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第1章
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ーチュン…チチチ
小鳥の囀りが聴こえる。
窓辺からは、明るい光が差し込み。
重たい瞼の上にも…降り注いでくる。
清々しい朝とは対照的に…私の心は重く暗いモノが鉛の様に沈んでいた。
『ヒトを殺している。』
『バケモノなんだ。』
『あんたは、俺の為に…死んでくれんの?』
ヴォルフに告げられた言葉。
右目の眼帯の下にある、銀色の瞳。
『俺に関わるな。』
『迷惑だ。』
あの瞳を思い出す度に、冷たい拒絶の言葉が反芻する。
ー愛されると、その者の命を奪う呪い。
神子の私なら、死なないかもしれない。
だから近付いた。
利用しようと思って近づいた。
そう冷たく告げられた。
その言葉がショックな筈なのに…私は、ヴォルフの悲し気な顔が頭から離れない。
ーコンコン。
「ミコト。まだ寝てんの?ご飯だよ。」
ノックの音と共に、セシル君の声が聞こえてくる。
「あっ。起きてるよ。用意するから先に行って食べてて。」
軽く身支度を整える。
もう1泊すると言っていたから…片付けなどはしなくていいよね。
ーガチャ
「ー遅い。」
扉を開けると、壁に凭れたセシル君が文句を言う。
「先に行っててくれてよかったのに。」
クスっと笑うと
「別にあんたを待ってたわけじゃ…ていうか、あんたほっとくと危なっかしいんだから。もう!僕に黙って面倒見られてなよ!」
っと口を尖らせながら、腕を掴まれた。
「ほら、行くよ。ルドルフが席を取ってくれてるから。」
「あっ。えっと。ヴォルフは?」
バクバクと音を立てそうになる心臓を抑え。平静を装い尋ねる。
どんな顔をして会えばいいのかわからない。
私は、彼に何を言って、どうすれば良かったんだろう。
会うのが怖い。
ーギュッ。
思わずセシル君の服の裾を掴んでしまった。
「ヴォルフなら…今朝早くに宿を出たよ。なんか用事があるって。」
ーほっ。
胸に安堵が宿る。
ー最低。
自分から知りたいと押しかけた癖に。
知った事で、混乱している。
ヴォルフに拒絶されたんじゃない。
拒絶したのは…私の方だ。
「ーヴォルフ。何処に行ったのかな。」
「さぁ。僕もそこまでヴォルフの事を知ってるわけじゃないしね。」
私の呟きに、セシル君が律儀に返してくれる。
「ああ、でも今朝早くに…誰か尋ねて来てたから。その人の所にでも行ったんじゃないかな。」
「確か…昨日ヴォルフと揉めてた人の従者みたいだったけど。」
「ーシリウス家だったかな。ここいらを治めている領主家の使いの者みたいだよ。」
シリウス…。
「そっか。ありがとう。」
私はそれ以上何も言わず、下を向く。
詮索すれば、ヴォルフは姿を消す。そんな気がした。
知りたいけど、そんな権利…今の私には無いもの。
唇を噛み締める私を、セシル君が下からも覗き込んできた。
「ねぇ。ミコト。」
「ん?」
「ミコトは、ヴォルフが好きなの?」
「え!?」
ーセシル君にまで…私って…やっぱりヴォルフの事が好きなのかな。
「ーそう…見える?」
恋とか…よくわからない。気になると聞かれれば答えは、イエスだ。
だけど、好きとか恋とか…その感情がどれを指すのかが…私にはまだわからない。
困ったように眉尻を下げる私に、
「僕に聞かないでよ。」
っとセシル君が返す。
そうだよね。
自分がわかっていない気持ちを、他人が分かるわけないもんね。
「ごめん。」
「何に対して謝ってんの…っとに…色々と鈍すぎて…」
はぁっ。とため息を零された。
「大体、僕にソレを聞いてくる時点で…ほんと嫌になるよ。」
「…だからごめんって。」
そんなに怒る事ないじゃない。
立ち止まり、向かい合う。
ー沈黙がまた流れる。
「あのさ。好きだから。」
静寂を破り凛とした声が胸を突く。
私の顔を見上げ、真っ直ぐな瞳でセシル君が告げる。
「あんたの事。」
「へ?」
唐突に告げられた言葉に、思考がとまる。
