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第2章
~大人になった日~2
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「ミコトも……知ってる? 」
その言葉に、血の気が失せていく。ミコトも知っている?ナニを?
「自分が何の為に此処に呼ばれたのか。俺達が何の為に神子の護衛をしているか、お嬢さんに話した」
ひとけのない城の廊下。ヴォルフの声が、静けさの中響く。
「……」
ずるずると抜けそうになる足の力。頭が真っ白だ。ヴォルフの襟元を掴む手で、辛うじて上を向く。
ミコトも知っている。僕等が、ミコトを孕ます為に側にいた事を知っている……。僕が知っていたかなんて関係ない。ミコトにとって、護衛はそういう目的で神子に付いていた。それが真実だ。
「……んで」
「あ?」
「……なんで話したんだ」
握り締めた手に力が籠る。何故話した? ミコトが知ったらどう思う? この世界を、自分を……それに……
「話さなくていいと思うのか? 」
「当たり前だろ!? 」
そんな事聞かされたら、ミコトが傷つくに決まってるじゃないか! 馬鹿なのか!?
「ミコトを想うなら話すべきじゃない……」
「お嬢さんを想うなら、話すべきだろ」
かち合う瞳、ヴォルフの身勝手さに怒りが募る。
「後になればなる程、お嬢さんの心は壊れるぞ? 積み上げてた信頼や愛情が深く大きい程、裏切られた時の傷は深くお嬢さんを殺す」
「なっ、それは……」
「どんなに上手く隠しても、いつか必ず知る時がくる。心を傷付けられても人は死ぬんだよ」
鼻先にかかる息。上から見下ろされ、覗き込まれる。その苛立ちと諦めの宿る瞳に見つめられ、焦燥感を覚える。
「傷つきたくないのは、自分の方だろ? 」
至近距離で揺れる金色の瞳。
「お嬢さんが真実を知る事で、拒絶されるのが怖い。自分も命令でお嬢さんに接していたと思われるのが嫌だから。だから知らせたくなかった……そうなんだろ? 」
断定的に告げられる言葉。責められ、気付き、傷つく。
ミコトを傷付けたくない!
その気持ちは本当なのに、僕は知られたくなかった。
知られる事で、ミコトに誤解され拒絶される。
それが怖かったんだ。
「歳ばかり重ねても、大人とは言わねぇよ。少なくとも、今のお前を【大人】の一員と俺は認めない」
ートン。
肩を押され、よろける。膝をついた床。呆然とその場に座り込む僕を残し、ヴォルフは居なくなった。
身勝手なのは、ヴォルフじゃない。
身勝手なのは、自分の事しか考えられない僕の方だ。
ミコトを想う気持ちは、本当なのに……
「ばっかじゃないの? 」
大人に近づいたつもりでいた。大人になった気でいた。ミコトに釣り合うように、ミコトに振り向いてもらえるように、背伸びせずに届く気がした。
「ガキじゃん。好きな女の事より、自分が拒絶される方が怖いだなんて、ガキ過ぎて笑えない」
それをヴォルフに見透かされていた事が、悔しくて情けなくて……
「振り向いてもらえるわけない。こんなんじゃ……」
立ち上がる事もできず、片手で顔を覆い息を吐く。こんなんじゃだめだ。もっと大人に……男にならないと。こんなんじゃ、ミコトを護れない。
ガキで、弱くて、自分の事でいっぱいいっぱいで……それでも
「ミコトに嫌われたくない」
ミコトにまで拒絶されるなんて……考えただけで、息ができなくなる。
ヴォルフの言葉や態度に、勝手に焦って一人落ち込む。
あいつのように大人で余裕があれば、ミコトをもっと支えられた? 自分の事じゃなく、ミコトの事を考えられた?
「好きなんだよ。仕方ないじゃないか」
あいつが妬ましい。ミコトに見てもらえるあいつが。意識されるあいつが。
なんで僕は、ヴォルフじゃないんだろう。
よろよろと立ち上がり、自室に戻った後も、僕はその事ばかりを考えていた。
その言葉に、血の気が失せていく。ミコトも知っている?ナニを?
