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第1章
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しおりを挟む「ヴォルフ……あまり ベタベタと触らないでくれる?穢れるから」
どうも、絶賛毒舌モードの私です。
何故って?護衛の1人である隻眼の騎士であるヴォルフが、やたらめったら私に触れてくるので、口撃が止まらないのです。
「その衣装、神子専用だろ?俺が触ったくらいで汚れたりしないから大丈夫だって。自動で綺麗になる筈だぜ?それ」
ー違う、私が言ってるのはそういう意味での汚れじゃない。
「貴方に触られたくないの。やめてって言ってるでしょ! 」
「ん? でも歩き疲れてきてるだろ? 歩き方変だし、少し甘えなって」
言葉の刺をスルリと躱し、さりげなく腰を抱き、引き寄せる隻眼男。
すごいね!そのテクニック!女慣れしてるよね!私、真逆だから!異性に慣れてないから!言葉とは逆に怖くてぷるぷる震えちゃうよ!恐怖と混乱で更に毒を吐きそう……
「ん? 何? お嬢さん もしかして 男慣れしてない?」
そんな私の真横で、その様子を面白そうに見つめてくるヴォルフ。
その視線に居心地の悪さを感じる。
どんなに邪険に扱い言葉のナイフを浴びせても、まったく意に関せず迫ってくる。すごいとしか言いようがない。
というか、神子に迫る護衛兵士って……国的にこれ大丈夫なの?
「俺、出会いって大事にしたいんだよね。お嬢さんの艶やかな黒い髪も、闇夜のような黒い瞳も、陶器のような滑る白い肌もすげぇ魅惑的」
いい顔でそう告げる誑し騎士。
この人、息を吐くように 口説いてますよー?
こんな剣士が代表で大丈夫ですかー!?国民のみなさーん!!
「お嬢さん。なんの香水つけてんの?」
「は? そんなものつけるわけないでしょ」
男に対する恐怖心を隠し、キッと睨み返す。大丈夫。私は大丈夫。怖くないし平気。男なんて平気だから……
睨みあげる私の様子を気にも止めず。ヴォルフは、髪を一房すくい上げ そっとくちづけてきた。
「へぇ。何もつけてなくて、こんな香り振り撒くなんて……」
「……悪い女だな」
ニヤリと口角をあげ、挑発的な視線を向けられる。
ー
ーーーーー
思考が停止しかけた。
思考どころか、呼吸が……心臓が止まりかけた……。
なんなのこの人!?
私、男性恐怖症なんですよ!?男慣れしてないどころじゃないんですよ!?
怖い通り越して 頭パニックだよ! どうすればいいの?これ!?
「うううっ」
ダメだ。キャパオーバー。手に終えません。全面降伏。泣きそう。誰か助けて。
「ヴォルフ……いい加減にしないか。神子殿が困っている」
対処に困っていると、低音ボイスが頭から落ちてくる。
「流石に目に余るぞ……」
「へいへい。わかりましたよ。大人しく引き下がりますって。ルドルフの旦那」
ヴォルフと私のやり取りを見かねて、もう1人の護衛騎士であるルドルフさんが、間に入ってくれた。
良かった。ヴォルフもやっと離れてくれる。
ほんと、心臓に悪いよ。ありがとう!ルドルフさん!心の中で、強面怖い!って思っててごめん!
強面でガタイの良すぎるルドルフさん……視線合わす事もできず、心の中でお礼を告げる私を許して下さい。
「あーほんと見苦しい。何処でも見境なく盛っちゃって。恥ずかしくないの?万年発情狼」
後方で、魔術師の少年。セシル君が毒を吐く。
「なんで、そんな女に盛るのかよくわからないよ。黒髪黒目なだけじゃん。魔力が高いからってただそれだけ。それを活かせるわけでもない、垂れ流しの能無し女なのに」
最年少の彼は、私に負けずとっても毒舌だ。そしてそんな彼は、何故か事あるごとに私を貶してくる。なんでだろ。何か気に触らない事でもしちゃったのかな。
一緒に旅してるんだから、できれば仲良くしたいんだけど。
まだあどけない少年で、女の子みたいな外見のセシル君は、この中で 唯一 緊張せずに接する事のできる、貴重な人材なのに……。
「お子様には、お嬢さんの良さがわからないんだな。可哀想に」
やれやれと言った風に首を振るヴォルフ。
「は?僕を子ども扱いするな!これでも僕は、魔族のきゅうて……」
「……セシル」
カッとなって噛みつくセシル君を、ヴォルフが 一睨みする。その底冷えするような低い声に、私も思わず身が竦む。
「セシル。お前も神子殿への口のきき方を改めろ」
ルドルフさんが、窘めるように告げる。
「……口がすぎた。……悪かったよ……」
渋々とセシル君が謝罪する。その顔は不満がいっぱいだ。
私だって不満と不安でいっぱいなのに。
口を開く度に毒舌を吐く、私とセシル君。息を吐くように口説き、やたらと触れてくるセクハラ男。無口で、その大きな存在が怖い寡黙騎士。
こんなんで、魔王城に無事到着できるのかな。元の世界に戻る為とはいえ、前途多難だよ。
ーはぁ。神様。せめて心穏やかに旅がしたいです。
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