輝け五つ星ーぼくらの川下り大作戦ー

ひとりさんぽ(一人三歩)

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第6章:風を味方に(テーマ:知恵と協力が、力に勝るときがある)

「風の背にのって」

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 風が、吹いた。

 そよ風どころじゃない。

 ごぉぉぉっって音を立てて、背中から押されるみたいに川に吹きこんできた。

 「きた! 風が来たよ!」

 ショウの叫びが、ぼくの背中を突き動かす。

 「トシオ!! いくぞ!!」

 「まかせろッ!」

 トシオが、舟のうしろに寝かせてあった金属のポールをぐいっと引き起こす。

 「ガチャン!」

 舟の穴に差しこまれたその音を合図に、アカネとヒナがフックのついた白い布の端っこを、手際よく舟に引っかけた。

 「いっけーっ! 秘密兵器!!」

 ぱあっ! って、空にひろがる真っ白な布。

 そこには、花とドラゴンと星の絵が描いてあって、それが風を受けてふくらんだ瞬間……

 「うわっ!」

 「すごっ……!」

 ぼくらの舟が、ぐぐっ……と、風に持ち上げられるみたいに進みだした。

 「すすんでる! めっちゃ進んでる!!」

 ヒナちゃんが歓声をあげる。

 アカネもびっくりした顔で、舟のうしろを見てた。

 「うわ、風だけでこんなに!?」

 川の向こう岸で見てた町の人たちから、どよめきが起こる。

 「おいおい、あの布は……!」

 パン屋のおじさんが、目をまるくして声をあげた。

 「即席の……帆か!」

 いつも釣りしてるおじいちゃんも、目を細めてうなずく。

 「なるほどな。風の力をつかまえる……やるのう、あの子ら……!」

 前を走ってた大学生や青年団の舟が、こっちを振り返った。

 「……うそだろ。なんか加速してねぇか?」

 「おい、あれ……帆!? あんなのアリかよ!?」

 「ルールには書いてなかったよな……“手作り”とは書いてたけど、“帆”は禁止じゃなかったはず……!」

 「やばい、追いつかれる!!」

 ぼくらの舟は、軽さと風をぜんぶ味方にして、ぐんぐん加速してた。

 舟の側面につけた羽根みたいな花飾りも、風を受けてしなって、うまくバランスをとってくれてる。

 「わあっ、なんか……飛びそう!」

 ヒナちゃんの声に、ぼくは思わず笑っちゃった。

 「飛ばなくていいけど、勝ちたいな!」

 「うん、勝とう!」

 でも、ずっと追い風ばかりってわけじゃない。

 コースの途中で、木が生い茂ってる曲がり角に入ったら、風がピタッと止まった。

 「うわ、風が……!」

 帆がしぼんで、舟のスピードがぐっと落ちる。

 そのすきに、大人たちの舟がまた距離を広げていった。

 「くっそ……このままじゃ……!」

 「まだいけるよ! しっかり漕いで!」

 ヒナちゃんの言葉で、ぼくたちはまた必死にオールを握った。

 なんとか木のエリアを抜けた、そのときだった。

 「また風がくる!」

 ショウの声が川の上に響いた。

 背中から、ざわざわ……って風の音が迫ってくる。

 ぼくは立ち上がって叫んだ。

 「いくぞ!!」

 トシオとアカネが、両側から大きな布を広げる。メインの帆と、もう一枚のサブの帆が同時に風を受けた。

 「うおおおっ!? めっちゃ速いぞ!!」

 舟が跳ねるみたいに、ぐぐぐっと進む。

 「これなら追いつける……!」

 風をまとったぼくらの五つ星フラワードラゴン号は、風の背に乗って、もういちど、勝負の舞台へと舞いもどったんだ。

 「前方に、分かれ道ゾーン入りまーす!」

 実況風のおじさんの声が、拡声器から響いてきた。

 川が、仕切りで二手に分かれてる。

「どうする!? こっちが近道だけど……!」

 アカネが叫んだ。

「遠回りコースは広くて安全……でも、もう半分ぐらい進んでる! 大学生チーム、あそこ通ってる!」

 ショウの声が鋭くて、ぼくの胸の奥をついた。

 前方には、ギリギリ通れそうな細いスロープのジャンプ台と、くねくねと曲がる広いルート。

 ヒナちゃんが前を見つめたまま、ぽつんとつぶやいた。

「このままだと、負けちゃう……」

 その言葉を聞いたとき、ぼくの中にある“なにか”がぐっと音を立てて動いた。

「近道に行こう!」

 気づいたら、ぼくの声が出てた。大きく、はっきりと。

 全員の視線が集まるのがわかった。

「……ほんとに?いけるのか?」

 トシオが聞いた。

 舟が壊れるかもしれない。

 だれかが落ちるかもしれない。

 それでも、ぼくは信じたかった。

 みんなで作った、この“舟”を。

「大丈夫! 僕らの舟を信じる!」

 言葉に力を込めると、トシオが唇をぐっとかみしめて、うなずいた。

「よっしゃ……行こうぜ、飛ぶぞ!」

 川の流れが細くなっている先に、ツルツルのスロープが見えた。

 樹脂製で、水面すれすれに傾いてる。

 勢いがなかったら、途中で止まってしまうような角度だ。

 でも、そのときだった。

 ざわっ……と音を立てて、木々を揺らし大人でも踏ん張らないといけないぐらいの突風が、まるでぼくらの味方をするみたいに背中を押した。

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

「風だ!! きたぁ!!」

 ヒナちゃんとアカネが左右の帆を両手で持って、トシオが支柱をしっかり支える。

 ショウは素早くバランスをとり、ぼくは前傾姿勢で風をつかまえる!

