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第3章

これぞ○○愛ですわ!

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「やぁ、ヴィー。学園で会うのは久しぶりだね」


 教室の窓の外。
 声をかけられそちらに目を向ける。
 ざわめく中庭。
 子息令嬢の視線が、一点へと注がれている。

 爽やかな緑の風、澄み渡る青空、陽の祝福を受け佇む一人の青年。

 青年の金糸の髪が、風に撫でられサラサラと靡く。
その隙間から零れる光の粒。

 美形にのみ許されるキラキラえふぇくとを纏い、彼はこちらへと呼びかけてくる……

 何故、金髪碧眼の王子様がこんな所に!?






「ーって、ブルーテスお兄様!?」
 
 あら。何処の白馬に乗った王子様かと思ったら、お兄様でしたのね。
 私ったら、ついうっかり。
 どこぞの血濡れ皇子より、王子らしいお兄様がいけないのですわ。おほほほほほ。


 こほんと咳払いをし、あらためてお兄様と対面する。

「あの。お兄様。何故こちらへ? どうかなされましたの?」

 生徒会長をなされているお兄様。お忙しいようで、中々お会いする機会がない。せっかく同じ学園にいるというのに……出会えたのはほんの数回。寂しくない……といえば嘘になりますわね。


「ヴィーの顔が見たくなってね。いけなかったかな?」

 悪戯っぽい顔を浮かべ、ふふふと微笑まれる。
 その微笑みにズキュンと撃ち抜かれ、お義兄様の周りでバタバタと倒れていくご子息令嬢達。あぁっ!なんてこと、あっという間にあたりが(鼻)血の海に!!

「はぁぁあ。ブルーテス様ぁぁ……」
「会長の笑顔……。は……鼻血が……」

 わっわかりますわ!わかりますわよ!皆様!妹である私ですら、瀕死ですもの!はっ鼻血はなんとか堪えましたわ!
 よく耐えた!常人なら8割は出血するほどの衝撃!よくぞこらえた!それでこそ私!

「いいえ、お兄様! 私もお兄様にお会いしたかったのですわ! そちらに行っても宜しいですか? せっかく会えたのですもの。もっと近くで、お兄様のお顔を見て、お話がしたいですわ!」

「うん。おいで、ヴィー」
「はい! お兄様! 今すぐそちらへ!」

 二つ返事で窓辺に足をかける。さぁ、いきますわよ!I can fly!

「お嬢様!? そこは出入口ではございませんよ!?」

 背後で、ハンスの慌てふためく声が聞こえますわ。

「おほほほほ。ハンス。私を止めれるものなら止めて御覧なさい! 目の前にお兄様が両手を拡げて待っていらっしゃるのよ? 飛び込まない理由などないわ!!」

「寧ろ飛び込む理由になどなりません! ってブルーテス様も手を拡げて!! 貴方達は何を!!」

 必死に静止するハンスを振り切り、お兄様の胸目掛けて飛び立つ。
 いっつあふりーだむ!!
 軽やかに飛び降りる私を、しかと受け止めて下さるお兄様!
 これぞ兄妹愛!

「ふふふ。お転婆だね私のお姫様は」
「だって、久しぶりにお兄様にお会いできたのですもの!嬉しくてつい」

 そう答え、お兄様の腕の中でにっこり微笑む。

 あら?何か背中に無遠慮な視線が突き刺さりますわ!
 私ったら大勢の前で、なんとはしたない!
 淑女に有るまじき行為!!

「そんなに私に会えたのが嬉しかった? ヴィー。あぁ……本当に可愛いね。このまま腕に閉じ込めておきたいよ」

 顔を赤らめる私の耳元で、クスクスと笑うお兄様。擽ったいし恥ずかしいですわ。


「私も……お嬢様が無茶を為さらないよう。いっそ閉じ込めてしまいたいです……」

 私の背後で、ハンスがそう呟く。貴方、いつの間に!
 私に続いて、窓から中庭ここに飛び降りたのね?

 ……しかと聞こえてましてよ?
 いつ私が無茶を?閉じ込めるですって?  
 何処に?あっハンスの腕の中?
 まぁ!まぁ!まぁ!それは大歓迎よ!
 願ったり叶ったり!バッチコーイですわ! 


「ふふふ。従者の立場で主人を監禁? 偉くなったものだね。ハンス?」

 お兄様にも聞こえていましたのね。
 笑顔だけれど、少しお声に棘がありますわ。
 相変わらずお兄様は、ハンスに厳しいですわね。

「……主の行いを正す為に、あらゆる手段をこうじるのも従者の務めですから」

 ─お兄様の言葉に、そう答えるハンス。

 
「従者なら、己の部を弁えるべきだと思わないかい? 逸脱しすぎると、その【立場】すら失う事もある」 

 お兄様は、笑みを深め探るように問いかけますわ。

「・・・・・・」

 二人の間に沈黙が流れますわ。何かしら、不穏な空気をビシビシと感じますわ。

「ええ。私もそう思います。きちんと弁えていますよ。ご安心下さいブルーテス様」

 ハンスは、胸に手をあて返す。
 流れるような美しい所作。
 その言葉と所作に、胸がズキリと痛む。

 お兄様とハンスのやり取りを見ると……私とハンスは主人と従者なのだと感じてしまうわ。
 ハンスは、私など……本当に興味がないのね。……貴方にとって私は、あくまで主であり、お嬢様でしかないのよね……。わかっている事だけど、わかっていた事だけど……辛いわ。



「・・・・ちっ。・・・・れがっ」

 あら?気のせいかしら?今、舌打ちが聞こえたような。

 聞こえた方へと顔をむける。
 そこには、眉間に皺を寄せ苦虫を噛み潰したような顔をしたお兄様の姿が……。

「えっと……お兄様?」

 今の、本当にお兄様が?えっと、何故そんな恐ろしいお顔をなさっているの??まるで、ラスボス……魔王のようなお顔よ?ええ、美しいのは何も変わらないのですけれど……おっ恐ろしいですわ?

「ん?どうかした?ヴィー」  

「あっ、いえ、何でもありませんわ。気のせいだったみたい」

 ええ、歪んだお顔を拝見したように思ったのですけれど……幻覚だったようですわ。

 キラキラエフェクト付きで、優しく微笑まれているお兄様が……そんなお顔や舌打ちなどなされる訳がありませんもの。

 いやね。
 私ったら、疲れているのかしら。
 学園生活・・・・色々あり過ぎですもの。

 あー早く夏休暇に入らないかしら。心身ともにまったりと過ごしたいですわ。






 ─私のこのささやかな願いが、呆気なく崩れ去る事を……この時の私は、まだ知る由もなかったのです。






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