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人たらしって聞こえが悪いよね

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もう夜も更けてきたから寝なさいとキリナムさんに言われて、マリアと手を繋いで部屋に戻った。

翌朝、スッキリと目覚めた私は、食欲旺盛過ぎてグーグーと鳴くお腹を摩りながら、昨日の夕食もみんなそこで食べたであろう食堂へと向かう。

食堂へ着くと、既にみんな席に座っていた。

「おはよーございまーす!」

「おはようエリーヌ。朝から元気だね。よく眠れたかい?」

キリナムさんの隣に座っているキアンさんにニッコリ微笑まれる。

朝から安定の美しさですな。


「うん!お腹ペコペコ~!」

「フフッ。おはようエリーヌ。今日も朝から可愛いね。」

キリナムさんと対面して座っているセディの横が私の席らしい。

キラッキラな笑顔を向けてくるセディ。
朝から安定の眩しさですな。


私が席に着くと、テーブルには食事が次々と運ばれてきた。

どれも美味しそう。グーグーと鳴くお腹の虫を早く黙らせないとね。


「好き嫌いしてマリアを困らせるんじゃないぞ。何でも食べないと、いつまでもチンチクリンなままだからな。沢山食べろ。」

パクパクとパンやスープを口に運んでいる私を、キリナムさんが目を細めて見ている。

「チンチクリンじゃないもん!っていうか、好き嫌いなんていつもしてないよ。ねえマリア?」

「はい。エリーヌ様は何でも美味しそうに召し上がります。」


私達の会話を聞いて、みんな目を丸くして驚いていた。
キアンさんなんて口をポカンと開けて呆然としている。


「……エリーヌ、いつの間に長と仲良くなったの?」

「え?あー、昨日の夜に散歩してたらバッタリ会っちゃってさー。少し話したんだよね。」

「少し?……ふ~ん。少しね……。」


おや?どうした?急に不機嫌になっちゃって。


私がセディの不貞腐れたような口調に首を傾げていると、キリナムさんがクスクスと笑い声を漏らした。

「私を怖がらすにズケズケと言いたい事を言う奴はお前くらいだ。その太々しい態度やチンチクリンな姿は、なかなかに面白い。」

「だからチンチクリンじゃないってば!マリア!マリアもなんとか言ってよ!」

「キリナム様。朝からエリーヌ様をいじめて遊ぶのはおやめ下さい。」

「フフッ。マリアを使うとは卑怯な奴だ。」

「…………父さんが笑ってる……。」

笑うキリナムさんを見つめたまま呆然としているキアンさんがボソリと呟く。

その声に反応してキリナムさんがキアンさんを見た。


「キアンよ……。アリアは私達に良き家族を遺していってくれたのだ。これからは表立ってこの者達を共に見守り、共に生きて行こう。」

キアンさんを見つめるキリナムさんの目は、とっても優しく感じる。

それはキアンさんにも充分に伝わったみたいで、キアンさんの宝石のような綺麗な目からはポロポロと涙が溢れ落ちている。

「はいっ!はいっ……。」

何度も何度も頷くキアンさんは、暫くの間涙を止めることが出来なかった。




計3日間程エルフの国に滞在して、私達は帰ることになった。

キアンさんにエルフの国を色々案内してもらったり、沢山話したりして、リアムパパもにぃにもマリアも、かなりキアンさんと打ち解けられたようで凄く嬉しい。


帰国する直前。キリナムさんとキアンさんとお別れする寂しさと、また馬車に揺られて移動する辛さを思い出して私がドンヨリしていると、キリナムさんに可笑しそうにクスクスと笑われてしまった。

「なんだ、帰るのが嫌なのか?ならばお前もずっとここにいればいい。そうだ、お前がいればマリアも必然的にここにいる事になるからな。私は大歓迎だぞ。」

「それは絶対に駄目です。」

私が返事をする前に、セディが身を乗り出して即答する。

おい。なんでセディが答えるんだよ。

「エリーヌは僕の有力な婚約者候補なので、一緒に帰ってくれないと困ります。」

「はっ!?ちょっとセディ……」


いきなりなんてこと言うんだよっ!


私がギロリと睨むと、セディはニッコリと微笑んで私にそっと耳打ちをする。

「相手はエルフの長だよ?エリーヌは気に入られちゃってるんだから、先手を打っておかないと。後々厄介な事になっても困るでしょ?っていうか、絶対厄介な事になるに決まってるんだからね。」

「な、なんで言い切れるのさ。そんなのまだ分からないじゃん!」

「…………エリーヌはそろそろ自覚した方がいいと思うんだよね。」

「え?何を?」

「自分が天然人たらしってことをだよ。」


おおぅ、人たらしってなんだよ。なんか嫌なんですけど!!


「どうした?」

私とセディがコソコソと話しているのにキリナムさんが訝しげに眉を顰めた。

私は慌てて首を横に振ると、仕方なくセディに話しを合わせる事にした。

「そ、そうなんだよね!そんな訳で私は帰らないといけないんだよ。だからさ、今度はキリナムさんとキアンさんが遊びに来てね!」


苦渋の決断だけど、後々面倒な事になるのは何としても避けたい。

「そうか。それならば仕方ない。お前達がいるならば、人間の国を訪れるのも悪くないかもしれないな。アリアの暮らしていた場所もこの目で見てみたいし…………そうだな。次は私達がそちらに行こう。」

「うん、来て来て!2人ならいつでも大歓迎だよっ!ねえ?みんな?」

私は後ろを振り返りみんなを見る。
みんなは満面の笑みを浮かべて頷いた。

「「「はい。」」」

「もちろんだよ。」

「だって!!待ってるから絶対来てね?約束だよ!」


嬉々として私がそう言うと、キリナムさんとキアンさんはとっても嬉しそうに顔を綻ばせた。

「ああ、約束だ。」




私達の乗る馬車が見えなくなるまで見送ってくれていた2人に手を振り、私達はエルフの国を後にしたのだった。
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