侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里

文字の大きさ
55 / 87

まとめて面倒みようじゃないか

しおりを挟む
「お前のその魔力はなんだ?どうしてそんな面倒くさい魔力になっているのだ。」

「まあまあ、立ち話もなんですし、あっちの東屋で座って話しましょー。」

マリアとキリナムさんの手を掴んで、薔薇達の中にポツンと建つ白くて可愛らしい東屋に向かって歩き出す。
すぐにキリナムさんには手を振り解かれてしまったけど私は構わずに東屋へ行き、座ったベンチの横をポンポンと叩いてキリナムさんに座れとアピールしてみた。

「エリーヌの横、空いてますよー。」

キリナムさんの凍えるような冷たい目に耐えて、私はニッコリと微笑みながらベンチをポンポンと叩き続ける。

やがて、キリナムさんが渋々私の隣に腰掛けた。


フフン。私の粘り勝ちだね。


「お前は本当に図々しい。」

「エヘヘ。図々しいの上等!!私はこれからも図々しく図太く生きて、この世知辛い世の中を生き抜いてみせるのだ!!」

「子供の言うセリフではないな。」

握り拳を突き上げて声を高々に宣言すれば、キリナムさんはより一層冷ややかに私を見て言った。

「そうだよー。私はね、子供だけど子供じゃないの。」

「……?お前は何を言っている?」

「私ねー、見た目は7歳のいたいけな少女だけど、中身は大人なんだよね。一回死んでるから。」

「…………」

「川で溺れてね、死んじゃったんだ。前世を思い出した時はさすがに混乱したけどね。」

あははと笑う私を、キリナムさんはエメラルド色の綺麗な瞳で凝視する。

「……転生者か。そういう者が稀にいるとは聞いていたが、実際に会ったのはお前が初めてだな。」

「そうかー、キリナムさんみたいなご長寿な人でもお目にかかれない程、転生者ってのはレアな存在なんだねー。あ、私が転生者ってのは家族とマリアと従魔のクロしか知らないから、キリナムさんも他言無用でお願いします。」

私がペコリと頭を下げると、キリナムさんは私、マリア、私の首に巻き付いているクロを順番に見て頷いた。

「それを私に言うということは、転生者なのがお前の魔力と関係しているのだな?」

「うん。話すと長くなるから面倒くさ……複雑だから色々と省略するけど、だいたいそんな感じかな?」

「……今、面倒臭いって言っただろう。」

「うん?気のせい気のせい。それよりさー、リアムパパとキアンさんって本当に似てるよねー!!私、キアンさんに会ってビックリしちゃったもん。マリアもビックリしたよねー?」

私はマリアの顔を覗き込んでマリアに同意を求める。

マリアはチラッとキリナムさんを見ると、すぐに顔を背けて小さく頷いた。

「……そうですね。確かに少し驚きました。」

「でしょでしょー?ってことは、アリアさんにも似てるのかなぁ?兄妹だからやっぱり似てるのかなぁ?どうかなぁ?」

私は今度はキリナムさんの顔を覗き込んで答えを求める。

「…………」

 
ダンマリですか。そうですか。


「……高祖母は、父が生まれた時にはまだ健在でした。祖父から聞いた話しでは、目に入れても痛くないほどに可愛がっていたそうです。」

この状況を見かねてか、マリアが話し始める。
ーーマリア、あんたは良い子や。
 


「父を見ている高祖母は、時折寂しそうな……悲しそうな表情でどこかに思いを馳せているようだったと、祖父は言っていました。」

マリアも昔に思いを馳せているのか、そう言いながら目を細めた。

「そっかー、きっとキリナムさんとキアンさんのことを思っていたんだね。」

「……そうだと思います。」

小さく頷くマリアの手を握って、私は黙ったままのキリナムさんを見上げる。

「私ね、前世を思い出した時に思ったのは、まず両親のことだったの。あぁ、私は親より先に死んじゃったんだなって。悲しませてごめんなさい……辛い思いさせてごめんなさい……親不孝でごめんなさいって。きっと、アリアさんもそうだったんじゃないかな。」