 舟が、風を背中からがっちり受け止めて、スロープに突進していく。

「うわっ!みんなつかまれ!!」

 帆がバンッと膨らみ、側面の羽根飾りがふわっとしなって舟を支えた。

 その瞬間。

 五つ星フラワードラゴン号が──

 宙に、飛び出した!!

「う、うわー!! 飛んでる!!」

 アカネが叫ぶ。

 ヒナちゃんが笑ってる。

 トシオが絶叫してる。「うひゃああああ!!」

 観客たちが一斉に立ち上がったのが、視界の端に見えた。

「飛んだ!? 飛んだぞ、今!!」

「なんだあの舟!? 空中に浮いてたぞ!!」

 ほんの数秒。

 ほんのひと跳ね分。

 でも、ぼくらの舟は空中をすべったんだ。

 飾りだと思われてた羽根が、風をとらえてバランスを保ってる。

 ――美しかった。

 そして着水。

 ばしゃんと水しぶきを上げながら、スムーズに進んでいく。

 目の前に、遠回りコースの出口があった。

 ぼくらは、まっすぐそこに──着地した。

 そして、

「青年団を抜いたよっ!!」

 まだ遠回りコースにいた青年団の舟を、ぼくらは追い越してた。

 大学生チームの背中が、すぐそこにある。

「なんだよ、あいつら……」

「子どもたちが追いついてきた……だと……!?」

 大学生の表情が変わった。

 オールをこぐ手が、あきらかに焦ってる。

 でも。

 ぼくらだって、負けられない。

「いけぇっ、あとすこし!!」

 ぼくが叫ぶ。

 全員が、もう一度オールを強く握った。

 終点はもうすぐそこにあった。

 ぼくらの“挑戦”は、最後の直線に入った──!!

 「よーし、ラストスパートだ!!」

 ぼくが声を張り上げると、みんなが一斉にうなずいた。

 ぼくとトシオがぐっと腰を入れてポールを支える。

 ショウは風の向きを見ながら、帆の角度をきっちり調整。

 アカネもヒナちゃんも、汗を光らせながら必死にバランスをとる。

「あと少し!! あの白い旗がゴールだよ!!」

 ヒナちゃんの声が届く。

 風が吹いていた。

 強く、真っ直ぐに。

 五つ星フラワードラゴン号の帆が大きく膨らんで、舟がぐんぐん進んでいく。

 ──まるで、流れ星みたいにきらめいてた。

「いけぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 ぼくの叫びに応えるように、舟は大学生のカヌーに並んだ。

 あと5メートル。

 観客席が爆発したみたいに盛り上がった。

「並んだ! 大学生チームに追いついたぞ!!」

「小学生が……トップ争いだ!!」

 川沿いの人たちが、声を限りに応援してくれる。

 大学生の舟も全力で漕いできた。

 前にいた青年の顔には、本気の焦りが浮かんでいた。

 オールを握る手に力がこもってる。

「くっ……まさか、あの子たちが……!」

 でも、ぼくたちだって全力だった。

「トシオ!! 右寄りで突っ切れ!! ショウ、帆を少し絞って!」

 ぼくが叫ぶと、みんなが完璧なタイミングで動いた。

「了解っ!!」

「いけーっ!! 風の子たち!!」

 おじさんの実況が最高潮に達する。

 そして──残り1メートルで、大学生の舟を抜き去った!

 きらきらの水しぶきをあげながら、舟はゴールラインを──

「越えたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 ドドン、と太鼓の音。

「優勝は──五つ星フラワードラゴン!! 小学生チームの勝利です!!」

 一瞬の沈黙。

 それから、世界が割れたみたいな大歓声。

「うおおおおおおおおっ!!!」

 ぼくらは、舟の中で抱き合って、跳ねて、叫んだ。

「やったあああああああっ!!」

 岸に上がっても、ぼくらの興奮はまったく冷めなかった。

「勝った!? 勝ったんだよね!?」

「マジで!? これ夢!?」

 大学生の一人が、舳先をぺちぺち叩きながら、ため息混じりに苦笑してた。

「完全にやられたな……完敗だ……」

 その中の、あの嫌味を言ってた人が、ちょっと照れくさそうに歩み寄ってきて。

「……悪かった。嫌なこと言って。舟もアイデアも、お前らが一番だったよ」

「うん、こっちこそ……ありがとう!」

 ショウがすっと手を差し出して、大学生とがっちり握手した。

 そのあと、なぜか町の人たちに囲まれて、ぼくらは胴上げされることに。

「うわっ、うひゃあ! こえーっ!!」

 トシオが空中でジタバタしてて、みんな大笑いした。

 そして表彰式。

 町内会長さんが、金色のピンバッジをぼくら五人に渡してくれた。

「発想力と団結力で、最も光っていた。これは君たちの勝利だ」

 バッジを胸につけてもらった瞬間、胸の奥が熱くなった。

 そのバッジは、ちっちゃいのにすごく重く感じた。

「わたしたち、ほんとにやったんだ……」

 ヒナちゃんが小さくつぶやいて、ぼくらはうなずいた。

「……忘れられない、最高の夏になったね」

 アカネの声に、また全員でうなずいて。

 そして、肩を組んで空を見上げた。

 そこには、ごほうびみたいに、美しい夕焼けと、風に揺れる白いゴール旗がまるで、ぼくらの優勝を祝福してくれてるみたいに、はためいてた。
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