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三章 「どうだっていい」
31話
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王都ムラサメ。
正直言うと、江戸時代のような街並みを期待していたのだが……
「まさかの中華、か……」
ついつい小声で溢してしまう。
詳しく言えば中国風。それを基盤として、ゴシック等の様々な様式を加えて採用して行ったようである。
王城は街の中心部に建つあの天を突く塔だろうか。どことなく前の世界での東京スカイツリーを思い出させる。
往来を行く人々は華服に似た民族衣装を着ており、色の強い光景に目が痛くなりそうだ。
「なんだか、華やかな街ですね」
「そうだろう。王都に限らなくても、王都出身の貴人が治める街はこんな風になるんだがな、流石に王都は格が違う」
隣を歩くリリスとケレンが雑談をしている。現在、俺たちは依頼主の商人から報酬を貰い、ギルドに完了報告をしに行くところだ。そこで、折角だからとケレンも一緒について来る事になったのだ。
いや、形としては俺たちがケレンについて行っているのだが。何せ俺とリリスにはムラサメどころかシデンの土地勘も無い。何度か王都に来た事があると言うケレンがいたのは、まさに渡りに船だった。
そうやってギルドまで歩いている間、俺は街を観察している。見た感じ冒険者だと見受けられる人物は、結構多かった。また、冒険者以外にも戦闘に通じていそうな者も相当数いる。
ただの町娘のように見える少女でさえ、隙の無い足運びをしている。なるほど、ケレンの言ったように、シデンには猛者が集うようだ。
……ん?
あれ、何だ。あの青い装束の子。
目が合った? 俺の視線に気付いたのか? 気取られないように気をつけていたんだが。
一旦目を離し、もう一度彼女の方を見た。
「……っ!」
明らかに俺の方を向いていた。
彼女はそのままにこりと微笑み、こちらに小さく手を振ってから雑踏に消えた。
「……いったい?」
「エンマさん、着きましたよ」
「ん、ああ。わかった」
そうこうしている内にギルドに着いたようだ。一先ずあの少女の事は意識の片隅にでも置いておこう。
王都ムラサメのギルドは、端的に言うとでかかった。リェリェンやシモンとは比べるまでもない。流石は王都、多くの人が集まる分、冒険者も比例して多いのだろう。
受付カウンターも相当に多い。依頼の受理、受注用に素材買取カウンターなど、あまり混雑しないように場所を分けている。
ギルド内には相当な数の冒険者がおり、掲示板から依頼書を取って受注しに行っていたりしていたが。
「多いと思うかも知んねえが、これくらいは多いとも言えないんだぜ? マジに多い時は受注カウンターに行列が出来る」
とはケレンの談。他国の王都のギルドでも同じなのだろうか?
掲示板に群がっている冒険者たちを横目に、依頼完了報告用のカウンターまで行く。
「お疲れ様です、ケレンさん」
と。カウンターに着くと、ケレンを視界に収めるなり受付嬢が辞儀をした。
「おうよ。そんなに大変ではなかったけどな」
ケレンもまた親しげに話し、印のついた依頼書を差し出した。本来ならばここで達成した依頼数などに応じて評価がされたり昇格したりする。
「そうですか。……印に間違いはありませんね、それではギルド証を」
「おう」
ケレンがギルド証を出し、受付嬢がそれを専用の魔道具にかざす。これで評価をギルド証に反映するのだ。俺の昇格は本当にイレギュラーな事だった。
「間も無くBランクに昇格できますね。健闘をお祈りいたします。それで、そちらのお二人は?」
