天気になった少女と、僕の話を端々。

おろしちみ

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Season.01 戒晴

Diary.06 若芽、我が夢──progress.

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「どういうわけか、私の周りの天気によって性格──というかもはやそれぞれの天気に人格があって、それが代わる代わる出てくるみたいなことらしいの。今までは普通だった私は、何か決定的な変化があって、『晴れの日限定』の人格になっちゃったみたい。日本だと圧倒的に晴れの日の割合が多いからそこは私が主人格になるみたいだけど」
 僕が知っている晴子はるこは、今の染雲そめぐも晴子を形成する人格の一部にすぎなくなった、ということか。
 それは、まあ、なんだ。少し寂しいな。
「曇りの日は晴れ認定されるみたい。日が照ってない日でも私は私のままだから。雪と雨の私にはなったことがある。その間、晴子である私は頭の中からまるで『染雲晴子』っていう映画を見るみたいにいるの。ま、実質活動が始まるのは私次第だから、ちゃんとこの変な体質のことが分かってから色んなことを始めたい。事務所のプロジェクトに関しても、後から言うことにするよ」
 晴子はいきなりブランコを漕ぎだして、歌を歌い始めた。
 誰もが聴けば幸せになる、山水のような透き通った歌声。
「しあわせなら手をたたこう、しあわせなら手をたたこう」
 誰もが知る不朽の童謡「しあわせなら手をたたこう」。しかし、これはそんなありきたりな──言うならば陳腐で俗な「しあわせなら手をたたこう」ではない。染雲晴子の曲のように、彼女の曲であるかのように自由に歌う。強弱、抑揚、息継ぎ、その全てが自由に飛び回っている。だからこそ、幸せな気分になれる。
 僕はこの幸せを、これまで最前列の最高のVIP席で聴いてきた。中学でクラスが同じでない年は登下校ぐらいしか接点がなかったからその間は聴けなかったが、それ以外はいつだってこの歌声を、一番近い距離で聴いてきた。簡単に言えばそう。
 僕はこの歌声に、命を救われたのだ。
 何も大袈裟な表現なんかではない。晴子も、自分の歌声で僕が救われたことを知っている。これは本当に間接表現でも婉曲表現でもない。
「やっぱり綺麗だね」
 元気よく歌う晴子には聞こえないくらいの小さな呟きで、僕は言った。
 影が一つ、大きく揺れている。
 春空の夕に幸せを紡ぐ彼女は、紛れもなく僕の知っている染雲晴子だ。
 だけど、しかし。
 まだ僕の知らない染雲晴子が何人もいる。その事実をまだ受け止めきれていない。事実は確かにあるのかもしれないが、まだこの目で見ていない以上、信じようと思っても心のどこかで怪しんでしまう。これが所謂、シュレディンガーの猫というやつか。まあ何はともあれ、色んなことを始めたくても設楽に話を聞かないことには始まれない。号砲はまだ鳴らない。なら今一度、fifstarのおさらいをしておくか。どうせ退廃的に潰れる冬休みなら、晴子のために使うのも悪くない。──いや、これはただの自分のためなんだけど。
 とかく、今日のところは惜しいけれど晴子と別れた。公園を境に、僕らは反対向きに歩き出す。懐かしさを噛みしめながら、にやける口をぐっと閉じた。
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