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第1章

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 馬車に揺られ、連れられた先。
大きなお屋敷が目に入る。門をくぐり、屋敷の中の一室に通される。

「こちらへおかけ下さい。」

 細やかな彩飾が施されたら壁や扉。上に目をむければ、天井には草木の模様が掘られている。そして大きなシャンデリアが吊り下げられ、キラキラと光が零れている。革張りのソファーに腰をかけたところで、お茶を勧められた。

「無理にお連れしてしまい、申し訳ありません。」

セーラさんが、申し訳なさそうに私達に告げる。

「話って。なに。」

不機嫌なまま告げるセシル君。

「はい。その・・・・お兄様の事何ですけど。」
「・・お兄様って・・・・ヴォルフの事ですよね?ヴァルレリオって言ってましたけど。」

「はい。ヴォルフは、お兄様の偽名です。本当の名前は、ヴァルレリオ・シリウス。当シリウス家の嫡男です。」

私の疑問に、セーラさんは返してくれる。

「偽名・・・・嫡男。」

「驚かれましたよね。」

「あっ、いえ。むしろ腑に落ちたというか・・・・。」

あの綺麗な所作は、貴族だったからか・・・・っとなんだか納得してしまった。

「10年前に突然家をお出になられてしまって・・・・ずっと行方を探していたのですが、なかなか見つからなくて。」

「やっと・・・・」

 言葉に詰まり、涙ぐむセーラさん。ふるふると震える姿に心からヴォルフの事を心配していたんだという気持ちが伝わってくる。

「やっと・・・・見つける事ができました。それで、私達はお兄様に家に戻ってきていただきたいのです。どうか、ミコト様、セシル様、協力していただけないでしょうか。」

ふわりと手をとられ、悲しげな瞳で見上げられる。

「あの・・・・協力といっても・・・・」
「家に戻るよう口添えいただけるだけでいいんです。どうかよろしくお願いします。」


 深々と下げられた頭に困惑してしまう。10年も帰ってないんだよね?ヴォルフと家との間に何があったかわからない。それを私達が言ったくらいで戻るなんて思えないけど・・・・でも・・・・震えるセーラさんを見ていたら、藁をも掴む思いで告げて・・・・そんな気がして断る事ができなかった。



◇◇◇

「ミコトは、協力する気なの?」

宿で寛ぐ私に、セシル君が言う。

「セーラさんのお願いのこと?」
「それ以外何があるっていうの。」
「・・・・でも、あんな風にお願いされて何もしない訳にもいかないよね・・・・」

ーはぁ。

「お人好し過ぎるのも、どうかと思うよ?」

ため息混じりに言われ、言葉が継げない。

「家の問題だなんて、他人が立ち入るべきじゃない。ヴォルフに戻ってきて欲しいなら、シリウス家の人間がどうにかすべきだ。僕らが関わる事で、あいつが素直に出戻るとでも?」

「そうは・・・・思わないけど・・・・」

「ならこの件に関わるのは、やめておきなよね。」

 セシル君が、強い眼差しで私を見つめる。

「そうだよね。ヴォルフから言われない限り・・・・私達は動くべきじゃないよね。」

・・・・

 ・・・・セシル君と別れ、部屋の前に立つ。私はどうしたかったんだろう。断れなかったのは、セーラさんの眼差しにヴォルフへの想いを感じたから。海の帰りに宿屋の前で耳にしたあの哀しみと愛しさを孕んだ切ない声。

「義理の妹・・・・か・・・・」

ー愛されれば奪う・・・・

ヴォルフは、そう言っていた。なら・・・・セーラさんは?
セーラさんは、きっとヴォルフを愛している。妹として以上に。だから避けてるの?いつの段階で命を失うの?セーラさんが、ヴォルフを愛しているなら・・・・

「家には帰れないよね・・・・」

ーガチャ。部屋の扉をあけ中に入る。

「やっぱり・・・・お家帰りたいんだね。お姉ちゃん。」

「え?」

突然声をかけられ、固まる。
閉じた扉の前に、男の子が立っていた。
いつの間に?どうして?誰?

「帰る方法はあるよ。」

にこにこと笑いながら、こちらに近づいてくる幼い少年。
黒髪に紫の瞳。どうして?なんで子供が私の部屋に?

「えっと。君は?なんでここに?どうしてそんな事を?」

後ずさる私に、笑顔を崩さずに近ずいてくる。
彼から感じる違和感。
あどけない表情とは裏腹に、有無を言わさぬ空気を纏っている。

「待ちくたびれちゃったの。あまりにも遅いから。僕。ずっとずっと待ってたんだよ?ねぇ、なんで来ないの?恋はしたの?まだ来れない?」

眉を下げ、泣き出しそうな表情を作る少年。

「え?恋?待ちくたびれたって?」

思わず問いかけるが、彼の耳に私の声は届かない。

「ねぇ。セシルにした?それともヴォルフ?以外にルドルフとか?それともどれもダメだった?うーん困ったなぁ。僕も限界なんだよね。これ以上は、待ってあげられないの。」

ーどうしよう。・・・・これ以上下がれない。
なんで?なんでこの子は、迫ってくるの?言ってる意味もわからない。

「どれもダメなら、僕でもいいよ?」


「え?」

「うん。僕にする?」

 腕を掴まれ引っ張られる。

「えっちょっと!?なに!?キミは一体!?」

捕まれた腕が熱い。少年の足元から光が湧き出てくる。


これって・・・・あの校舎裏で私の足元で光っていたのと同じ・・・・・・


ー魔法・・・・・・陣?




「一緒に行こっ。」


身体が光に包まれ、視界が暗転する。


「僕が帰してあげるよ。元の世界へ。ねぇ、だから・・・・僕のお願い聞いてね?お姉ちゃん・・・・。」

遠くなる意識の中、幼いその声が頭の奥でこだました。

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