「自分が何の為に此処に呼ばれたのか。俺達が何の為に神子の護衛をしているか、お嬢さんに話した」
ひとけのない城の廊下。ヴォルフの声が、静けさの中響く。
「……」
ずるずると抜けそうになる足の力。頭が真っ白だ。ヴォルフの襟元を掴む手で、辛うじて上を向く。
ミコトも知っている。僕等が、ミコトを孕ます為に側にいた事を知っている……。僕が知っていたかなんて関係ない。ミコトにとって、護衛はそういう目的で神子に付いていた。それが真実だ。
「……んで」
「あ?」
「……なんで話したんだ」
握り締めた手に力が籠る。何故話した? ミコトが知ったらどう思う? この世界を、自分を……それに……
「話さなくていいと思うのか? 」
「当たり前だろ!? 」
そんな事聞かされたら、ミコトが傷つくに決まってるじゃないか! 馬鹿なのか!?
「ミコトを想うなら話すべきじゃない……」
「お嬢さんを想うなら、話すべきだろ」
かち合う瞳、ヴォルフの身勝手さに怒りが募る。
「後になればなる程、お嬢さんの心は壊れるぞ? 積み上げてた信頼や愛情が深く大きい程、裏切られた時の傷は深くお嬢さんを殺す」
「なっ、それは……」
「どんなに上手く隠しても、いつか必ず知る時がくる。心を傷付けられても人は死ぬんだよ」
鼻先にかかる息。上から見下ろされ、覗き込まれる。その苛立ちと諦めの宿る瞳に見つめられ、焦燥感を覚える。
「傷つきたくないのは、自分の方だろ? 」
至近距離で揺れる金色の瞳。
「お嬢さんが真実を知る事で、拒絶されるのが怖い。自分も命令でお嬢さんに接していたと思われるのが嫌だから。だから知らせたくなかった……そうなんだろ? 」
断定的に告げられる言葉。責められ、気付き、傷つく。
ミコトを傷付けたくない!
その気持ちは本当なのに、僕は知られたくなかった。
知られる事で、ミコトに誤解され拒絶される。
それが怖かったんだ。
「歳ばかり重ねても、大人とは言わねぇよ。少なくとも、今のお前を【大人】の一員と俺は認めない」
ートン。
肩を押され、よろける。膝をついた床。呆然とその場に座り込む僕を残し、ヴォルフは居なくなった。
身勝手なのは、ヴォルフじゃない。
身勝手なのは、自分の事しか考えられない僕の方だ。
ミコトを想う気持ちは、本当なのに……
「ばっかじゃないの? 」
大人に近づいたつもりでいた。大人になった気でいた。ミコトに釣り合うように、ミコトに振り向いてもらえるように、背伸びせずに届く気がした。
「ガキじゃん。好きな女の事より、自分が拒絶される方が怖いだなんて、ガキ過ぎて笑えない」
それをヴォルフに見透かされていた事が、悔しくて情けなくて……
「振り向いてもらえるわけない。こんなんじゃ……」
立ち上がる事もできず、片手で顔を覆い息を吐く。こんなんじゃだめだ。もっと大人に……男にならないと。こんなんじゃ、ミコトを護れない。
ガキで、弱くて、自分の事でいっぱいいっぱいで……それでも
「ミコトに嫌われたくない」
ミコトにまで拒絶されるなんて……考えただけで、息ができなくなる。
ヴォルフの言葉や態度に、勝手に焦って一人落ち込む。
あいつのように大人で余裕があれば、ミコトをもっと支えられた? 自分の事じゃなく、ミコトの事を考えられた?
「好きなんだよ。仕方ないじゃないか」
あいつが妬ましい。ミコトに見てもらえるあいつが。意識されるあいつが。
なんで僕は、ヴォルフじゃないんだろう。
よろよろと立ち上がり、自室に戻った後も、僕はその事ばかりを考えていた。
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