ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里

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私は大丈夫

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家に着いたサイラスは、人の姿に戻ると、服を着て私にホットミルクを作ってくれた。


「…………ありがとう。」


リビングで、受け取ったホットミルクをフーフーと冷ましてから、ひと口、ゴクリと飲む。


ーーはぁ、温まる。


チビチビとホットミルクを飲む私の向かいにサイラスが座り、眉尻を下げながら私を見つめる。


「ユーカ…………今日は、ごめん。」


「え?なんでサイラスがあやまるの?」


「…………町で、ユーカに嫌な思いをさせちゃったから……。」

「うん、だからそれ、サイラスはわるくないでしょ?」


申し訳なさそうに頭を下げるサイラスに、私は意味が分からず首を傾げる。


「この国の人達が自分とは違う人種を好まないのは、俺が一番よく分かっていたのに…………ユーカにそれを、ちゃんと伝えていなかったから……。」

「……サイラスも、あんなおもいをしたことがあったの?」


手に持っていたコップをテーブルに置いて、ジッとサイラスを見つめると、サイラスは小さく頷いた。

その表情はとても辛そうで、下唇をギュッと噛み、思い出した過去の記憶に必死に耐えているようだった。


「…………昔、母さんの生まれ故郷の町で……。母さんは、俺が獣人との間に出来た子供だという事を皆に秘密にしていたのに…………俺はまだ幼くて、変身するのを上手くコントロール出来ずに、町の人達の前で狼の姿になってしまったんだ。…………反応は、さっきの奴らと一緒だったよ。」


"化け物"、"出て行け"と、口撃され、家を襲撃され、サイラスとお母さんは町を出たらしい。

それから、何年も色々な町を転々とし、この森の奥深くに身を隠すようにひっそりと暮らし始めたそうだ。


そう話しているサイラスの、辛そうで、悲しそうな表情が、私の胸を締め付ける。

「サイラスは、ばけものじゃないよ。」

「…………うん。ユーカも、不気味なんかじゃないよ。」

「…………うん。」


サイラスも、私も、お互いに黙ったまま、ちょっとの間見つめ合っちゃって、お互いに苦笑した。


「取り敢えず、お風呂に入ろっか?」

「うん!」


沢山移動して、汗もかいたし、汚れてるだろうし。

嫌な事も全部一緒に洗い流しちゃおう!と、お風呂に入ってサッパリすることにした。


サイラスが手早く用意してくれたお風呂に一緒に入ると、あっという間に全身泡だらけにされ、サイラスの手によって隅々まで洗われる。


「ユーカのこの黒い髪、俺は好きだよ。」


途中、後ろから頭をゴシゴシと洗ってくれているサイラスが、手を休める事なく、そう言った。


「うん。」


頭を後ろに反らせてサイラスを仰ぎ見れば、銀色の綺麗な瞳が私を愛しそうに覗き込む。


「ユーカのこの黒い目も、俺は好き。」

「…………うん。」


泡を流すよ、と、頭からお湯を何回かかけられて、湯船の中に入れられる。

サイラスはパパッと全身を洗い終えると、自らも湯船に入り、私を膝の上に乗せて肩までお湯に浸かった。


向かい合わせに座って、サイラスをジッと見つめる。

サイラスは目を細めて、私の頭を撫でてくれた。


「サイラスは、わたしがきもちわるくない?」

「ユーカを気持ち悪いなんて、そんなの有り得ないよ。だって、こんなに可愛いのに。」


頭を撫でてくれていた手を、今度は頬に移動させ、スリスリと私の頬を優しく撫でる。

私も、サイラスの頬を両手で挟んで、綺麗な銀色の瞳を見つめた。


「まちでね、あんなこといわれて、ショックだったし、すっごくこわかったし、かなしかったんだけどね。あのとき、サイラスがわたしのためにおこってくれて……わたしをだきしめてくれてね、すごく、すっごくうれしかったんだよ。」

「……うん。」


「だからね。ほかのだれになにをいわれても、サイラスがいてくれれば…………わたしのそばに、サイラスがいてくれるだけでね、もうそれだけで、わたしはしあわせなんだってわかっちゃってるから。」

「…………うん。」

「だからね。わたしは、だいじょうぶだよ。…………ありがとう、サイラス。」

「…………うん…………うん。」


言いながら、ポロポロと涙が溢れて止まらなかった。

サイラスも、私の手を取って、ポロポロと涙を流す。



湯船に浸かりながら、涙が枯れるまで2人で泣いた。

二人とも、目を真っ赤にしてお風呂を出ると、サイラスがパパッと夜ご飯を作ってくれて。そして、私はそれをペロリと美味しくいただいたのでした。


夜、お布団の中でサイラスにくっついて就寝。


「今日は、お菓子買えなかったね。ユーカ、楽しみにしていたのに。」


サイラスが私の頭を撫でながら眉尻を下げる。


あ、そういえば、そうだったね。


「ううん、いいの。おかしより、サイラスのつくってくれるごはんのほうが、すきだから。」

「…………ユーカは俺を嬉しくさせる天才だね。明日は、ユーカの好きなモノを沢山作ってあげるよ。」

「やったぁ!んふふっ。なにをつくってもらおうかなぁ?」


ワクワクしながら作ってもらうご飯の事を考えていたんだけど。

サイラスの、私を包み込んでくれている温かな体温と、伝わってくるサイラスの心音が心地よくて…………。

私は考えている途中で、いつの間にか寝てしまっていた。




「おやすみ、ユーカ。大好きだよ。…………ユーカは俺が守るからね。」


優しく囁くサイラスの声に、寝ながらも無意識に反応し、サイラスにギュッとしがみ付く。

そんな私を、愛しそうに見つめて、ギュッと抱き締め返してくれるサイラスの目から、また涙が溢れていたのを、私は知らない。
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