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望んでいた筈のモノ
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背後の壁から、無機質な冷たさを感じる。強く掴まれた腕と、私を射抜くお義兄様の紫色の瞳。それは、詰るように私を見つめ微かに震えていた。
「セリーナ……お前は、俺の事など……なんとも思っていなかったのだな」
お義兄様のその言葉に、私は返す事ができない。
「あっ……その……ごめんなさい。お義兄様。私……」
絶望し、縋るような目で私を拘束するお義兄様。私の態度が、お義兄様を勘違いさせ、傷つけたのね。私、お義兄様が怖くて嫌われていると思い込んで、お義兄様と向き合ってこなかった。でも、だからといって今更その気持ちには応えられない。
「……クラウスと想いあっていたとは……知らなかった。気付かなかった俺の怠慢だな。外にばかり気を向けて、中の害虫を駆除し損ねた……」
「え?」
「セリーナ……クラウスとはどこまでいったんだ? 想いは告げたのか? キスは? もう彼奴に抱かれたのか?」
私の腕を掴んだまま、お義兄様が抑揚のない声で問いかけてくる。仄暗い闇を感じゾクリと肌が粟立つ。
「ク……クラウスとは何も」
始まる前に、クラウスは消えてしまったから。
私に待っていてくれと囁いたクラウスは、あれは夢だったのよ。私が見た都合の良い夢。クラウスは、私の醜態に飽きれて執事を辞めた。もしかしたら、お父様が何か勘づきクラウスを解雇したのかもしれない。居なくなったクラウスに関して、何も口にしないのが何よりの証拠だわ。
「そうか……それは良かった」
「……よかった?」
私の返事に、お義兄様がくつりと笑う。良かったとは?何が?
「クラウスを殺さずにすみそうだ」
不穏な言葉にドキリとする。コロス?お義兄様……今、クラウスを殺すって言った?呆然と見上げる私に、お義兄様は冷たく告げる。
「……お前の心だけでなく、身体まで奪ったとしたら……生かしておけないだろう?」
「……え」
「ただでさえ、嫉妬で狂いそうなんだ。ああ、よかったよセリーナ。お前がまだ無垢で真っ白なのだと知れて。あの男の手を折り、指を切り落とし、お前に触れた全てを切り刻み、お前を見つめる瞳を潰さずに済んだ……」
「お……お義兄様?」
何をおっしゃって……
「んんっ」
顎を持ち上げられ、無理矢理口を塞がれた。緊張と恐怖からカサついた私の唇。それをお義兄様の赫い唇が覆う。
「ふグッ! んん! んー! んー!!」
いやいやと首を振り、空いた手で必死にお義兄様の肩を押す。身体を壁に押さえつけられ、逃げられない。お義兄様の唇は、カサつく私の唇を何度も何度も角度をかえ荒々しく貪っていく。
──嫌!やだっ!なんで!?私、なんでお義兄様にキスされてるの!?そんなっ!血は繋がってなくても兄妹なのよ!?それに私はクラウスが好きで……
頭を壁に押さえつけられ、両手で顔をぐっと拘束される。怖くて、悲しくて、悔しくて、目からははらはらと涙が零れる。涙と唾液で汚れていく。逃げなきゃ。なんとかしなきゃ。拘束を緩めようとお義兄様の唇に噛み付いた。口に鉄の味がジワリと拡がって……。
「あぁ、悪い子だな。セリーナ。俺を拒むのか」
口元の血をぬるりと舐めあげたお義兄様。その光のない目にゾッとする。
「イケナイ子だ。これから夫となる俺を拒んで……辛くなるのはセリーナだというのに」
「わ……わたしは、貴方と婚約なんて……」
「そうだな。今のままじゃセリーナを頷かせるのは難しいな。だが、明日になればリチャードが動く。……だから選択肢をやろう」
悲しげな顔を見せ呟くお義兄様。その淀んだ瞳には、怯えた私の姿が映っている。
「セリーナ……今、俺の求婚に頷くか……俺に無理矢理奪われ王子との婚約を破棄するか」
鎮まり返った廊下に、お義兄様の冷え冷えとしたそれでいて、熱を孕んだ声が落とされる。目を細め微笑むお義兄様。その顔は、今まで見たどのお義兄様よりも妖艶で美しく、私は思わず息を呑む。
「……好きに選ぶといい」
告げられた言葉は、何処か投げやりでそのまま虚空に消えてしまいそうだった。
「お義兄様……なぜ……」
冷たさを孕む美しい顔。光のない瞳は、胡乱としたまま私を捉えている。手の拘束は解けたものの、逃げ出す隙がみえない。
選べ?お義兄様との婚姻を了承するか、お義兄様に奪われリチャード王子と婚姻破棄するかを?……婚姻破棄って、それは明日の事でまだ何も……それに奪われるって一体なにを
「ああ、リチャードがお前に求婚するのは明日だ。あれもお前に執着しているからな、お前がどんなに嫌がって逃げても諦めないだろう」
疑問を浮かべる私に、お義兄様はそう告げる。リチャード王子の名前を口にした際は、忌々しげに目を細めた。
「それこそ、お前がキズモノで王族と婚姻は結べない。─とならない限りな」
「キズ……もの?」
「ああ、わからないのか? 初心なお前も可愛いなセリーナ。お前が俺に抱かれ、処女でないとなれば……リチャードもお前を諦めざる負えない。そう言ってるんだ」
そう囁くお義兄様。その瞳は赤味を帯びた紫色で……獲物を捉えた捕食者の顔をしていた。
「セリーナ……お前は、俺の事など……なんとも思っていなかったのだな」
お義兄様のその言葉に、私は返す事ができない。
「あっ……その……ごめんなさい。お義兄様。私……」
絶望し、縋るような目で私を拘束するお義兄様。私の態度が、お義兄様を勘違いさせ、傷つけたのね。私、お義兄様が怖くて嫌われていると思い込んで、お義兄様と向き合ってこなかった。でも、だからといって今更その気持ちには応えられない。
「……クラウスと想いあっていたとは……知らなかった。気付かなかった俺の怠慢だな。外にばかり気を向けて、中の害虫を駆除し損ねた……」
「え?」
「セリーナ……クラウスとはどこまでいったんだ? 想いは告げたのか? キスは? もう彼奴に抱かれたのか?」
私の腕を掴んだまま、お義兄様が抑揚のない声で問いかけてくる。仄暗い闇を感じゾクリと肌が粟立つ。
「ク……クラウスとは何も」
始まる前に、クラウスは消えてしまったから。
私に待っていてくれと囁いたクラウスは、あれは夢だったのよ。私が見た都合の良い夢。クラウスは、私の醜態に飽きれて執事を辞めた。もしかしたら、お父様が何か勘づきクラウスを解雇したのかもしれない。居なくなったクラウスに関して、何も口にしないのが何よりの証拠だわ。
「そうか……それは良かった」
「……よかった?」
私の返事に、お義兄様がくつりと笑う。良かったとは?何が?
