灰かぶりの王子様

おおいししおり

文字の大きさ
12 / 14
第四章 主君(ロード)

1

しおりを挟む
 グラットピア北東部に位置する、スティング領。
 国内最大の面積と人口を誇る領主は三百年、生を紡ぐ吸血鬼だった。

「アッシュ様。本日はボクまで同行させて頂き、誠にありがとうございます。数年に一度の領主議会、しかと勉強させて頂きます」

 深々としたお辞儀をエラは主君に向かってする。

 領主議会。それは数年に一度開催される、各地方の代表らによる機関のこと。

 北東部のスティング領、南部のフェアリード領、西部のサイバネリア領、そしてグラットピアの何処にも属さないアルカス諸島の計四つの頭が揃う唯一無二の機会である。

「いえ、勉強熱心のエラがとても素敵ですびで。それより……あなたまで珍しいですね、グレイ。普段は面倒がって外にすら出ることを拒むのに」
「フン、別にいいだろ。あんたには関係ない」

 フードを深く被り、グレイはアッシュの背を向くように面倒くさそうに答える。
 その様子に兄はあらかじめ予想が出来たようで。

「左様ですか。私はてっきりエラのことが心配で同行を申し出たと思ったのですが」
「は、はっ⁉ ちげぇし、勝手なことほざくな」

 図星、そう言わんばかりの反応に微笑する。

「ふふ、私の弟君は嘘が吐けず可愛いですね。そう思いませんか、エラ」
「え、ボクですか⁉ あはは……どう、ですかね」

 エラの明らかな苦笑に対して、アッシュは満足げに微笑む。


「……面白がってんじゃねーよ、変態狂人クソ兄貴」
「はいはい。急所、というのはあなたの著しい語彙の低下が何よりも証拠になるのですが……愛しい弟君に免じて、大声で語るのは控えておきます」
「あぁ⁉ 聞こえてんぞ、雑魚アッシュ」

 唇を噛み締め、怒りに震える。兄には無効であると頭では理解してても。

「おやおや、粗暴な言動は誤解を招くと言うのに。エラ、彼は確かに優秀な裏方ですが口の悪さは一生掛けても直りませんので真似してはいけませんよ」
「は、はい……善処します?」
「おい、何を要らんこと吹き込んでやがる!」

 ぐるるる、と犬の如くグレイは唸る。各々困惑と悪戯な笑みを浮かべて賑やかに過ごしていた。
 否、賑やかという控えめな取り方をしていない者も中には存在する。

「騒がしい。妾の大地を土足で踏み込んでのうのうと息してるとは常識がなっとらんな、吸血鬼の小童どもは」

「っ……‼」

 凛とした女性の声音が三名の耳を擽る。と、同時に彼らはその存在に気付く。皆無だったはずの空間に男女二名が存在するとは。


「――おや、あなた様からお迎えに来てくださるのは珍しい。お久しゅうございます、エリザベッサ殿」
「げっ、ロリババア……!」

 足まで伸びた長い紫紺の髪を靡かせ、少女は妖艶に笑う。その表情は薄気味悪いと言うべきか、幼い背丈――百四十センチほどの女児とは見えないくらいには妙に貫禄があるものがあった。

「はっ! 相も変わらず貴様の愚弟は口の聞き方を知らぬ無礼者だな、スティング?」
「ふふ、不快にさせてしまい申し訳ございません。しかし、これも弟君の愛くるしい個性としてお受け頂けると幸いです」
「はぁ? 誰が愛くるしいだっ⁈」

 グレイの渾身の突っ込みにも触れず、アッシュと少女――エリザベッサは話し込む。一瞬の隙も見せずエラは質問相手を即座に変更した。

「あ、あの……失礼かもしれませんが彼女、はどなたなのでしょうか。随分、アッシュ様と仲の良い関係とお見えになりますが」
「あぁ? あー……ロリババアのことか。見た目は餓鬼だがあれでも年甲斐の領主なんだよ、南部のな。んで、クソ兄貴とは別に仲良い訳じゃねーよ。むしろ顔見合わせる度に罵り合いしてる」
「の、罵り合い?」

 軽く耳を潜める。
 グレイのような相手を貶める直接的な単語や言葉は無いが、普段よりも主君が幼稚に見えた。

「ああ、夫婦並みに息ピッタリだよな。ま、あんなのが義姉になるとか嘔吐が出るけど」
「あ、あはは……」

 グレイが舌を出し、顔を白めて大袈裟に嫌な表情をする。何を発するにしても棘があると咄嗟に判断したエラは愛想笑いで返した。

「あと、隣の男は知らねぇな」

 エリザベッサの隣に静かに佇む、背丈の高い男性をエラはちらりと覗く。

 黒いスーツに身を包み、微動だにもしない二十代くらいの若い人物。その若干、薄気味の悪さに彼はすぐに目を離した。

「ところで、そちらの男性はの方ですか?」
「何代目……?」

 独り言に問う。何となく、エラはその発言に引っ掛かりを覚えた。

 まるで、目先の彼女も歪に生を刻んでいると言わんばかりの発言に……。

「さあな、興味ない。忘れた」
「ふふ、左様ですか。お互い長生きをすると物忘れが激しくなりますからね」
「ふん、貴様と一緒にするな。――非常に下らぬ時間を喰らった。ルーデルク、行くぞ」
「御意」

 エリザベッサの呼び掛けに、低音の短い返答後に背丈の高い男性が動き出す。一礼を加えて。

「さて、私たちも会場へ向かいましょう」

 にこり、とアッシュは微笑み歩き出す。


 グラットピアの領主議会。
 奇抜な個性と独特な緊張感が蔓延る中で、エラはひとつ深呼吸を置いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―

たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。 以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。 ​「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」 トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。 ​しかし、千秋はまだ知らない。 レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

「イケメン滅びろ」って呪ったら

竜也りく
BL
うわー……。 廊下の向こうから我が校きってのイケメン佐々木が、女どもを引き連れてこっちに向かって歩いてくるのを発見し、オレは心の中で盛大にため息をついた。大名行列かよ。 「チッ、イケメン滅びろ」 つい口からそんな言葉が転がり出た瞬間。 「うわっ!?」 腕をグイッと後ろに引っ張られたかと思ったら、暗がりに引きずり込まれ、目の前で扉が閉まった。 -------- 腹黒系イケメン攻×ちょっとだけお人好しなフツメン受 ※毎回2000文字程度 ※『小説家になろう』でも掲載しています

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

処理中です...