輝け五つ星ーぼくらの川下り大作戦ー

ひとりさんぽ(一人三歩)

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第3章:ごめん、が言えたら(テーマ:謝る勇気と、受け入れる優しさ)

「こっそり、見ていた目」

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 舟作りが始まりしばらくたったある日の昼下がり。
 
 空は真っ青で、セミの声が空気をゆらしている。

 「よいしょ……この板、思ったより重い~……」

 「ヒナちゃん、無理しないで。アタシのほうが力あるから!」

 雑貨屋ちかくの倉庫で、アカネとヒナは舟の材料をより分けていた。
 
 じいちゃんが倉庫から出してくれた板や木枠のなかから、まっすぐで丈夫そうなものを選んでいる。

 「ねぇ、これってフロートに使えるかな?」
 
 「えーと……うーん、ショウくんなら分かるかも?」

 ふたりは額の汗をぬぐいながら笑い合った。

 暑くて大変なのに、作業はなぜか楽しい。
 
 それはきっと、「みんなで何かを作ってる」っていう気持ちのせいだ。

 ふとアカネが顔をあげると、道路の向こうの塀のかげに気配が。

 「ん……?」

 よく見ると、塀のすきまから舟を作ってる裏庭をのぞいている。
 
 帽子を深くかぶり、ひざを抱えてしゃがんでいる子がいる。

 「……トシオ?」

 そう呟いた瞬間。

 「ワンッ!!」

 「きゃあっ!?」「ひゃっ!」

 すぐ横の茂みががさがさっと揺れ、茶色の野良犬がぬっと飛び出してきた。

 「う、うそ……犬!?」

 目つきの鋭い中型犬だった。

 背中の毛を逆立て、低いうなり声を上げて唸っている。

 「ヒナちゃん、動かないで……」

 「こわい……どうしよう、アカネちゃん……」

 アカネがそっと腕を広げてヒナの前に立とうとするが、足がすくんで一歩も動けなかった。

 犬は一歩ずつ、牙をむきながら近づいてくる。

 「ワンッ!!」

 その瞬間、ヒナが悲鳴をあげかけた。

 「おいっ! やめろ!!」

 突風みたいに男の子が走りこんできた。
 
 トシオだ。

 「こっち来んなっ!! あっちいけ!!こらっ!!」

 トシオはすかさずアカネとヒナの前に立ちふさがり、両手を広げて犬に向き合う。

 「ワンッ!! ワンワンッ!」

 犬は吠えながら前足を踏み鳴らした。

 あと一歩で飛びかかってくるかという距離。
 
 でも、トシオはびくともしなかった。

 「うるせぇな……こっちは人間様だぞ!!かかってくんならこっちも本気出すぞ!!」

 そばにあった空き缶を拾って構え、地面に投げつける。
 
 カーンッという音が響き、犬はびくっと体をひるがえした。

 それでも少し迷ったようにその場にとどまってトシオをにらんでいたが、最後には「キャンッ」と鳴きながら草むらへ逃げていった。

 「……い、今の……すご……」

 ヒナは胸に手を当て、震える声で言った。
 
 アカネも口をぽかんと開けたまま、トシオの背中を見ていた。

 トシオは荒く息を吐いて、肩を上下させながら、二人を振り返る。

 「……けが、してねーか?」

 「……うん、大丈夫……」

 ヒナがうなずく。

 「ア、アンタ……なんで……?」

 アカネの声は、まだ少し震えていた。

 トシオは目をそらしながら、ふてくされたように言った。

 「……べ、別に。たまたま通りかかっただけだし……オレ、犬には強いし……」

 「うそつけぇぇ!」

 アカネが思わず叫んだ。
 
 でもその声にはちゃんと、感謝がまざっていた。

  犬騒動から、数分後。

 アカネとヒナは、トシオと並んで倉庫の階段に腰かけていた。
 
 セミの声が、さっきより少しだけ遠く聞こえる。

 「ほんとに……ありがとね」

