10 / 13
Season.01 戒晴
Diary.09 トリセツ──manual,
しおりを挟む
登校してしばらく歩いていた。卯月は友達といつも登校しているから、中学時代から登校は時々晴子と一緒に行くだけで基本は一人だった。友達が少ないわけではないけど、登校の時間は音楽を聞いていたいのだ。徒歩十五分。自転車を使うとイヤホンをしてはいけないしまだ少し寒いので今日は歩きだ。通学用のプレイリストをシャッフル再生する。月額約千円を払ってちゃんと聴いている。
同じ制服の生徒が周りに増えてきた。目の前にそびえ立つは、創立百周年を一昨年に迎えた、私立彩城学園大学附属高校第1校舎だ。彩城学園は医療や学問において遡れば明治の時代から地位を築き上げてきた一族で、その彩城一族が建てたのが僕のこれから通うことになる高校だ。
正門から校舎まで真っ直ぐ一直線に伸びる桜並木は、卒業式の時とは違って桜がもう散ってしまっているのでありがたみは感じられない。というかこの入学自体、ありがたみを感じられない。同じ彩城学園大学附属中学から高校への連絡進学は面接だけだったから。
連絡進学を希望せずに他の高校へ行った人も数人いる。彼らはもっと専門的なことを学びたくて専門学校へ行くとか、ただでさえ偏差値の高い彩城よりももっと上を目指す人たちだ。わざわざ茨の道を進まなくてもいいのに、と思うが僕と見据えている明日が違うのだろう。
僕は自分の教室がある二階に上がる。一年生教室のくせして二階にあるのは、一階は職員室やら家庭科室やらなどがあるためだ。校舎は中学校と繋がっているから、中学の時の先生ともすれ違う。クラスは一年B組だった。
染雲晴子は……ないか。仕方ない。
階段を上がって手前がA組なので一つ教室をすっ飛ばして自分の教室に入る。高校の教室に入ったことはないので、とても新鮮な気持ちになる。旅行に行ってホテルに入った時のようなワクワクが胸に押し寄せる。
「碧おはよー」
教室の前の方で駄弁っていたのは、お調子者の阿賀沢灯夜。中学二年、三年と同じクラスで、運動神経が良くて陸上部のエースだった。いつもグループの中心には灯夜がいて、灯夜がしたボケに対して僕がツッコむという構図がもはや定番となっていた。
アイドルオタクな僕でも、一応はコミュ力はある方だ。アイドルだけでなく色んなジャンルの音楽を聞いていたり、メジャーからマイナーなものまで幅広くサブカルチャーは網羅しているので、話が合わなくなるということはないし、素早い頭の回転で的確なツッコミを入れることもできる。って何を僕は言っているんだ。
まあでも、どうしても灯夜みたいに発信する側にはなれない。僕は灯夜や他の誰かが言ったことをキャッチして的確にリリースすることしかできない。でもまあそれで喜んでくれている人がいるならいいかと思ってしまう。僕にはどうも、こっち側のスペシャリストを貫いた方が良さそうだ。
「おはよう、灯夜。髪切ったでしょ? 春休み前とちょっと雰囲気が違う」
「んだよ、そういうの女子に言えっての。でも碧ってそういうの気付くのはえーよな」
確かに、灯夜の言う通りだ。こういうのは女子に言ってあげると効果的なのだそうだ。過去に晴子も言っていたが、些細なことに気付いてあげるのが鉄則だそう。女子のトリセツにも書いてあった気がする。
「また碧と一緒のクラスかよー。うんざりだわ」
「ヘラヘラすんな。やるんだったら最後までちゃんとやれ」
「一番嬉しいのは碧なくせに」
「……そうだよ。正直、灯夜と一緒でめっちゃ安心した」
「えっ……」
「何照れてんだよ気持ち悪」
灯夜が軽く僕のブレザーのネクタイを掴んでやってくれたな、と苦笑いする。それを見て周りの友達も笑う。こんな感じで、ずっとやってきた。これが僕らの距離感で、先生も生徒もみんなが知っている。だから怒りはしない。時々二人ともラインを超えてしまうことがあるが、それはもちろん二人だけの喧嘩としてちゃんと正面からやり合って、また仲直りする。灯夜とは住んでいる世界や性格が違うけど、やっぱり親友だと思える。
晴子のことが気になって他のクラスも見ていると、晴子がA組に入って行くのが見えた。