ーグイッと引き寄せられ、至近距離で見つめられた。
「僕…ミコトの事、好きだからね。」
小鳥の囀りが聴こえる。
窓辺からは、明るい光が差し込み。
重たい瞼の上にも…降り注いでくる。
清々しい朝とは対照的に…私の心は重く暗いモノが鉛の様に沈んでいた。
『ヒトを殺している。』
『バケモノなんだ。』
『あんたは、俺の為に…死んでくれんの?』
ヴォルフに告げられた言葉。
右目の眼帯の下にある、銀色の瞳。
『俺に関わるな。』
『迷惑だ。』
あの瞳を思い出す度に、冷たい拒絶の言葉が反芻する。
ー愛されると、その者の命を奪う呪い。
神子の私なら、死なないかもしれない。
だから近付いた。
利用しようと思って近づいた。
そう冷たく告げられた。
その言葉がショックな筈なのに…私は、ヴォルフの悲し気な顔が頭から離れない。
ーコンコン。
「ミコト。まだ寝てんの?ご飯だよ。」
ノックの音と共に、セシル君の声が聞こえてくる。
「あっ。起きてるよ。用意するから先に行って食べてて。」
軽く身支度を整える。
もう1泊すると言っていたから…片付けなどはしなくていいよね。
ーガチャ
「ー遅い。」
扉を開けると、壁に凭れたセシル君が文句を言う。
「先に行っててくれてよかったのに。」
クスっと笑うと
「別にあんたを待ってたわけじゃ…ていうか、あんたほっとくと危なっかしいんだから。もう!僕に黙って面倒見られてなよ!」
っと口を尖らせながら、腕を掴まれた。
「ほら、行くよ。ルドルフが席を取ってくれてるから。」
「あっ。えっと。ヴォルフは?」
バクバクと音を立てそうになる心臓を抑え。平静を装い尋ねる。
どんな顔をして会えばいいのかわからない。
私は、彼に何を言って、どうすれば良かったんだろう。
会うのが怖い。
ーギュッ。
思わずセシル君の服の裾を掴んでしまった。
「ヴォルフなら…今朝早くに宿を出たよ。なんか用事があるって。」
ーほっ。
胸に安堵が宿る。
ー最低。
自分から知りたいと押しかけた癖に。
知った事で、混乱している。
ヴォルフに拒絶されたんじゃない。
拒絶したのは…私の方だ。
「ーヴォルフ。何処に行ったのかな。」
「さぁ。僕もそこまでヴォルフの事を知ってるわけじゃないしね。」
私の呟きに、セシル君が律儀に返してくれる。
「ああ、でも今朝早くに…誰か尋ねて来てたから。その人の所にでも行ったんじゃないかな。」
「確か…昨日ヴォルフと揉めてた人の従者みたいだったけど。」
「ーシリウス家だったかな。ここいらを治めている領主家の使いの者みたいだよ。」
シリウス…。
「そっか。ありがとう。」
私はそれ以上何も言わず、下を向く。
詮索すれば、ヴォルフは姿を消す。そんな気がした。
知りたいけど、そんな権利…今の私には無いもの。
唇を噛み締める私を、セシル君が下からも覗き込んできた。
「ねぇ。ミコト。」
「ん?」
「ミコトは、ヴォルフが好きなの?」
「え!?」
ーセシル君にまで…私って…やっぱりヴォルフの事が好きなのかな。
「ーそう…見える?」
恋とか…よくわからない。気になると聞かれれば答えは、イエスだ。
だけど、好きとか恋とか…その感情がどれを指すのかが…私にはまだわからない。
困ったように眉尻を下げる私に、
「僕に聞かないでよ。」
っとセシル君が返す。
そうだよね。
自分がわかっていない気持ちを、他人が分かるわけないもんね。
「ごめん。」
「何に対して謝ってんの…っとに…色々と鈍すぎて…」
はぁっ。とため息を零された。
「大体、僕にソレを聞いてくる時点で…ほんと嫌になるよ。」
「…だからごめんって。」
そんなに怒る事ないじゃない。
立ち止まり、向かい合う。
ー沈黙がまた流れる。
「あのさ。好きだから。」
静寂を破り凛とした声が胸を突く。
私の顔を見上げ、真っ直ぐな瞳でセシル君が告げる。
「あんたの事。」
「へ?」
唐突に告げられた言葉に、思考がとまる。
ーグイッと引き寄せられ、至近距離で見つめられた。
「僕…ミコトの事、好きだからね。」
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