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第71話 濃霧を漂う者⑥
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「――てやぁっ!」
エトは両手の剣を舞うように扱い、飛来する氷の槍を一つ残らず叩き落とした。
それと入れ替わりになるように、近接型の敵が高速で迫る。
「うにゃはっ!」
スゥがそれを斧で受け、瞬時に叩き返す。
弾かれた敵は空中で一回転すると、糸に引かれるように後退した。
手数の多いエトは、複数の飛来物にも対応できる。一方で、重い一撃にはスゥが適任だ。
リーシャは冷静に状況を判断しつつ、大きく息を吸った。
「エト、そのまま遠距離攻撃を! スゥは近接のみに集中して、可能なら受けて留めて!」
「うんっ!」
「ショーチしたのだ!」
そうして二人が外に構えるのと反対に、マイアは素早いステップでリーシャのそばに移り、背中を合わせるように身を寄せた。
「リーシャ、推測なのですが……この霧自体、認識阻害系の魔法だと思われます。魔力が拡散されて、『目』が使えません。」
「――!!」
たしかに、知覚を乱す認識阻害系の魔法は、視界をぼかす霧と相性がいい。それらをまとめて魔法にするというのは、理にかなっている。
しかし、それをこれほど広範囲に展開できるということは、高度な魔法技術か、膨大な量の魔力か、あるいはその両方を持っているということだ。
状況が状況なら、絶望してしかるべき情報。
でも、今は、違う。
「マイア、代わりに回復役をお願い。久しぶりに、ちょっと無茶するわ。」
「……! わかりました……けど。」
マイアは弓を背に移すと、リーシャの一歩前に出て、肩越しに視線を送った。
「無茶にならないギリギリで、お願いするのです。リーシャ。」
「ふふ……っ、難しいこと言うわ。」
リーシャはにっと笑うと、杖を真っ直ぐに構え、魔力を込め始めた。
氷の槍が飛来すれば、エトが叩き落とす。
氷の爪が接近すれば、スゥが弾き返す。
誰かが怪我をすれば、マイアが癒す。
そうした攻防が、続く。
一人では、勝てないだろう。
二人でも、三人でも、きっと無理だ。
でも、四人なら。
全員が、揃ったのなら。
「ぐぅ……っ、ここ、なの、だぁっ!」
スゥは氷の爪を、横に構えた斧で受けると、そのまま巻き取るように内側に引き寄せた。
敵は一瞬怯んだが、すぐにもう一方の爪の追撃が走る。
「させないっ!」
それを、飛び込んだエトの二つの刃が逸らす。
そのままでは味方を巻き込んでしまうためだろう、後方の亡霊の攻撃が、一瞬止まった。
指示にあった瞬間。
二人は、ほぼ同時に叫んでいた。
「リーシャちゃんっ!」
「リーシャぁっ!」
「……いいわ。二人とも、離れて。」
その一声に、エトとスゥは、弾けるように左右に飛んだ。マイアも素早く後ろに回る。
開けた道には、杖を構えたリーシャが一人。
目の前には、体勢を崩した、近接型の敵。
その直線上に、攻撃を止めた、遠距離型の敵。
四人でないと成し得なかったであろう、理想の配置。
リーシャは、すぅと息を吸い、左手を真横に突き出した。
「爆ぜて廻れ――『ファイアストーム』ッッ!!」
真っ直ぐ杖を構える右手に、魔力を込めた左手を打ち付ける。
杖の表面に青い火花が散り、叩きつけた方向へと回転する。それは次の瞬間、弾けるように赤い炎の渦へと変化した。
渦は周囲の霧を巻き込みながら、巨大な炎の竜巻となって、視界の一切を赤に染めていく。
「ふ、ふおおお! なんじゃこりゃなのだ?!」
「しゅ、周囲の霧の魔力を、取り込んでいるのです……けど、この威力……!」
「だ、だだ、大丈夫なのかな、これ……っ?!」
