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第四章 主君(ロード)
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奇抜な個性とは慎ましい言葉なのかもしれない。
「エラ、この議会が終わりましたら美味しいものを食べに行きましょう。フェアリード料理も是非召し上がって頂きたくて」
「ふむ、七色の翅を持つ蝶の標本――悪くない。現代の穢れた心を潤すのにちょうどい良いな」
『ああ、AIM……我が愛しのAIM……もう少しだ。もう少しで逢える。ムフフ、完成をした暁には――』
「うるせぇー! うるせぇよ! 自由人かよ、領主って奴等はよぉ‼」
会場へ入室してからおよそ三十分が経過。
一向に始まる気配の無い空気感に呆れたグレイは、注意の如く声を荒らげた。机を叩き割るほどの力を用いて。
「アッシュ! テメェはマジでいい加減、エラから離れろ。仕事中だろうがよ!」
「ふふふ。おやおや、グレイ、焼きもちですか? 男性の嫉妬ほど醜いものはありませんね」
ぎゅっと、エラを懐に抱き寄せてアッシュは得意げな表情をする。
これ以上は何を言っても無駄、と悟った彼は目標をエリザベッサへと移行。
「ロリババア! 何故あんたはそんなでっかい標本を持ち歩いてる⁉ 会議には絶対要らねぇだろ」
「ほう、この妾に意見するとは。……肝要か、否かは妾が決める。それとも貴様自身が標本になりたいという遠回しの合図か?」
瞳を細めて睨む。
幼い容姿に似合わず、言葉遣いや威厳は簡単に成り立つものではないもので。彼女から出た疑問符は割りと本気であった。
一瞬にして怯んだグレイは無線電話で繋がる人物、サイバネリアの現領主の男性へと変更する。
「で、あんたは! あんたは……何で、タブレット? つか、さっきからごちゃごちゃ呟いてるエイムって何だよ」
『AIM! 貴殿、AIMの話をされたか⁉ この我が最高傑作にして、無敵の人工知能――いや、もはや人間以上と言っても過言ではない、最新の技術を駆使した学習知能型ヒューマノイドの彼女のことを!』
「ぐぐ、ぐっ……!」
聞く耳持たず。そう結論付けた彼にエラは主君の懐に存在しながら強く同情した。
「なん、何だよっ……どいつもこいつも領主って奴はよぉ。勝手すぎだろ……久しぶりに来て、よーく身に染みたぜ。つか、一人足りねぇし!」
兄、フェアリードの女領主、オンライン上の参加のサイバネリアの領主。そして、あとひとつは空席となっていた。
「騒ぐな、スティングの小童。アルカスのじじいは来ない。何でも、災禍を告げるドラゴンが誕生したとかで対応に追われているそうだ」
「なっ⁉」
「ド、ドラゴン⁉」
短い驚嘆のグレイと、声が裏返ったエラ。そしてそのどちらでも無い領主と無口な背丈の高い男性は冷静を装った。
「災禍を告げるドラゴンですか……懐かしいですね、その響き」
「先に忠告をしとく。貴様ら、以前のような出来事・・・・・・・・・はもう二度と起こすなよ」
釘を刺すように語勢を強める。
吸血鬼の都市伝説、を不意に生み出してしまった彼を責めるように。
「承知しました。ふふ、もし何かの過ちで生起してしまっても此度は・・・・優秀な弟君、グレイが居るので問題ありませんよ」
「アッシュ、テメェ……また懲りずに俺を働かせる気かよ。マジで一変、死ね!」
「おお、怖い怖い」
怯えた口調に似合わず、アッシュは小馬鹿にするように笑みを振る舞いていた。
『ふむ、ドラゴンか……。我が研究には必要皆無の内容であるな。何せ! 完成目前、史上大傑作のAIMが全て解決するのでな、くくく……!』
「サイバネリアの陰湿な学者ども、貴様らも決して例外ではない。――先代の失態により、どれだけ被害が出たか、無類の数字好きの貴様らには理解出来るであろう」
『くっ……一握りの成功には大量の失敗や犠牲は付きもの。研究者の多くはそう語るが……あれは、本当に痛ましい事件だった』
ガチャガチャとしていた画面越しの作業音が急に停止する。
顔は見えない、それでも誰しもが干渉に浸っていると感じ取っていた。
「そうそう、災禍と言えば。あなた様も外出などでは、お気を付ける必要があるかもしれませんね」
「ほう、妾のことか。貴様如きに大口を叩かれる筋合いは皆無に等しいが?」
「いえ、これでも懸念ですよ。……また、行く先々で死人が出たら嫌でしょう? そうは思いませんか、千年死神のエリザベッサ=エレシュキガル女史殿」
「し、死神⁉」
「…………」
瞳を閉じ、真っ直ぐな反論すら面倒になった彼女は無言を貫く。
やがて、静寂を破ったのは再びアッシュの一言であった。
「さて。『災禍を告げるドラゴン』の情報も得ましたし、何よりエラが最大限に混乱しておりますので我々はお暇させて頂きます。行きますよ、グレイ」
「……クソッ、指図するな。じゃあな、ロリババア。今度こそ逢いたくねぇよ」
「ハッ! 貴様らこそとっととくたばれ、腐れ外道の吸血鬼ども」
それは別れの挨拶のように、とても爽やかで物騒である。
たった一時間未満の領主議会。そこで得たものは幸福か、はたまた悲惨か。
――彼らがどのような結果を知るのは、まだ先の話。
「エラ、この議会が終わりましたら美味しいものを食べに行きましょう。フェアリード料理も是非召し上がって頂きたくて」
「ふむ、七色の翅を持つ蝶の標本――悪くない。現代の穢れた心を潤すのにちょうどい良いな」
『ああ、AIM……我が愛しのAIM……もう少しだ。もう少しで逢える。ムフフ、完成をした暁には――』
「うるせぇー! うるせぇよ! 自由人かよ、領主って奴等はよぉ‼」
会場へ入室してからおよそ三十分が経過。
一向に始まる気配の無い空気感に呆れたグレイは、注意の如く声を荒らげた。机を叩き割るほどの力を用いて。
「アッシュ! テメェはマジでいい加減、エラから離れろ。仕事中だろうがよ!」
「ふふふ。おやおや、グレイ、焼きもちですか? 男性の嫉妬ほど醜いものはありませんね」
ぎゅっと、エラを懐に抱き寄せてアッシュは得意げな表情をする。
これ以上は何を言っても無駄、と悟った彼は目標をエリザベッサへと移行。
「ロリババア! 何故あんたはそんなでっかい標本を持ち歩いてる⁉ 会議には絶対要らねぇだろ」
「ほう、この妾に意見するとは。……肝要か、否かは妾が決める。それとも貴様自身が標本になりたいという遠回しの合図か?」
瞳を細めて睨む。
幼い容姿に似合わず、言葉遣いや威厳は簡単に成り立つものではないもので。彼女から出た疑問符は割りと本気であった。
一瞬にして怯んだグレイは無線電話で繋がる人物、サイバネリアの現領主の男性へと変更する。
「で、あんたは! あんたは……何で、タブレット? つか、さっきからごちゃごちゃ呟いてるエイムって何だよ」
『AIM! 貴殿、AIMの話をされたか⁉ この我が最高傑作にして、無敵の人工知能――いや、もはや人間以上と言っても過言ではない、最新の技術を駆使した学習知能型ヒューマノイドの彼女のことを!』
「ぐぐ、ぐっ……!」
聞く耳持たず。そう結論付けた彼にエラは主君の懐に存在しながら強く同情した。
「なん、何だよっ……どいつもこいつも領主って奴はよぉ。勝手すぎだろ……久しぶりに来て、よーく身に染みたぜ。つか、一人足りねぇし!」
兄、フェアリードの女領主、オンライン上の参加のサイバネリアの領主。そして、あとひとつは空席となっていた。
「騒ぐな、スティングの小童。アルカスのじじいは来ない。何でも、災禍を告げるドラゴンが誕生したとかで対応に追われているそうだ」
「なっ⁉」
「ド、ドラゴン⁉」
短い驚嘆のグレイと、声が裏返ったエラ。そしてそのどちらでも無い領主と無口な背丈の高い男性は冷静を装った。
「災禍を告げるドラゴンですか……懐かしいですね、その響き」
「先に忠告をしとく。貴様ら、以前のような出来事・・・・・・・・・はもう二度と起こすなよ」
釘を刺すように語勢を強める。
吸血鬼の都市伝説、を不意に生み出してしまった彼を責めるように。
「承知しました。ふふ、もし何かの過ちで生起してしまっても此度は・・・・優秀な弟君、グレイが居るので問題ありませんよ」
「アッシュ、テメェ……また懲りずに俺を働かせる気かよ。マジで一変、死ね!」
「おお、怖い怖い」
怯えた口調に似合わず、アッシュは小馬鹿にするように笑みを振る舞いていた。
『ふむ、ドラゴンか……。我が研究には必要皆無の内容であるな。何せ! 完成目前、史上大傑作のAIMが全て解決するのでな、くくく……!』
「サイバネリアの陰湿な学者ども、貴様らも決して例外ではない。――先代の失態により、どれだけ被害が出たか、無類の数字好きの貴様らには理解出来るであろう」
『くっ……一握りの成功には大量の失敗や犠牲は付きもの。研究者の多くはそう語るが……あれは、本当に痛ましい事件だった』
ガチャガチャとしていた画面越しの作業音が急に停止する。
顔は見えない、それでも誰しもが干渉に浸っていると感じ取っていた。
「そうそう、災禍と言えば。あなた様も外出などでは、お気を付ける必要があるかもしれませんね」
「ほう、妾のことか。貴様如きに大口を叩かれる筋合いは皆無に等しいが?」
「いえ、これでも懸念ですよ。……また、行く先々で死人が出たら嫌でしょう? そうは思いませんか、千年死神のエリザベッサ=エレシュキガル女史殿」
「し、死神⁉」
「…………」
瞳を閉じ、真っ直ぐな反論すら面倒になった彼女は無言を貫く。
やがて、静寂を破ったのは再びアッシュの一言であった。
「さて。『災禍を告げるドラゴン』の情報も得ましたし、何よりエラが最大限に混乱しておりますので我々はお暇させて頂きます。行きますよ、グレイ」
「……クソッ、指図するな。じゃあな、ロリババア。今度こそ逢いたくねぇよ」
「ハッ! 貴様らこそとっととくたばれ、腐れ外道の吸血鬼ども」
それは別れの挨拶のように、とても爽やかで物騒である。
たった一時間未満の領主議会。そこで得たものは幸福か、はたまた悲惨か。
――彼らがどのような結果を知るのは、まだ先の話。
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