異世界の神子は、逆ハーを望まない

一花八華

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第2章

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 瞳を開けると、見知らぬ天井がそこにあった。細やかに蔦や葉の装飾を施された天板。キラキラと零れるシャンデリア。身を捩ると、手には滑らかな感触。指は、シルクのような肌触りのシーツに触れる。身体は、深々とベッドに沈んでいた。


(えっと・・・・ここは何処だっけ?私は・・・・一体)


 頭の芯が、ぼおっとしている。薄い膜が張っているような、じんわりとした鈍い痺れ。

(たしか、大学で先輩に声をかけられて・・・・私、すごく酷い事を先輩に言って・・・・)

 男性が苦手で、つい酷い言葉で先輩を突き放した。それから、酷く後悔してそこで・・・・


「目ぇ覚めた?」

 ああ、そうだ。何故か足元が光って、暗転して、変な世界に居て。そこで異世界の神子って呼ばれて・・・・。


「なんだ。まだ、夢の狭間に居るのか。」

 そうそう。夢みたいな事が起こったんだっけ。私は神子で、魔王を倒して欲しいって。その為に旅をして・・・・


「ああ。そっか・・・・夢・・・・」


 全部夢で、これも夢で、今私は夢を見ていて・・・・夢の中で好きな人ができて、私を好きだと言ってくれる人もいて・・・・

「夢・・・・あんなに胸が苦しくなったり、ドキドキしたのに・・・・全部・・・・夢・・・・なんだ。」

 夢なら覚めなきゃ。起きて、顔を洗って、バイトにも行かなきゃ。それに、先輩にも謝って、それから一緒に海に・・・・。


「・・・・やだ。」

 一緒に行きたいのは、先輩じゃない。隣にいて欲しいのはあの人じゃない。夢なのに、私の見る都合のいい夢なのに・・・・


「夢なら・・・・醒めたくない。」





「・・・・なら、まだ眠っとく?俺はあんたがそう望むなら・・それでもいい。」

 ぼんやりとした視界に、さらさらと流れる銀髪が入る。褐色の長い指が、私の頬に触れ、それからそっと唇をなぞる。

「夢のまま、ずっと俺と・・・・こうしてる?」


 切なく告げるその声は、艶っぽく色気を含んでいて、耳奥からお腹の底の方へと落ち、ぞくりと肌を粟立たせた。

「ん・・・・んんっ。」

 熱を宿した、金色の瞳が私を捉える。唇を奪われ、頭の痺れが増していく。

誰だっけ?
誰だっけ?

この人は。

たしか、私、前にもこうして、誰かと口付けをした



「・・・・ヴ・・・・ヴォルフ?」

ーぷはっと離れた唇。薄くなった酸素を懸命に取り込みながら、私は目の前にいる人物に問いかける。

 吐息のかかる距離で、こちらを見つめる彼。
 銀髪に金色の瞳の狼。



「な・・・・なんで?」



 確か、私は宿屋に居て・・・・セシル君と話した後それで・・・・


「そうよ!私、確か貴方を心配して・・・・目の前に男の子がいて、そしたら急に・・・・」



 思い出した。

 私、連れて来られたんだった。此処に。突然現れた男の子が、私を「帰してやる」って言って。彼処から連れ去ったんだった。

「どうして?どうして此処にヴォルフがいるの?だって此処は・・・・」

「そ。魔王城。」

 狼狽える私に、ヴォルフは顔色ひとつ変えずに返す。ラフだった筈の格好は、細やかな装飾の施された衣装に変わっている。物語の貴族が着るような衣装で・・・・。

「うん。俺、魔王様の配下なわけ。あんたを攫ったのは魔王様。」

 ーギシッ。

ベッドに手を付き、ヴォルフが私の瞳を覗き込んでくる。



「連れ去ったはいいけど、あんたが夢から覚めるのを嫌がるから・・・・俺が遣わされた。だから、今・・・・此処にいる。」


 ゆらゆらと揺れる金色。ヴォルフの声が、何処か遠くから聞こえてくるようで・・・・また頭にじんわりと薄い膜が張っていく。ヴォルフの言葉の意味を・・・・理解するのを心が拒否していく。


「・・・・正直、あんたを逃がしてやりたいけど・・・・それはできそうにない。だから選ばせてやる。このまま目を閉じて、夢の世界に浸るか・・・・。真実を知って、元の世界に戻るか・・・・。」

 クイッと顎を持ち上げられ、無理矢理に視線を絡め取られる。



「真実を知りたいなら、俺が話してやる。」


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