神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

ちょっと強くなりました

私達は花祭りを楽しんだ。

屋台で串に刺さっている肉を買ってみんなで食べ歩きしたり、大道芸？を見たり。

お店もそろそろ全部見たかなって頃。端の方に並んでいる露店に見慣れない色鮮やかな果物らしきモノが置いてあって、私はそれを取ろうと手を伸ばした。

「リスター、これはなに……」

「触るな！！」

私が手に取ろうとしたモノを横からサッと奪って、店の主人が私を睨んだ。

「お前は何なんだ！？気持ち悪い……髪も目も真っ黒じゃないか！魔物か？魔物が人に化けてるのか！？売り物に触るんじゃない！！」

物凄い形相で叫ばれて、私は思わず後ずさった。

ーー気持ち悪い。

それは何度言われても頭の中が真っ白になるくらいショックな言葉だ。

「「なんだと！！！」」

リスターとジルが店の主人に掴みかかろうとするのを、龍斗さんが止める。

「おい、あんたさぁ、こんな可愛い魔物がいると思う？って言うか、魔物自体見た事あるのか？彩菜が魔物だって言うなら、俺は魔王だなぁ。」

龍斗さんは可笑しそうに笑った後、ギロリと店の主人を睨みつけた。

「……俺が魔王だったら、お前なんてとっくに殺してるけどな。」

龍斗さんに威嚇された店の主人は尻餅をつき、顔面蒼白になってガタガタと震えている。

「りゅうとさん。リスターとジルも、もういいよ。いこう。」

私は震えたままの店の主人に頭を下げると、リスター達を引っ張って歩いた。

「なんで？あんなに酷いことを言われたのに、なんで黙ってるの？アヤナは悔しくないの！？」

ジルは私の手を払い退けると、握り拳をプルプルと震わせ自分の事の様に怒ってくれている。

「くやしいっていうより、ショックかな。きもちわるいっていわれるのは、なんかいきいてもかなしいよ。」

「何回聞いてもって、前にも同じような事を言われたのか！？」

ジルが驚き、更に怒りの表情を浮かべた。

「でもね、まえにいわれたときにきづいたの。わたしには、わたしをあいしてくれてるひとがいっぱいいるんだって。だから、わたしはだいじょうぶだよ。」

私は微笑んでリスターを見る。
リスターは今にも泣き出しそうで、でも、それでも、とびきり優しい笑顔で私を見つめ返してくれた。

「アヤナ……。」

「ジルやりゅうとさんみたいに、じぶんのことのようにおこってくれるひともいるしね！」

ありがとう！って私がジルと龍斗さんに抱きつくと、ジルは固まって動かなくなっちゃって、龍斗さんは私の頭をガシガシと撫でてくれた。

リスターにすぐ引き剥がされちゃったけどね。

「ところでアレ、本当にあのままにして行っていいんですか？なんなら私がこの後、裏でシメときますけど。」

イナムさんが龍斗さんの肩を掴んでなんか言ってる。

シメるって何！？

「ああ、大丈夫だ。ほらあれ見てみろよ。周りの町人達が殺気立ってるだろ。アイツはもう、この先ここじゃあ店出せなくなるだろうな。」

「当然だよ。アヤナはこの町の人達みんなに可愛がられてるんだから。アヤナが許しても、町の人達はアイツを許さないと思うよ。」

リスターが微笑んで見る先には先程の店の主人がいた。微笑んでるリスターの目が笑ってなくてすごく怖い。

「イナムも怒ってたんだね。そんな事を言うなんて珍しいじゃないか。」

「当たり前です。こんな可愛らしい子に何という酷い仕打ちでしょうか。ここの国民の人間性を疑いますね。」

「まあ、そう言うなって。あんなゲスな人間は、よっぽどの片田舎の奴らしかいないからさ。」

ーー龍斗さん、この世界に来てから苦労したって言ってたよね。さっきので、また思い出しちゃってない？

大丈夫？って思いを込めて龍斗さんをジッと見つめると、私の視線に気付いた龍斗さんは、ニッと笑って私を抱き上げる。

「彩菜、お前も小さいのに辛い思いしてんだなぁ。」

「ふふっ。りゅうとさんほどじゃないよ。……りゅうとさんにも、いまはみんながいるからね。だいすきだよ。」

私と龍斗さん、２人にしか分からない複雑な思いがここにはある。
私が龍斗さんに抱きつくと、龍斗さんは私の背中をトントンと優しく撫ででくれた。

「よし！このまま噴水の前まで連れて行ってやる。」

「キャ～！すごい！はや～い！！」

龍斗さんは私を抱きかかえたまま、噴水目掛けて走り出す。

「リュートさん、アヤナを返して下さい！危ないでしょう！」

「待って！走らないでよ！」

龍斗さんの後ろを、リスター達が慌ててついて来る。

龍斗さんに楽しいねって笑いかけると、龍斗さんもそうだなって笑い返してくれた。


私も周りの人達のおかげで、ちょっとは強くなれてるのかな？