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プロローグ:はじまりと予感
「風が吹いた午後」
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展望広場をあとにしたぼくらは、そのまま川べりへとおりていった。
夕方の陽ざしが少しやわらかくなっていて、キラキラ川のきらめきも、さっきより少し金色っぽく見えた。
「よしっ! 石投げ対決、やろうよ!」
と、最初に言いだしたのはショウだった。
ぼくらはしゃがんで、それぞれにちょうどよさそうな平たい石を探しはじめた。石を見つけるのにも、ちょっとした“コツ”がいる。
「おーし、アタシからね!」
アカネが胸を張って、大きめの石をつかんだ。
「アカネ、それじゃ跳ねないよ。重すぎ」
「うっ、そう?」
「石はなるべく平べったくて、軽いやつ。こんなふうにね」
ショウが手に持った石をひょいっと投げる。
「……おお! 三段跳びー!」
「やったね!」
ぼくも負けじと投げてみた。ポチャッ……一段。
「うわ、地味!」
アカネが爆笑する。
「よーし、ショウの記録、ぬかしてやる~!」
アカネが勢いよく投げた石は、ポチャンと派手な音をたててすぐ沈んだ。
「……それ、ゼロ段」
「え~~~っ!? そんなぁ!」
「もう一回ぼくがやる!」
トス、とショウがもう一度放った石が、ピョン、ピョン、ピョン……三回跳ねた。
「おおおっ!? また三段きたーっ!」
「すごーい!」
「ヒナちゃんはまだだよね。ほら、やってやって!」
「えっ、わたし……ええと、じゃあ……」
ヒナちゃんは、そっと見つけた小さめの石を持って、川の方に投げた。
ぽちゃ。
まっすぐに落ちて、一度も跳ねなかった。
「……ふふっ。むずかしいね」
「いや、ヒナちゃんのはね、水しぶきが一番キレイだった!」
「それ、フォローになってる?」
ヒナちゃんがくすっと笑うと、ぼくの胸のあたりがふわっとした。
でもその気持ちを言葉にするのは、なんだか照れくさかった。
そのとき、ふいに風が強くなって、ヒナちゃんの髪がふわりと舞い上がった。
やわらかそうな髪が、風に乗ってぼくのほうに流れてくる。
そして、ヒナちゃんの髪がぼくのほっぺにふれた。
「……っ!」
(な、なんだ、いまの……!)
急にドキンと心臓が鳴って、ぼくは思わず一歩あとずさった。
「……な、なんでもないっ!」
そう言って目をそらしたけど、ヒナちゃんはびっくりした顔をしたけど、すぐにやさしく笑ってくれた。
「風、強かったね。……ごめんね」
「ち、ちがう! ヒナちゃんは悪くないからっ!」
ああもう、ぼく、なに言ってるんだ。
その時、向こう岸から「おーい!」と声がした。
見れば、釣りをしていたおじいさんが、こちらを見ながら手をふっていた。
「川に落ちるなよ~! 流されたら、魚より先にワシが釣っちゃうぞ~!」
「はーい!」
アカネが手をふりながら答える。
「お世話好きなおじいちゃんとおばあちゃんって、どこ行ってもぜったいにひとりはいるよね~!」
「そうそう。見守ってくれてるのはありがたいけど、ちょっとだけ恥ずかしい……かな」
ヒナちゃんが、はにかみながら言った。
「でもね、水の流れって、見た目より速いときがあるんだって。お母さんが言ってたよ。だから、入っちゃダメなんだって」
「えらいね、ヒナちゃん」
「ふふっ、ありがと」
この町の川は、たしかにきれいで、のどかで、でも油断しちゃいけない力も持ってる。
そんなことを、ぼくは思った。
石投げでひとしきり遊んだあとは、ぼくらは川沿いの道を歩いて、それぞれの家へと向かっていた。
ザッ、ザッ……。
スニーカーが土の道をこすれる音。
田んぼから、カエルの「ゲコゲコ……」という鳴き声が聞こえてくる。
もうすぐ、夕ごはんの時間。
空は少しだけオレンジに染まりはじめていて、風がゆるく吹いている。
「ねぇ」
ぽつんと、アカネが口をひらいた。
「今年の夏ってさ……なんか、すごいこと起きそうじゃない?」
「すごいこと?」
ショウが眉をあげる。
「うん。なんかさ、いつもとちがう風がふいてる気がするっていうか……あたし、今日の“アイスの当たり”でピンときたんだよね!」
「いや、それはただの運じゃないかな……」
ショウが半分あきれながら言ったけど、アカネはまったく気にしてない様子だった。
「えー、でもなんか、あるって! “夏の事件”とか、“探しもの”とか、“宝探し”とか!」
「宝探しって、どこの海賊だよ……」
ぼくは苦笑いしながら、横を歩くヒナちゃんの方をちらりと見た。
「……起きるといいね」
ヒナちゃんがぽつりと言った。
その声が、風にのってすうっと耳にとけていく。
「……うん」
ぼくはうなずいた。
なんとなく、胸のなかにポッと小さな火がともったような気がした。
そして、ぼくも口にしていた。
「……起きるよ、きっと」
アカネが「でしょー!」って言いながらスキップしはじめた。
ショウは「ほんとに単純だなあ」って言ってたけど、その顔は楽しそうだった。
いつもの道。
いつもの四人。
でも、空気の中にまざってる“なにか”が、少しだけちがっていた。
今年の夏。
この町で、なにかがはじまる気がする。
そう思ったのは、ぼくだけじゃなかった。
