狙う腐肉喰らいの猛禽のごとく、屋根の上に音もなく降り立ち始めていた。
まさに絶望の状況であった。
……だが、突如として怪物たちの動きが一変した。
人型の獣たちは一斉にある方角へと向きを変えると、骨と皮ばかりの体から想像もできぬ跳躍を見せて、建物の上に飛び移り、屋根の上を四つん這いのままで走り去っていく。
屋根の上から隙を窺っていた人蝙蝠たちも、急に興味が失せたかのように、同じ方向へと飛び立っていった。
その方角は北東。
城塞都市の最外郭・東地区の辺りから、一陣の風のごとく屋根の上を移動してくる黒い影を、彼らは察知したのだ。
途上で数体の翼を持つ不死者が迎え撃つべく迫るが、その影に接触するや否や、青い火花と共に砕け散っていく。
やがて、貧民街を見下ろす一際大きい建物の上に闇色の者が降り立つ。……それは、青き馬に乗った冥府からの使いであった。
月に照らされながらも夜に溶け込むマントをたなびかせる騎馬の者を、屋根伝いに集まった人獣たちが、獲物を追い詰める狼の群れのごとく輪に囲む。
上空には、夜の灯に集う羽虫のように人蝙蝠たちが舞っていた。
異形たちが放つ獣じみた唸り声と耳障りな羽音が夜気を震わせる中、マントと同じく闇に同化するつば広帽の下、銀色の髑髏の眼窩には、自分を取り巻く相手を憐れむ青い火が灯っていた。
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