「同じ依頼です」
「かしこまりました。それでは依頼書を」
俺とリリスも同じように依頼書を差し出す。ケレンと同じ処理が行われた。
続いてギルド証を出す。
「はい、リリス様とエンマ様ですね。……Bランク?」
俺の顔とギルド証を交互に眺める受付嬢。なんだかデジャヴな光景だ。明らかに見た目とランクが一致しないのだろう。
ケレンが笑いながら言う。
「実力なら俺が保証するぜ。Bランク程度じゃあ役不足なくらいだ」
続いて苦笑いをしつつ、リリス。
「気持ちは分かりますけど、実際相当の実績があるので」
「はぁ……、まあ同行者が言うのなら間違いはないんでしょうね。はい、お返しします」
受付嬢はサッと作業的にギルド証を魔道具にかざし、それぞれに返していく。
「ええと、お二人とももうすぐ昇格ができます。特にエンマ様は、申請すれば試験官の準備が出来次第Aランクの昇格試験を受けられますよ」
マジかよ。
いや、俺の昇格については別に不思議でも無いんだが、セルゲイが一気にAランクまで上げてもいいとか言っていたくらいだしな。
リリスは、言ってしまうと侵攻での戦闘的な功績はほとんど無かったから、昇格はまだまだ先かなと思っていた。
「おっ、本当か。良かったじゃねえかよ、昇格なんて」
Bランクと言うのは、冒険者としてはベテランと呼ばれる程度の位だ。一人前の一歩先と表現する者もいるらしい。
聞いたところによれば、CからBランクに昇格するのは、FからCランクに上がっていくよりもはるかに難しいらしい。故に、Cランクで満足し、そこに留まる冒険者が後を絶たないと。
ケレンは受付嬢の言葉を聞き、軽く言った。リリスは嬉しさからか、頬を小さく緩めている。
「じゃ、もうギルドに用は無いよな?」
ケレンに問う。
「おう。金もあるし、依頼を受ける必要は無えな」
ケレンが答え、便乗するように、リリス。
「せっかくの王都ですし、街の方を見てみたいです」
「そうだな。ケレン、何度か王都に来た事があるんだったよな」
「そりゃあな」
「じゃあ、俺たちにムラサメを案内してくれないか?」
「いいぜ。武闘大会まで居る予定だから、暇つぶし程度にな」
こうしてとんとん拍子に、ムラサメに居る間はケレンと同行する事になった。
正直言うと、江戸時代のような街並みを期待していたのだが……
「まさかの中華、か……」
ついつい小声で溢してしまう。
詳しく言えば中国風。それを基盤として、ゴシック等の様々な様式を加えて採用して行ったようである。
王城は街の中心部に建つあの天を突く塔だろうか。どことなく前の世界での東京スカイツリーを思い出させる。
往来を行く人々は華服に似た民族衣装を着ており、色の強い光景に目が痛くなりそうだ。
「なんだか、華やかな街ですね」
「そうだろう。王都に限らなくても、王都出身の貴人が治める街はこんな風になるんだがな、流石に王都は格が違う」
隣を歩くリリスとケレンが雑談をしている。現在、俺たちは依頼主の商人から報酬を貰い、ギルドに完了報告をしに行くところだ。そこで、折角だからとケレンも一緒について来る事になったのだ。
いや、形としては俺たちがケレンについて行っているのだが。何せ俺とリリスにはムラサメどころかシデンの土地勘も無い。何度か王都に来た事があると言うケレンがいたのは、まさに渡りに船だった。
そうやってギルドまで歩いている間、俺は街を観察している。見た感じ冒険者だと見受けられる人物は、結構多かった。また、冒険者以外にも戦闘に通じていそうな者も相当数いる。
ただの町娘のように見える少女でさえ、隙の無い足運びをしている。なるほど、ケレンの言ったように、シデンには猛者が集うようだ。
……ん?
あれ、何だ。あの青い装束の子。
目が合った? 俺の視線に気付いたのか? 気取られないように気をつけていたんだが。
一旦目を離し、もう一度彼女の方を見た。
「……っ!」
明らかに俺の方を向いていた。
彼女はそのままにこりと微笑み、こちらに小さく手を振ってから雑踏に消えた。
「……いったい?」
「エンマさん、着きましたよ」
「ん、ああ。わかった」
そうこうしている内にギルドに着いたようだ。一先ずあの少女の事は意識の片隅にでも置いておこう。
王都ムラサメのギルドは、端的に言うとでかかった。リェリェンやシモンとは比べるまでもない。流石は王都、多くの人が集まる分、冒険者も比例して多いのだろう。
受付カウンターも相当に多い。依頼の受理、受注用に素材買取カウンターなど、あまり混雑しないように場所を分けている。
ギルド内には相当な数の冒険者がおり、掲示板から依頼書を取って受注しに行っていたりしていたが。
「多いと思うかも知んねえが、これくらいは多いとも言えないんだぜ? マジに多い時は受注カウンターに行列が出来る」
とはケレンの談。他国の王都のギルドでも同じなのだろうか?
掲示板に群がっている冒険者たちを横目に、依頼完了報告用のカウンターまで行く。
「お疲れ様です、ケレンさん」
と。カウンターに着くと、ケレンを視界に収めるなり受付嬢が辞儀をした。
「おうよ。そんなに大変ではなかったけどな」
ケレンもまた親しげに話し、印のついた依頼書を差し出した。本来ならばここで達成した依頼数などに応じて評価がされたり昇格したりする。
「そうですか。……印に間違いはありませんね、それではギルド証を」
「おう」
ケレンがギルド証を出し、受付嬢がそれを専用の魔道具にかざす。これで評価をギルド証に反映するのだ。俺の昇格は本当にイレギュラーな事だった。
「間も無くBランクに昇格できますね。健闘をお祈りいたします。それで、そちらのお二人は?」
「同じ依頼です」
「かしこまりました。それでは依頼書を」
俺とリリスも同じように依頼書を差し出す。ケレンと同じ処理が行われた。
続いてギルド証を出す。
「はい、リリス様とエンマ様ですね。……Bランク?」
俺の顔とギルド証を交互に眺める受付嬢。なんだかデジャヴな光景だ。明らかに見た目とランクが一致しないのだろう。
ケレンが笑いながら言う。
「実力なら俺が保証するぜ。Bランク程度じゃあ役不足なくらいだ」
続いて苦笑いをしつつ、リリス。
「気持ちは分かりますけど、実際相当の実績があるので」
「はぁ……、まあ同行者が言うのなら間違いはないんでしょうね。はい、お返しします」
受付嬢はサッと作業的にギルド証を魔道具にかざし、それぞれに返していく。
「ええと、お二人とももうすぐ昇格ができます。特にエンマ様は、申請すれば試験官の準備が出来次第Aランクの昇格試験を受けられますよ」
マジかよ。
いや、俺の昇格については別に不思議でも無いんだが、セルゲイが一気にAランクまで上げてもいいとか言っていたくらいだしな。
リリスは、言ってしまうと侵攻での戦闘的な功績はほとんど無かったから、昇格はまだまだ先かなと思っていた。
「おっ、本当か。良かったじゃねえかよ、昇格なんて」
Bランクと言うのは、冒険者としてはベテランと呼ばれる程度の位だ。一人前の一歩先と表現する者もいるらしい。
聞いたところによれば、CからBランクに昇格するのは、FからCランクに上がっていくよりもはるかに難しいらしい。故に、Cランクで満足し、そこに留まる冒険者が後を絶たないと。
ケレンは受付嬢の言葉を聞き、軽く言った。リリスは嬉しさからか、頬を小さく緩めている。
「じゃ、もうギルドに用は無いよな?」
ケレンに問う。
「おう。金もあるし、依頼を受ける必要は無えな」
ケレンが答え、便乗するように、リリス。
「せっかくの王都ですし、街の方を見てみたいです」
「そうだな。ケレン、何度か王都に来た事があるんだったよな」
「そりゃあな」
「じゃあ、俺たちにムラサメを案内してくれないか?」
「いいぜ。武闘大会まで居る予定だから、暇つぶし程度にな」
こうしてとんとん拍子に、ムラサメに居る間はケレンと同行する事になった。
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