泣きゲーの世界に転生した俺は、ヒロインを攻略したくないのにモテまくるから困る――鬱展開を金と権力でねじ伏せろ――

穂積潜

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第28話 想定外と想定通り(2)

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「っつても、アレだなあ。なんか、もうちょっとワクワクすることがしてえな。結局、虫捕りもできてねえしよ。なんつーか、こう、オレの中の宝探し欲が全然満たされてねーんだよ。やっぱり、森に忍び込むか?」



 翼がウズウズと身体を微動させながら言う。



「森はさすがにやめといた方がいいんじゃないか? オオクワガタを盗みにやってきた余所者が病院送りにされたらしいし」



 俺は難色を示す。つーか、この俺っ娘め。隙あらば森に近づこうとするな。殺すぞ。そんなにリアルザムザになりてーか。



「うーん、じゃあ、肝試しなんてどうかな? 夏っぽいし、楽しいと思うけど」



 よくぞ言ってくれた香くん。君がそのフラグを立ててくれるのを待ってたんだよ。



「おっ、肝試し、いいんじゃね? 『毒蛾伯爵の館』とかどうだ?」



 俺はそう言って、珍しく自分からフラグを建てに行く。



「毒蛾伯爵の館ってなんだ?」



「この村に来る途中で見なかったか? 丘の上にある洋館だよ。蔦がいっぱい絡まっててさ。いかにもお化けかなにかが出そうな感じの」



「あー! あのなんか殺人事件が起きそうなとこな!」



 翼が合点のいったように頷く。



「僕も車の中からちらっと見た程度だけど、かなり古くて、立派なお屋敷だよね。でも、何で『毒蛾伯爵の館』って言うの?」



「ただの噂話よ。昔、この村の森で珍しい蛾が採れるっていう噂を聞いた外国の昆虫学者でもある伯爵が、あのお屋敷を建てたの。それで、地元の女性と恋に落ちて結ばれたんだけど、実は伯爵は本国に妻子がいたの。その事実を知り、いつか捨てられるんじゃないかと思った女性は、伯爵に蛾の毒を与えて少しずつ弱らせていった。自分ではなにもできないようにして、永遠に伯爵をこの地に留まらせるために。色々あって、最後は女性と伯爵は互いに刺し違えて亡くなるの。そんな忌まわしい出来事があってから、今でもあの洋館からは時折、苦しむ伯爵のうめき声や女性のすすり泣く声が聞こえるとか。そんな悪評もあって、洋館には買い手もつかず、ずっと無人らしいわ」



 おままごとのフォローをしていたみかちゃんが、こちらへ振り向いてそう解説した。



「そんな由来が……。いかにも肝試しにぴったりな感じだね」



「あの館、私も気になってました。郷土史には伯爵なる人物があの屋敷を建てたところまでは記されているのですが、それ以上の情報はなく……。この村の規模からいえば、かなりの大きな出来事であったはずですが、不自然なまでに記述が少ないんですよね。まるで、誰かが意図的に消させたかのように」



 祈が考え込むように、顎に手を当てる。



 かなりヤバそうなフラグに見えるだろ?



 実は大したことないんだなこれが。



「ま、真実かどうかともかく、おもしろそうだろ? 肝試しをやるならあそこしかないって」



「オシッ。決まりだ。早速今晩いくぞ。24時にあの自販機の前だ。あっ、当たり前だが、親に黙って出て来いよ。見張りつきの肝試しとかつまんねーからな」



 翼が駄菓子屋の横に設置されたそれを指して言う。また、リスク増し増し頂きました。



 俺は結論を知ってるから、敢えてこのフラグを踏みにいけるけど、初回プレイの時はめちゃくちゃ迷ったよね。明らかに死亡フラグっぽいもん。



「えー、やだー。お化け怖いよー!」



「渚もいやー!」



 ぷひ子と渚が首をブンブン横に振って拒否する。



 本編では、肝試しに行くメンバーは、ぷひ子、みかちゃん、主人公、香の四人だ。ぷひ子はやはり、肝試しを怖がるが、みかちゃんと主人公を二人きりにしたくない嫉妬心から、参加を決める。今の世界線ではどういう結論に達するかは不明だが、それはどうでもいい。今、重要なのは、俺があの館に特定の時刻に行くことだからな。



「来たくねーやつは来るな! ママのおっぱいでも吸って寝とけ! あ、だけど、親にチクんじゃねーぞ。それだけは守れよ。おい、祐樹、香。お前らは当然来るだろ? 玉ついてるもんな?」



 翼がそう言って釘を刺す。



「そりゃ俺が言い出しっぺだしな。行くよ」



 俺は頷いた。



「僕も行くよ」



 香も決然と言った。本編では、『ぷひ子にかっこ悪いところを見せたくないから行く』という設定だったが、それが今は『翼にかっこ悪いところは見せたくないから行く』にすり替わった感じだろうか。



「私はおすすめできないなあ……。でも、止めても行っちゃうだろうし、だったら、近くで見守りたいかも。自宅待機してても、どうせ気になって眠れないだろうし」



 みかちゃんは『しょうがないにゃあ』といった感じで参加を表明する。



「そうですね……。普通に犯罪ですが、こういうのは子どもの時しか許されない逸脱ですし、経験しておくのも悪くないかもしれません。郷土史の真相に迫る手がかりもあるかもしれませんし」



 祈は案外乗り気だ。お堅いキャラに見えて、知的好奇心は旺盛だからね。



「おっしゃ。そこの豚子とガキ以外は全員参加だな!」



「ううー、みんな行くのー? じゃ、じゃあ、私も行こうかなー」



「うーん。うーん。やっぱり、渚も行くー。渚だけ仲間外れとかいやー!」



 翼が挑発的にそう言うと、最終的には、嫌がっていた二人も、渋々参加を表明した。



 こうして俺たちは、全員で噂の洋館へと肝試しをすることになった。

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