「エリーヌ様……。」

「えへへ。経験者は語るってやつ?」

目に涙を溜め、私の手をギュッと握りしめるマリア。
そんなマリアの手を、私もギュッと握り返した。

「…………他言無用と言っている転生者だということを、お前が私に教えたのは……それを私に伝えたかったからか?」

「えー?違うよ?私は自分の魔力の説明をしたかっただけだもん。でもね、親を遺していく気持ちは、きっと……アリアさんも同じだったんじゃないかと思ったの。」


ーー人間に恋をして、寿命が短くなったアリアさん。
私みたいに、突然親より先に死ぬんじゃなくて、アリアさんは分かってた。
キリナムさんよりも、キアンさんよりも、うんと早くに死んじゃうって。

自分で選んだ道だけど、きっと、沢山辛かったはず。悲しかったはず。


「…………私はどうしてもあの子が……アリアが人間を伴侶として選んだのを認めることが出来なかった。けれど……もしあの時、私が結婚を許していたら……アリアは苦しまずに済んだのだろうか……。アリアの子や孫達は苦労せずに済んだのだろうか……。」

「そうだねー。キリナムさんやキアンさんが小妖精を使ってコソコソ様子を見に行かせなくても、アリアさんが子供や孫を連れて会いに来てくれてたかもね。」

ウンウンと頷きながら言う私を、キリナムさんは冷ややかな目で見下ろす。


なんだよ。もうその目には慣れたから怖くないもんね。


「……お前は本当にズケズケと物を言うな。」

「えー?だって本当のことじゃん。でもさ、それを後悔しているなら、これからはマリア達と仲良くすればいいんじゃないの?」

「…………仲良く……。」

「うん。せっかくこうやって初対面出来たわけだし、これを機にもっともっと交流を深めて仲良くなればいいんだよ。」

ジッと私を見つめて話しを聞いていたキリナムさんは、東屋を取り囲むように咲く薔薇に目を移した。

「アリアはそれを許してくれるだろうか……。」

「当たり前だよ!そんなの喜んでくれるに決まってるじゃん!」

しんみりとするキリナムさんの背中をバシバシと叩いてそう言えば、キリナムさんにギロリと睨まれる。

「お前は……何故そんな自信満々に言い切れるのだ。」

「えー?だってマリアのひいひいおばあちゃんだよ?絶対に良い人だもん。マリアの身内に悪い人はいない!!」

私が意気揚々と胸を張って言うと、キリナムさんは目を瞠り、次の瞬間、周りに咲き誇るどの薔薇よりも綺麗な笑顔を見せた。

「おかしな奴だ。……お前のような者がいるのならば、人間もそこまで毛嫌いする生き物ではないのかもしれないな。」

「マリア達家族がいるしね!」

「そうだな。……マリアよ。お前達親子さえ良ければ、いつまででもここに居てくれてかまわないぞ。」

「え!?マリアは私と一緒に帰るでしょ!?」

「たった今、お前が交流を深めろと言ったではないか。」

「いやいや!それは言ったけどさっ!」


マリアと離れ離れになるなんて考えてなかったんだもん!どうしよう!?


オタオタする私を、キリナムさんは面白そうに目を細めて見ている。

「私がエリーヌ様のお側を離れることはありません。キリナム様、いくら可愛いからと言ってエリーヌ様で遊ぶのはやめて下さい。」

「フフッ。可愛くはないが、面白い奴だ。気に入ったぞ。」

「……は?エリーヌ様は世界一可愛いですけど。」

「はいはいっ!マリアも、もうそれいいから。2人とも仲良くねっ!!」

私は慌てて2人の間に割って入る。

キリナムさんの私が可愛くない発言で、またマリアの変なスイッチが入るところだったよ。危ない危ない。


アリアさんにも喜んでもらえるように、これからはみんなで仲良くなっていこうね!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...