執事が〇〇だなんて聞いてない!

一花八華

文字の大きさ
15 / 18

降り注ぐキス

しおりを挟む
 ちゅっ。ちゅっ。小さなリップ音が、薄紫色に統一された部屋いっぱいに拡がる。頭に、頬に、首筋に、手に……たくさんのキスを落とされ、目眩がする。
 ふかふかと柔らかなベッドの上。白いシーツに身を沈める私。その上にはクラウスがいて、私はされるがままになっている。……ああ、これってこの状態って……前にもあったわ。一ヶ月前、夜這いが失敗し、クラウスに【お仕置き】をされた日。

 でも、あの時は耳をパクってされただけで……こんなに激しくなかった……

「く……クラウス? なっ……ナニをしてるの!?」
「何って、口付けですが」

 そんな事わかってるわよ!しれっと返さないで!何故キスこんな事してるのかを聞きたいのよ!

「そ……そんなにたくさんしないで!」
「……何を?」
「きっ……ききす」

 羞恥を抑え、もごもごと伝える。ああ、本当に無理。クラウスの唇が触れた場所が、擽ったくてもぞもぞする。なんでこんな事になってるの!?

 顔を真っ赤にしながら身を捩る私を見て、クラウスは動きを止めた。

「ああ、すみません。痛かったですよね。カサついて罅割れた俺の唇で、危うく貴女の美しい肌を傷つける所だった」

 親指の腹で、自身の唇を拭いながらそう呟く。ちがっ……そういう理由じゃない!私が言いたいのはそんな事じゃない!ーって

「ひゃん!」

 ぬるっとした感触が、肌を這う。「ぴちゃ」っと響く水音。

「く……クラウス!? なに! うそ! やっ。んんっ。ねぇ、貴方、ナニを……んんっ、指、指を舐めないで」
「……無理を言わないで下さい。貴女の肌を傷付けない為には、コレでするしかないでしょう?」

 そう言って、私の指一本一本にゆっくりと舌を這わせていくクラウス。ううっどうして?すごくドキドキする。形良いクラウスの口元から、ちろちろと覗く赤い舌が扇情的で……

「クラウス。だめ、舐めるの……変な気分に……なっちゃう……やめって……」

 はぁっ。と漏れでる吐息と言葉。どうしよう。なんだかこのまま流されてしまいそう。近くで感じるクラウスの温もり、吐息、感触。もっと触れて、交わって、感じたいという欲求が沸き起こる。

「やめる? やめませんよ。言ったじゃないですか。これはお仕置きだと」

 指を舐め、鎖骨を撫で、首元に舌を這わすクラウス。その声と舌遣いに、身体がゾクゾクと痺れる。

「ああ、貴女の身体は甘く罪深い。セリーナ……このまま貴女のすべてを食べてしまいたい」

 首筋を舐め上げられ、声が漏れそうになる。嫌だと言葉にするものの、身体に力は入らず、むしろ身体はその先を期待して熱を持つ。

「んん。だめ……こんな事……だめなのよ」

 なけなしの理性を掻き集め、必死に抗うのに……

「何故? 恋人同士でしょう?」

 耳元で、銀髪の悪魔がそう甘く囁く。恋人なら、いいじゃないか……と。

「ねぇ? 約束しましたよね? 俺が貴女の執事を辞め……戻ってきたら、恋人にしてくれるって。俺は戻ってきましたよ? 想いが通じ合い……恋人だと思っているのは……俺の方だけ? セリーナは、俺の事が嫌い?」

 少し拗ねたような表情かおを浮かべ、私の顔を覗き込んでくるクラウス……。ちょっと待って、貴方、そんな顔もするの!?破壊力半端ないんだけど!!私の心臓を止める気!?

「きっ……嫌いじゃないわ」
「……」

 平静を装いながら、なんとか答えるものの、クラウスはまだ拗ねた顔をこちらに向ける。
 
「す……好きよ! 大好き! ずっとずっと想っていた貴方とこっ恋人になれて嬉しくて……私、死んでしまいそうよ!」

 だから、もう本当に勘弁して!っと叫ぼうとしたら

「んんむむっ!」

 唇を塞がれた。

「んんっ! んっ! んっ!」

 クラーウス!なっナニをぉおお!?
 混乱する間に、クラウス(の舌)は侵入し私の(口の)中を掻き回していく。

「んっ……んあっ……はぁ」

 ちゅ。ちゅばっ。ぴちゃ。静まり返ったそこに、絡み合う舌の音が生々しく響き、私の頭に薄い膜を張っていく。ぼんやりと思考が停止していく。うわっ……だめだ。これ、気持ちいい。
 クラウスの長い舌が、歯をなぞり、擽り、私の舌を絡め取っていく。絡み合い、混ざり合って、口の端から零れる唾液。

 キスをしているだけなのに、なんでこんなに気持ちいいの?

 ─下半身が疼く。頭もまわらない。

「く……くら……うすぅ」

 息が上手くできない。はふはふと大きく呼吸する。気持ちい。好き。もっと。触れて。触れたい。もっと。
 クラウスの名前を呼ぶ。ピクリと固まり、唇が離れる。二人の間を糸がつうっと引く。ああ……もう……やめちゃうの?

「もっと……」

 キス……したかったなぁ……。そう思って見上げると、クラウスの瞳とかち合った。


 ギラギラと情欲の色を宿す、翡翠の瞳……。

 ああ、コレが欲しい。
 私は、コレがずっと欲しかった。

 だから、強請った。

「クラウス……貴方を……私に……ちょうだい?」

 
 それが、一線だと気付かずに、私はクラウスにそう強請ってしまった。


「……セリーナ」

 少しの静寂。その後に大きな溜息が零れる。

「……貴女ってひとは本当に……」

 恨み言を吐き出すように、クラウスが呟いた。私の肩に手をあて、がっくりと頭を垂れる。

「……どう……したの? くらうす?」

 急にどうしてしまったんだろう……私……何かいけない事でも言ってしまった?

「危うく……このまま抱いてしまう所でした……」

 ぐっ……と唇を噛み締め、悲痛の顔を浮かべるクラウス。

「え? だめ……なの?」

 恋人同士だし……私は、明日(あ、もう今日か)の卒業パーティで、リチャード王子に求婚されるらしいから(お義兄様情報)……ここでクラウスに抱いてもらえると嬉しいのだけど。

「私の初めて……いや?」 

 クラウスは、嫌だったのかしら……あっやっぱり嫌よね。自分から強請るようなふしだらな女だなんて。あー本当に私ったら……

「ごめんなさい……嫌よね。自分からこんな風に強請ったり、そもそも夜這いするような女なんて……」

 恥ずかしくて死にそうだわ。もう嫌、穴があるならこのまま入りたい。いえ!修道院にでも入って、神にすべてを捧げるわ!
 一生処女を貫くわ!っと決意を固めようとしたら、クラウスが片手で顔を覆いながら、しどろもどろと口を開いた。

「嫌……そうではなくてですね。セリーナ……貴女を妻にするには、結婚まで……手を出してはいけなくて……」
「え?」
「兄……あぁ、俺の兄と貴女の父君に婚約の許可はいただいたのですが、その……ここで手をだしてしまうと、色々と不味いので……非常に……遺憾なのですが、これ以上はできないのです」


しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...