「クラウスを殺さずにすみそうだ」
不穏な言葉にドキリとする。コロス?お義兄様……今、クラウスを殺すって言った?呆然と見上げる私に、お義兄様は冷たく告げる。
「……お前の心だけでなく、身体まで奪ったとしたら……生かしておけないだろう?」
「……え」
「ただでさえ、嫉妬で狂いそうなんだ。ああ、よかったよセリーナ。お前がまだ無垢で真っ白なのだと知れて。あの男の手を折り、指を切り落とし、お前に触れた全てを切り刻み、お前を見つめる瞳を潰さずに済んだ……」
「お……お義兄様?」
何をおっしゃって……
「んんっ」
顎を持ち上げられ、無理矢理口を塞がれた。緊張と恐怖からカサついた私の唇。それをお義兄様の赫い唇が覆う。
「ふグッ! んん! んー! んー!!」
いやいやと首を振り、空いた手で必死にお義兄様の肩を押す。身体を壁に押さえつけられ、逃げられない。お義兄様の唇は、カサつく私の唇を何度も何度も角度をかえ荒々しく貪っていく。
──嫌!やだっ!なんで!?私、なんでお義兄様にキスされてるの!?そんなっ!血は繋がってなくても兄妹なのよ!?それに私はクラウスが好きで……
頭を壁に押さえつけられ、両手で顔をぐっと拘束される。怖くて、悲しくて、悔しくて、目からははらはらと涙が零れる。涙と唾液で汚れていく。逃げなきゃ。なんとかしなきゃ。拘束を緩めようとお義兄様の唇に噛み付いた。口に鉄の味がジワリと拡がって……。
「あぁ、悪い子だな。セリーナ。俺を拒むのか」
口元の血をぬるりと舐めあげたお義兄様。その光のない目にゾッとする。
「イケナイ子だ。これから夫となる俺を拒んで……辛くなるのはセリーナだというのに」
「わ……わたしは、貴方と婚約なんて……」
「そうだな。今のままじゃセリーナを頷かせるのは難しいな。だが、明日になればリチャードが動く。……だから選択肢をやろう」
悲しげな顔を見せ呟くお義兄様。その淀んだ瞳には、怯えた私の姿が映っている。
「セリーナ……今、俺の求婚に頷くか……俺に無理矢理奪われ王子との婚約を破棄するか」
鎮まり返った廊下に、お義兄様の冷え冷えとしたそれでいて、熱を孕んだ声が落とされる。目を細め微笑むお義兄様。その顔は、今まで見たどのお義兄様よりも妖艶で美しく、私は思わず息を呑む。
「……好きに選ぶといい」
告げられた言葉は、何処か投げやりでそのまま虚空に消えてしまいそうだった。
「お義兄様……なぜ……」
冷たさを孕む美しい顔。光のない瞳は、胡乱としたまま私を捉えている。手の拘束は解けたものの、逃げ出す隙がみえない。
選べ?お義兄様との婚姻を了承するか、お義兄様に奪われリチャード王子と婚姻破棄するかを?……婚姻破棄って、それは明日の事でまだ何も……それに奪われるって一体なにを
「ああ、リチャードがお前に求婚するのは明日だ。あれもお前に執着しているからな、お前がどんなに嫌がって逃げても諦めないだろう」
疑問を浮かべる私に、お義兄様はそう告げる。リチャード王子の名前を口にした際は、忌々しげに目を細めた。
「それこそ、お前がキズモノで王族と婚姻は結べない。─とならない限りな」
「キズ……もの?」
「ああ、わからないのか? 初心なお前も可愛いなセリーナ。お前が俺に抱かれ、処女でないとなれば……リチャードもお前を諦めざる負えない。そう言ってるんだ」
そう囁くお義兄様。その瞳は赤味を帯びた紫色で……獲物を捉えた捕食者の顔をしていた。
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