96 / 96
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛されて幸せになりました
しおりを挟むポカポカと暖かな春の日。お城の中庭には心地よい風が吹き抜け、花壇に咲き誇る花々をユラユラと優しく靡かせている。そんな中庭で、私は久々に再会したお友達とお茶を楽しんでいた。
「それにしても、よく来てくれたわねー!何年ぶり?すっかりカッコいい大人の男の人に変身しちゃってビックリしたよー、ジル!!」
「フフッ、ありがとう。3年……4年ぶりくらいかな?ユーカにカッコいいなんて言ってもらえて嬉しいよ」
「だって本当にカッコいいんだもん。昔から女の子みたいに可愛かったけど、今は誰が見てもうっとりするくらいカッコいいよ!ねえ、サイラス?」
「……ユーカ、サイラスに同意を求めるのはやめてほしいなぁ。あ、ほら、今僕、スゴイ形相でサイラスに睨まれてるからね?」
すっかり逞しく、見目麗しい美男子に成長したジルと向かい合って話を弾ませる私の後ろでは、私をガシッと抱き込んでいるサイラスが鋭くジルを睨んでいた。
私を膝の上に乗せて一緒にジルとの再会の場に参加しているサイラスだけれど、とても再会を喜んでいるようには見えない。
後ろを振り返った私がサイラスの頬をスリスリと撫でると、眉間に皺を寄せジルを睨んでいたサイラスは一変してデレっと頬を緩ませ私を見つめた。そして頬を撫でる私の手を掴みその手のひらにチュッチュッとする。
「こらっ、サイラス!せっかく遠いところ来てくれたのに、ダメでしょ!」
「…………わざわざ来なくてもいいのに」
「サイラス~」
私がジト目を向けてもサイラスはジルを睨んだまま私をギュッと抱き込んでいて、そんな私達を見てジルが堪らずといったようにプッと吹き出した。
「サイラスは昔と本当に変わらないね。隣国の友人の結婚式に招待されたから、ここまで足を延ばしたんだよ。とても幸せそうな友人を見ていたら、なんだかユーカに会いたくなってね。元気そうでよかった」
「隣国の友人……って、もしかして昔話してくれた私と同じ黒髪黒目の女の子?」
「うん、そう。皆に祝福させて本当に……本当に幸せそうだった」
「そっかぁ、良かった」
飲んでいる紅茶の入ったカップへ視線を落とし目を細めるジルに、私も笑んでホッと安堵の息を吐く。
この世界で、黒髪黒目の人間は滅多に……というか殆どいなくて、私も会ったことがない。だから、ジルに話しを聞いているだけで全く知らない女の子なのに、なんか勝手に親近感を持っちゃってるんだよね。
「一度会ってみたいな。フータと旅をしていた時も黒髪黒目の人ってやっぱり見かけなかったし」
「そうだね、今度一緒に行こう。紹介するよ。……ああ、でも暫くは無理そうかな?」
フフッ、と笑いながらジルが私のお腹に目をやる。
サイラスが後ろから撫でている私のお腹はポッコリと膨らみ、ドレスを押し上げていた。
「う~ん、そうだねぇ」
「俺も行く。ていうか、ジルは行かなくていいよ。ユーカ、この子が大きくなったら3人で一緒に行こう。家族3人で」
「えぇ……僕の友達なんですけど」
「いい。家族団欒にジルはいらない。紹介状だけ書いといてくれればいいから」
「……サイラスは超親バカになりそうだよね」
ジルが呆れた様子で苦笑しているが、サイラスは無視して私のお腹を優しく撫でつつ頬に何度もキスを落としてくる。
サイラスは再会してから前以上にスキンシップが激しくなり、どんな時でも誰の前でも構わずにイチャイチャしてくるけど、私もそれが恥ずかしいながらに嬉しくもあるから、されるがままになっていた。
そんな私達にフータがいつも「バカップルめが」とジト目を向けてくるけど、気にしない。いいもんね。バカップル上等。
サイラスと再会してから獣人の国へと戻った私達は、国王様や皆から無事に帰国したことを泣いて喜ばれ、温かく迎え入れられた。
帰って来てからは、あれよあれよという間に忙しく時が過ぎ、3ヶ月後にはサイラスと結婚式を挙げていた。いや、早くね?と思ったけれど、サイラスがすぐにでも結婚したいと言ったことに国王様や他の面々が激しく同意し、急ピッチで準備をした結果らしい。私を野放しにしておくとまたどっかに行っちゃうかもって皆心配なんだって。
結婚はしたけど、子供を作るのは私の体がまだ成長しきっていないからって3年待ってくれた。サイラスは暫く私と2人ラブラブな結婚生活を送りたかったから丁度いいらしい。
で、今、私のお腹にはサイラスとの愛の結晶が宿っている。後2ヶ月程で生まれる予定だ。エヘヘ、楽しみ。
「家族旅行となると私も参加しないとなぁ。お祖父ちゃんとの思い出は沢山あった方が良いだろう。孫の子守りは私に任せていいぞ」
「……いやだ」
「え~、いいじゃんいいじゃん!お義父様も一緒に行こうよ!」
すっごく楽しそうだね!とサイラスを見ると不満そうに頬を膨らませていたから、ツンツンと頬を突いて潰しておいた。
「ユーカが行くなら我も行かねばな。ユーカは我の愛し子ゆえ、ついて行かぬという選択肢は無いでの」
おお、フータも!?それは心強いね!
「サイラス様が行くのであれば、私も行かなばなりませんね。なにせ私はサイラス様の側近ですから」
グレイソンさんまで来てくれるの!?嬉しい!
「それを言うなら私も行かないといけませんね。私は国王の側近ですし」
なんと!?メイソンさんも!?
「すごーい!!嬉しい!!みんなで行こう!!」
いつの間にか私達がお茶をしているテーブルを囲むように現れた皆が、次々に旅行への参加を表明していく。
私は嬉しくって思わずサイラスの首にギュウギュウと抱きついてしまった。
サイラスは私にギュッと抱き締められて苦しむ……どころかデレッと相好を崩して私の背中を優しく撫でてくれる。
「ユーカが嬉しいなら……皆で行くのもアリか」
「いやいや、ナシでしょ。獣人国の主要人物が揃って家族旅行とか……」
「「「「「なんとかなる」」」」」
サイラスの呟きにすかさずツッコミを入れたジルに、獣人国の主要人物達は揃ってこう返した。
「えぇ……この国、大丈夫?」
若干……いやかなり引き気味なジルが可笑しくて堪らず笑ってしまった。
そんな私を見て皆も笑い、笑い合う私達を見てジルもフフッと笑みをこぼした。
「ユーカは今、幸せ?」
「うん!とっても幸せだよ!」
いつだったか、フータとジルの国へ訪れた時、答えられなかったことをジルに再び問われ、私は胸を張って返事をする。
今の私は、自信を持ってはっきりと言えるよ。
とっても、とっても幸せだって。
私の答えを聞いて、ジルは更に笑みを深めた。
「もっと、もっと幸せになるよ!」
ね?と、サイラスを見つめれば、サイラスは見惚れる程に綺麗な笑顔で大きく頷いてくれた。
「もちろん。俺がユーカをもっともっと幸せにするよ。だからずっと、ずっとずっと俺のそばにいてね。俺の……俺だけのお姫様」
「ユーカ、愛してる」
「私も、愛してる」
右も左もわからない異世界に来た私ですが、昔、繰り返し読んでいた絵本の物語のように、大好きな人と出会い、愛し愛されて幸せになりましたとさ!
140
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる