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第1章
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家のごたごたを片付け、遅くに戻ったヴォルフ。
そこにミコトの姿はなかった。ミコトは誰にも何も告げず、姿を消していた。
「ヴォルフ!!お前がミコトを何処かにやったのか!!」
ヴォルフが戻るなり、取り乱した様子のセシルが掴みかかってきた。元々白い顔をますます青白くさせて。ルドルフは、街を探しまわっていて、まだ宿に戻っていない。
セシルを振り払い、ミコトの部屋に入る。その部屋に残る、魔力と匂いを感じ取ると、ヴォルフは顔を顰めた。
(まさか直接来るとは思わなかった。マジか・・・・。)
「・・・・ちっ。こうなるなら、突き放さずに俺が側にいればよかった・・・・」
苛立ち唸るヴォルフを、セシルが掴みかかり問い詰める。
「なんだよ!何か知ってるのか!?ミコトは何処なんだ!?何処にいるんだよ!!」
その言葉に、ヴォルフは顔をさらに顰める。
「お前・・・・好きな女くらい・・ちゃんと守れよ・・・・」
「は?」
「お前がいるから・・俺はお嬢さんから離れたのに・・・・俺よりお前の方が、お嬢さんを大切にできると思ったってーのに・・・・なにやってんだよ。」
剣呑とした視線を落としながら、ヴォルフはセシルに言葉を続ける。それはセシルに取って、残酷な宣告に等しい言葉。
「・・・・お嬢さん・・・・神子は魔王城だ。あの方に連れ去られてる。この部屋にその魔力の痕跡と匂いが残っている。」
胸ぐらを掴んでいた、セシルの手を振り解き吐き捨てる。
「わかったらさっさと魔法陣を展開しろ、・・・・ああ、その前にルドルフの旦那を呼び戻さないとな。俺が行ってくる。その間に準備しておけ。」
「・・・・まさかあの方が?・・・・だってそんな力はもう・・・・」
ヴォルフの言葉を聞き、放心状態のセシル。それをヴォルフは一瞥する。
「信じる信じないは勝手だが、神子が大事ならさっさと動け。手遅れになりたくないならな。」
ー・・こうなるなら、あの時攫えば良かった。攫って匿って、いっそ共に死ねばよかった。お嬢さんは・・・・俺に心を向けてきていたから・・・・そして俺も・・・・奪われてから自覚するなんて情けねーだろ・・・・。あの夜・・誤魔化さずに向き合っていれば・・・・。
ヴォルフは、唇を噛み締めた。握りしめた拳は、うっすらと血を滲ませている。
「どうせ誰かが傷付けるなら・・・・俺があいつを傷付ける・・・・」
金色の瞳を曇らせ、ヴォルフは宿をあとにした。
◆◆◆
第1章
終
そこにミコトの姿はなかった。ミコトは誰にも何も告げず、姿を消していた。
「ヴォルフ!!お前がミコトを何処かにやったのか!!」
ヴォルフが戻るなり、取り乱した様子のセシルが掴みかかってきた。元々白い顔をますます青白くさせて。ルドルフは、街を探しまわっていて、まだ宿に戻っていない。
セシルを振り払い、ミコトの部屋に入る。その部屋に残る、魔力と匂いを感じ取ると、ヴォルフは顔を顰めた。
(まさか直接来るとは思わなかった。マジか・・・・。)
「・・・・ちっ。こうなるなら、突き放さずに俺が側にいればよかった・・・・」
苛立ち唸るヴォルフを、セシルが掴みかかり問い詰める。
「なんだよ!何か知ってるのか!?ミコトは何処なんだ!?何処にいるんだよ!!」
その言葉に、ヴォルフは顔をさらに顰める。
「お前・・・・好きな女くらい・・ちゃんと守れよ・・・・」
「は?」
「お前がいるから・・俺はお嬢さんから離れたのに・・・・俺よりお前の方が、お嬢さんを大切にできると思ったってーのに・・・・なにやってんだよ。」
剣呑とした視線を落としながら、ヴォルフはセシルに言葉を続ける。それはセシルに取って、残酷な宣告に等しい言葉。
「・・・・お嬢さん・・・・神子は魔王城だ。あの方に連れ去られてる。この部屋にその魔力の痕跡と匂いが残っている。」
胸ぐらを掴んでいた、セシルの手を振り解き吐き捨てる。
「わかったらさっさと魔法陣を展開しろ、・・・・ああ、その前にルドルフの旦那を呼び戻さないとな。俺が行ってくる。その間に準備しておけ。」
「・・・・まさかあの方が?・・・・だってそんな力はもう・・・・」
ヴォルフの言葉を聞き、放心状態のセシル。それをヴォルフは一瞥する。
「信じる信じないは勝手だが、神子が大事ならさっさと動け。手遅れになりたくないならな。」
ー・・こうなるなら、あの時攫えば良かった。攫って匿って、いっそ共に死ねばよかった。お嬢さんは・・・・俺に心を向けてきていたから・・・・そして俺も・・・・奪われてから自覚するなんて情けねーだろ・・・・。あの夜・・誤魔化さずに向き合っていれば・・・・。
ヴォルフは、唇を噛み締めた。握りしめた拳は、うっすらと血を滲ませている。
「どうせ誰かが傷付けるなら・・・・俺があいつを傷付ける・・・・」
金色の瞳を曇らせ、ヴォルフは宿をあとにした。
◆◆◆
第1章
終
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