 アカネがそっと口を開く。

 トシオはそっぽを向いたまま、鼻の頭をかいて「べ、別に」とかすれた声で返す。

 「でも、なんで? アタシたちのこと、ずっとバカにしてたのに」

 それは、ヒナのほうから出た、素朴な疑問だった。

 トシオの指がぴたりと止まる。
 
 すぐには何も言わなかった。

 けれど、うつむいたまま、ぽつりと声がこぼれた。

 「……だってさ。お前らいつも楽しそうだったじゃん、ずっと。なんか、毎日キラキラしてて……」

 アカネとヒナが顔を見合わせる。

 「じゃあ、いつも見てたの? こっそり」

 アカネが聞くと、トシオはちょっとだけうなずいた。

 「……でもよ、途中から入るのって、なんか……カッコ悪いじゃん。『入れて』って言ったら負けみたいで……。だからさ、からかったら、なんか……それでちょっと、気が済むかなって……」

 トシオの声は最後に向けてどんどん小さくなっていった。
 
 胸の奥の、小さくてまるい玉みたいな本音を、ようやく転がしたような声だった。

 「バッカだなー、もう!」

 アカネが笑った。

 大きく、明るく、笑った。

 「正直に言うのがカッコ悪いわけないじゃん、正直に言わない方がずっとカッコ悪いよ! 言えばよかったのに!」

 「う、うっせぇ!」

 トシオが赤くなってそっぽを向く。

 ヒナも、ちいさく笑った。

 「でも、嫌いだからイジワルしてるんじゃなかったんだね。トシオくん」

 「……っ!」

 トシオは目を丸くして、口をぱくぱく動かした。
 
 けど、何も言えずに顔をまっかにして、帽子をぎゅっと深くかぶった。

  アカネは、階段から勢いよく立ち上がった。

 「よーしっ。決めた!」

 手を腰に当て、ぐいっと胸を張る。

 「トシオ、仲間に入ってもいいよ!」

 「……えっ?」

 トシオが、きょとんと目を見開く。

 「ただし!」

 アカネは、すかさず指を一本立てた。

 「条件つき! これまでのイジワル、ちゃんと“ごめん”って、みんなに言うこと!」

 「……!」

 トシオの口が、ふるっと震える。

 「……ほんとに、言えば、入れてくれんの?」

 「もちろん!」

 アカネがにかっと笑う。

 「アタシ、リーダーだから! アタシが決めるの!」

 「……えっ?」

 ヒナが思わず首をかしげた。

 「いつからアカネちゃんがリーダーになったなの?」

 「いま決めた!」

 アカネが堂々と胸を張る。

 「リーダーってのはねぇ、決断力が大事なのだよっ!」

 「ええー……」

 ヒナは笑いながらも、肩をすくめてあきれたように言った。

 「はあ!?」

 トシオは、やっと口を挟んだ。

 「な、なんだよそれ! リーダーだの、条件だの、勝手すぎんだろ!」

 「うるさいなぁ。でも、ちゃんと謝ったら、みんな絶対許してくれるよ」

 アカネは、真面目な顔になって言った。

 「だって、トシオ、ほんとは悪い子じゃないのわかったもん。さっきの犬のときだってカッコよかったよ!」

 「……っ」

 トシオは、帽子のつばをぐいっと下げると、少し顔を隠した。

 そのとき、足元でにゃーんと音がした。

 見ると、道端の名物ネコ「たま」が、のんびりおなかを見せて転がっていた。

 「あ、たまちゃんだ」

 ヒナがしゃがみこみ、ネコのあたまをなでる。

 「いいなぁ、たまは。謝らなくても、なんでも許されてそうだよねぇ……」

 「にゃああ」

 ネコはまるで返事するみたいに鳴いた。

 アカネが、トシオの肩をとんとんと軽くたたいた。

 「さ、どうする? 明日、みんなに会いに来る?」

 トシオは、まだうつむいていたけど。

 「……うん。行くよ。……ちゃんと、謝る」

 そう、ちいさく答えた。
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