三人が動揺する中、二体の亡霊は瞬く間に、火炎の渦に巻き込まれていった。
エトは両手の剣を舞うように扱い、飛来する氷の槍を一つ残らず叩き落とした。
それと入れ替わりになるように、近接型の敵が高速で迫る。
「うにゃはっ!」
スゥがそれを斧で受け、瞬時に叩き返す。
弾かれた敵は空中で一回転すると、糸に引かれるように後退した。
手数の多いエトは、複数の飛来物にも対応できる。一方で、重い一撃にはスゥが適任だ。
リーシャは冷静に状況を判断しつつ、大きく息を吸った。
「エト、そのまま遠距離攻撃を! スゥは近接のみに集中して、可能なら受けて留めて!」
「うんっ!」
「ショーチしたのだ!」
そうして二人が外に構えるのと反対に、マイアは素早いステップでリーシャのそばに移り、背中を合わせるように身を寄せた。
「リーシャ、推測なのですが……この霧自体、認識阻害系の魔法だと思われます。魔力が拡散されて、『目』が使えません。」
「――!!」
たしかに、知覚を乱す認識阻害系の魔法は、視界をぼかす霧と相性がいい。それらをまとめて魔法にするというのは、理にかなっている。
しかし、それをこれほど広範囲に展開できるということは、高度な魔法技術か、膨大な量の魔力か、あるいはその両方を持っているということだ。
状況が状況なら、絶望してしかるべき情報。
でも、今は、違う。
「マイア、代わりに回復役をお願い。久しぶりに、ちょっと無茶するわ。」
「……! わかりました……けど。」
マイアは弓を背に移すと、リーシャの一歩前に出て、肩越しに視線を送った。
「無茶にならないギリギリで、お願いするのです。リーシャ。」
「ふふ……っ、難しいこと言うわ。」
リーシャはにっと笑うと、杖を真っ直ぐに構え、魔力を込め始めた。
氷の槍が飛来すれば、エトが叩き落とす。
氷の爪が接近すれば、スゥが弾き返す。
誰かが怪我をすれば、マイアが癒す。
そうした攻防が、続く。
一人では、勝てないだろう。
二人でも、三人でも、きっと無理だ。
でも、四人なら。
全員が、揃ったのなら。
「ぐぅ……っ、ここ、なの、だぁっ!」
スゥは氷の爪を、横に構えた斧で受けると、そのまま巻き取るように内側に引き寄せた。
敵は一瞬怯んだが、すぐにもう一方の爪の追撃が走る。
「させないっ!」
それを、飛び込んだエトの二つの刃が逸らす。
そのままでは味方を巻き込んでしまうためだろう、後方の亡霊の攻撃が、一瞬止まった。
指示にあった瞬間。
二人は、ほぼ同時に叫んでいた。
「リーシャちゃんっ!」
「リーシャぁっ!」
「……いいわ。二人とも、離れて。」
その一声に、エトとスゥは、弾けるように左右に飛んだ。マイアも素早く後ろに回る。
開けた道には、杖を構えたリーシャが一人。
目の前には、体勢を崩した、近接型の敵。
その直線上に、攻撃を止めた、遠距離型の敵。
四人でないと成し得なかったであろう、理想の配置。
リーシャは、すぅと息を吸い、左手を真横に突き出した。
「爆ぜて廻れ――『ファイアストーム』ッッ!!」
真っ直ぐ杖を構える右手に、魔力を込めた左手を打ち付ける。
杖の表面に青い火花が散り、叩きつけた方向へと回転する。それは次の瞬間、弾けるように赤い炎の渦へと変化した。
渦は周囲の霧を巻き込みながら、巨大な炎の竜巻となって、視界の一切を赤に染めていく。
「ふ、ふおおお! なんじゃこりゃなのだ?!」
「しゅ、周囲の霧の魔力を、取り込んでいるのです……けど、この威力……!」
「だ、だだ、大丈夫なのかな、これ……っ?!」
三人が動揺する中、二体の亡霊は瞬く間に、火炎の渦に巻き込まれていった。
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