「あっ、晴子! また一緒のクラスで嬉しい~」
A組の女子グループの方に晴子が混ざっていく。僕はそれを遠目で見ながら尊敬する。やっぱり晴子は凄いなぁと他人事のように思った。
同じ制服の生徒が周りに増えてきた。目の前にそびえ立つは、創立百周年を一昨年に迎えた、私立彩城学園大学附属高校第1校舎だ。彩城学園は医療や学問において遡れば明治の時代から地位を築き上げてきた一族で、その彩城一族が建てたのが僕のこれから通うことになる高校だ。
正門から校舎まで真っ直ぐ一直線に伸びる桜並木は、卒業式の時とは違って桜がもう散ってしまっているのでありがたみは感じられない。というかこの入学自体、ありがたみを感じられない。同じ彩城学園大学附属中学から高校への連絡進学は面接だけだったから。
連絡進学を希望せずに他の高校へ行った人も数人いる。彼らはもっと専門的なことを学びたくて専門学校へ行くとか、ただでさえ偏差値の高い彩城よりももっと上を目指す人たちだ。わざわざ茨の道を進まなくてもいいのに、と思うが僕と見据えている明日が違うのだろう。
僕は自分の教室がある二階に上がる。一年生教室のくせして二階にあるのは、一階は職員室やら家庭科室やらなどがあるためだ。校舎は中学校と繋がっているから、中学の時の先生ともすれ違う。クラスは一年B組だった。
染雲晴子は……ないか。仕方ない。
階段を上がって手前がA組なので一つ教室をすっ飛ばして自分の教室に入る。高校の教室に入ったことはないので、とても新鮮な気持ちになる。旅行に行ってホテルに入った時のようなワクワクが胸に押し寄せる。
「碧おはよー」
教室の前の方で駄弁っていたのは、お調子者の阿賀沢灯夜。中学二年、三年と同じクラスで、運動神経が良くて陸上部のエースだった。いつもグループの中心には灯夜がいて、灯夜がしたボケに対して僕がツッコむという構図がもはや定番となっていた。
アイドルオタクな僕でも、一応はコミュ力はある方だ。アイドルだけでなく色んなジャンルの音楽を聞いていたり、メジャーからマイナーなものまで幅広くサブカルチャーは網羅しているので、話が合わなくなるということはないし、素早い頭の回転で的確なツッコミを入れることもできる。って何を僕は言っているんだ。
まあでも、どうしても灯夜みたいに発信する側にはなれない。僕は灯夜や他の誰かが言ったことをキャッチして的確にリリースすることしかできない。でもまあそれで喜んでくれている人がいるならいいかと思ってしまう。僕にはどうも、こっち側のスペシャリストを貫いた方が良さそうだ。
「おはよう、灯夜。髪切ったでしょ? 春休み前とちょっと雰囲気が違う」
「んだよ、そういうの女子に言えっての。でも碧ってそういうの気付くのはえーよな」
確かに、灯夜の言う通りだ。こういうのは女子に言ってあげると効果的なのだそうだ。過去に晴子も言っていたが、些細なことに気付いてあげるのが鉄則だそう。女子のトリセツにも書いてあった気がする。
「また碧と一緒のクラスかよー。うんざりだわ」
「ヘラヘラすんな。やるんだったら最後までちゃんとやれ」
「一番嬉しいのは碧なくせに」
「……そうだよ。正直、灯夜と一緒でめっちゃ安心した」
「えっ……」
「何照れてんだよ気持ち悪」
灯夜が軽く僕のブレザーのネクタイを掴んでやってくれたな、と苦笑いする。それを見て周りの友達も笑う。こんな感じで、ずっとやってきた。これが僕らの距離感で、先生も生徒もみんなが知っている。だから怒りはしない。時々二人ともラインを超えてしまうことがあるが、それはもちろん二人だけの喧嘩としてちゃんと正面からやり合って、また仲直りする。灯夜とは住んでいる世界や性格が違うけど、やっぱり親友だと思える。
晴子のことが気になって他のクラスも見ていると、晴子がA組に入って行くのが見えた。
「あっ、晴子! また一緒のクラスで嬉しい~」
A組の女子グループの方に晴子が混ざっていく。僕はそれを遠目で見ながら尊敬する。やっぱり晴子は凄いなぁと他人事のように思った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる