泣きゲーの世界に転生した俺は、ヒロインを攻略したくないのにモテまくるから困る――鬱展開を金と権力でねじ伏せろ――

穂積潜

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第22話 眼鏡っ娘は衰退しました(3)

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「あの、助けて頂いてありがとうございました。あ、あの、私、満瀬祈(みちせいのり)って言います。成瀬、さん」



 翼が立ち去ったのを確認してから、ぽつりと呟く。



「祐樹でいいよ。みんなそう呼ぶし。俺も祈ちゃんって呼んでいいかな?」



 このフラグを潰しておかないと、眼鏡っ娘――祈は『他の娘は名前で呼んでるのに、私だけ名字で呼んでて――』みたいなウジウジを発生させる。めんどくさいね。



「は、はい。祐樹、くん」



 祈は、噛みしめるように俺の名を呼んだ。



「じゃあ、俺は待たせてるツレがいるから戻るよ」



「は、はい。それでは、失礼します」



 どこか寂しげに俺に背中を向けて去っていこうとする祈。俺はタイミングを見計らう、1、2、3。こんなもんか。



「――そうだ! よかったら、本当に読書感想文、手伝ってくれない? あ、でも、やっぱり忙しいかな?」



「い、いえ。そんな。全然、暇です。この図書館に置いてある本は大体読んでしまいましたし……。でも、いいんですか?」



「なにが?」



「えっと、時々、祐樹くんと一緒にいる二人の女の子、とても仲が良さそうで。まさに理想の関係に見えて……。私なんかが入ったら、その完璧な均衡が崩れてしまうんじゃないかなって」



 祈が遠慮がちに言った。



「そんなこと言われても、俺たちだって、初めから仲良かった訳じゃないしなあ。もし出会った早さで人間関係の優先順位が決まるなら、ほとんどの小説は成立しないよ。まあ、ある意味、平和な世界かもしれないね。金色夜叉も生まれずに済む」



「――ふふっ、確かにそうですね」



 そこで祈が初めて。くだけた微笑みを見せる。



(うーん、ちょっとフラグを立て過ぎたか? でも、奥手のヒロインはこっちからグイグイいかないと関係性を構築できないからなあ……)



 まあ、多分大丈夫だろう。祈は、ヒロインの中では人生における恋愛依存度=色ボケ度は低い。彼女は一見メンタルが弱そうに見えるが、実は小説家志望だけあって、自己完結型で孤独耐性も高い人間である。芯が通っており、他人に依存しないのだ。なので、上手い事、創作意欲を刺激してやれば、俺との恋愛より、執筆活動に夢中になってくれると思う。



「お帰りー。……ゆーくん。その子だあれ?」



 ぷひ子が無邪気の奥に嫉妬の狂気を滲ませた瞳でこちらを見つめてくる。



「祈ちゃん。読書感想文を書くのが上手いから手伝ってもらうんだ」



「あの、満瀬祈と申します。お邪魔してもよろしいですか?」



「ええ、もちろん。それにしても、ふふふ、さすがゆうくん。モテモテだね」



 みかちゃんがからかうように言った。



「そんなんじゃないってば」



 俺はぶっきらぼうに答えた。



 あんまり祈ばかりに構っていると、ぷひ子ゲージが溜まりすぎるので、読書感想文をサラっと終えた俺は、徐々に彼女との会話の数を減らしていく。そして、話題を誘導して、みかちゃんに祈を押し付けた。



 うん。やっぱり、めんどくさいことは、面倒見のいいみかちゃんに全振りするに限るね。



 ちなみに、祈は、青春編ではみかちゃんが会長を務める生徒会の書記だったりするので、相性は完璧に保証されている。



 にしても、本当にみかちゃんは便利やでえ。この世で唯一、就職面接で人間関係の潤滑油を自称していい人間だと思うよ。マジで。



 それから数時間、俺たちは真面目に宿題を進めた。



 祈は作中屈指の勉強できるウーマンなので、教えるのも上手く、みかちゃんはもちろん、ぷひ子ともそこそこ馴染んだ。



 やがて、閉館時間が近づく。



「どうだった?」



 俺は、祈と一緒に借りていた本を返しにいくタイミングを見計らって、話しかける。



「なんだか、夢みたいです……。こういうの、憧れだったから。本当はちょっと、怖かったんです。欲しかったものを手に入れてしまうというのは、ある意味では不幸なことだから」



「芥川の芋粥みたいに?」



 芋粥というのは、ケンチキ食べ放題してみてえとずっと思ってたけど、いざやってみたらあんまり食えなかったわ、的な話である。あー。食べたくなってきた。田舎だから近所にファーストフード店はねえ! 兎ワープ使っちゃおうかな。



「まさしく。でも、実際は、芋粥とは違って、もっともっと欲しくなるんですね。自分の欲深さが恥ずかしいです」



「それで、いいんじゃないかな。芋粥は有限だけど、友情は無限だし、心の胃袋に際限はないよ」



 適当にゲーム本編の台詞を抜き出して対応する。俺って、もはやくもソラbotなのかな? かな?



「ふふっ、そうですね。私は小食な分、こっちの方は大食いでもいいかもしれません」



 祈は冗談めかして言った。



 よし。一応、ジョークを言ってくれるくらいには心を開いてくれたみたいだ。好感度でいうと、70はあるだろう。



 俺はそんなことを考えながら、満足感と共に、図書館を後にした。

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