たぶん、みんな、なんとなく、感じていたんだ。
きらきら光る川のそばで、風がそっと合図をおくってくれたみたいだった。
夕方の陽ざしが少しやわらかくなっていて、キラキラ川のきらめきも、さっきより少し金色っぽく見えた。
「よしっ! 石投げ対決、やろうよ!」
と、最初に言いだしたのはショウだった。
ぼくらはしゃがんで、それぞれにちょうどよさそうな平たい石を探しはじめた。石を見つけるのにも、ちょっとした“コツ”がいる。
「おーし、アタシからね!」
アカネが胸を張って、大きめの石をつかんだ。
「アカネ、それじゃ跳ねないよ。重すぎ」
「うっ、そう?」
「石はなるべく平べったくて、軽いやつ。こんなふうにね」
ショウが手に持った石をひょいっと投げる。
「……おお! 三段跳びー!」
「やったね!」
ぼくも負けじと投げてみた。ポチャッ……一段。
「うわ、地味!」
アカネが爆笑する。
「よーし、ショウの記録、ぬかしてやる~!」
アカネが勢いよく投げた石は、ポチャンと派手な音をたててすぐ沈んだ。
「……それ、ゼロ段」
「え~~~っ!? そんなぁ!」
「もう一回ぼくがやる!」
トス、とショウがもう一度放った石が、ピョン、ピョン、ピョン……三回跳ねた。
「おおおっ!? また三段きたーっ!」
「すごーい!」
「ヒナちゃんはまだだよね。ほら、やってやって!」
「えっ、わたし……ええと、じゃあ……」
ヒナちゃんは、そっと見つけた小さめの石を持って、川の方に投げた。
ぽちゃ。
まっすぐに落ちて、一度も跳ねなかった。
「……ふふっ。むずかしいね」
「いや、ヒナちゃんのはね、水しぶきが一番キレイだった!」
「それ、フォローになってる?」
ヒナちゃんがくすっと笑うと、ぼくの胸のあたりがふわっとした。
でもその気持ちを言葉にするのは、なんだか照れくさかった。
そのとき、ふいに風が強くなって、ヒナちゃんの髪がふわりと舞い上がった。
やわらかそうな髪が、風に乗ってぼくのほうに流れてくる。
そして、ヒナちゃんの髪がぼくのほっぺにふれた。
「……っ!」
(な、なんだ、いまの……!)
急にドキンと心臓が鳴って、ぼくは思わず一歩あとずさった。
「……な、なんでもないっ!」
そう言って目をそらしたけど、ヒナちゃんはびっくりした顔をしたけど、すぐにやさしく笑ってくれた。
「風、強かったね。……ごめんね」
「ち、ちがう! ヒナちゃんは悪くないからっ!」
ああもう、ぼく、なに言ってるんだ。
その時、向こう岸から「おーい!」と声がした。
見れば、釣りをしていたおじいさんが、こちらを見ながら手をふっていた。
「川に落ちるなよ~! 流されたら、魚より先にワシが釣っちゃうぞ~!」
「はーい!」
アカネが手をふりながら答える。
「お世話好きなおじいちゃんとおばあちゃんって、どこ行ってもぜったいにひとりはいるよね~!」
「そうそう。見守ってくれてるのはありがたいけど、ちょっとだけ恥ずかしい……かな」
ヒナちゃんが、はにかみながら言った。
「でもね、水の流れって、見た目より速いときがあるんだって。お母さんが言ってたよ。だから、入っちゃダメなんだって」
「えらいね、ヒナちゃん」
「ふふっ、ありがと」
この町の川は、たしかにきれいで、のどかで、でも油断しちゃいけない力も持ってる。
そんなことを、ぼくは思った。
石投げでひとしきり遊んだあとは、ぼくらは川沿いの道を歩いて、それぞれの家へと向かっていた。
ザッ、ザッ……。
スニーカーが土の道をこすれる音。
田んぼから、カエルの「ゲコゲコ……」という鳴き声が聞こえてくる。
もうすぐ、夕ごはんの時間。
空は少しだけオレンジに染まりはじめていて、風がゆるく吹いている。
「ねぇ」
ぽつんと、アカネが口をひらいた。
「今年の夏ってさ……なんか、すごいこと起きそうじゃない?」
「すごいこと?」
ショウが眉をあげる。
「うん。なんかさ、いつもとちがう風がふいてる気がするっていうか……あたし、今日の“アイスの当たり”でピンときたんだよね!」
「いや、それはただの運じゃないかな……」
ショウが半分あきれながら言ったけど、アカネはまったく気にしてない様子だった。
「えー、でもなんか、あるって! “夏の事件”とか、“探しもの”とか、“宝探し”とか!」
「宝探しって、どこの海賊だよ……」
ぼくは苦笑いしながら、横を歩くヒナちゃんの方をちらりと見た。
「……起きるといいね」
ヒナちゃんがぽつりと言った。
その声が、風にのってすうっと耳にとけていく。
「……うん」
ぼくはうなずいた。
なんとなく、胸のなかにポッと小さな火がともったような気がした。
そして、ぼくも口にしていた。
「……起きるよ、きっと」
アカネが「でしょー!」って言いながらスキップしはじめた。
ショウは「ほんとに単純だなあ」って言ってたけど、その顔は楽しそうだった。
いつもの道。
いつもの四人。
でも、空気の中にまざってる“なにか”が、少しだけちがっていた。
今年の夏。
この町で、なにかがはじまる気がする。
そう思ったのは、ぼくだけじゃなかった。
たぶん、みんな、なんとなく、感じていたんだ。
きらきら光る川のそばで、風がそっと合図をおくってくれたみたいだった。
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