稲森兄弟のおひるねのじかん

おおいししおり

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 我が可愛い天使、と書いて稲森いなもりれんと読む。

 ……なんて。弟のことをそう世間体に晒したら周囲は引くだろうか。

「みてて、にぃちゃん! れんね、今からくるんっててつぼうでまわるから!」
「うん。兄ちゃん見てるから頑張って、蓮」

 大きく頷き、蓮は満面の笑みを浮かべて鉄棒に向かう。

 高二の夏休み、俺、稲森隆人たかとはちょうど一回り離れた蓮と一緒に最寄りの公園へ訪れていた。

「い、行くよっ! にぃちゃん、ちゃんと見ててくれてる!?」
「見てる。何だったらスマホも構えてる」

 蓮の勇姿、これは絶対に後世に残すべきだってとっさに判断した。

「よいっしょ、と! できた……できたよ、にぃちゃん!」

 桃色の髪を揺らして、蓮は嬉しそうにこちらへと向かってくる。
 兄弟なのに髪色は違えど、少々癖っ毛という類似点は密かな自慢だったりした。

「凄いな、蓮」
「えへへ。にぃちゃんが見てくれてたから絶対に成功させないと、って思って頑張ったよ!」

 はい、愛しい。
 こんな素直で良く出来た弟が他にいるだろうか、と問い質したいくらいには自覚を得るほどに俺はブラコンだとは思う。

 ……それにしても真っ昼間の夏だから仕方ないとはいえ、やっぱり暑いな。水分補給はこまめに与えてはいるが、蓮が熱中症になりかねない。
 心苦しいがここは退却をした方がいい。

「蓮。外、暑くなってきたから家に帰ろう」
「えー!? れん、まだ遊びたい! にぃちゃんと一緒に砂やりたいのに……っ」

 ぐぅ、魅力的過ぎな誘い文句。
 まったく、いつ何処でそんな兄殺しの惹句を覚えたのだろうか。仕方ない、ここはこちらも奥の手を。

「……アイス買って、家でゲームしよう?」
「アイス! ゲーム……! にぃちゃんと、一緒にできるの?」

 おっ、この反応は手応えあり。
 物で釣るとか些か大人げないが、蓮の安心安全を考慮してだから気にしない。こういうのは気にした方が負け確なのである。

「うん。ゲームは蓮が好きなの選んでいいから」
「本当!? じゃあ、家にあるカセットのやつ、ぜんぶやりたい!」

 蓮は両手を大きく広げて、全部を表現する。

「え……いいけど。蓮、公園でも遊んだし途中で眠くなっちゃうでしょ?」
「だいじょうぶだよ! ほら、にぃちゃん。早くアイス買いに行こうよ」
「あっ、ちょっと」

 小さな両手が俺の右手を引っ張る。背丈に差があるせいか、中腰ダッシュを強要されて自宅付近のコンビニに着く頃には疲れた。
 しかし、何という都合の良い身体であろうか。アイスを頬張る蓮の姿を双眼とスマホのカメラに映すと不思議と何事もなく体力が回復した。自分のことを褒め殺したい。

「にぃ、ちゃん……次、これ、やりたい。ふぁ」

 手で口元を隠しているが、明らかに欠伸。どうやら眠気が襲ってきたらしい。

「蓮、もしかして、眠い?」
「ううん、だいじょうぶ……れん、まだまだにぃちゃんとあそぶ、の……」

 と、本人は認めない様子だが目はとろんとしているし、呂律も少し拙い。
 正直、蓮の願いを叶えてやりたい気持ちはあるが、明白な限界に遊ぶのを停止すべきだと思う俺もいる。
 とはいえ、蓮はこういう時、かなり頑固で聞き入ってくれないからな。

「……っ、そうだ。蓮、一緒に寝ようか」
「にぃちゃんと、ねんね?」

 目を両手で擦り、眠そうに蓮は問う。

「そう。兄ちゃん、実は眠くてさ。けど、一人で寝るの寂しいから蓮と一緒なら寝れるかなって」
「んー……わかった。にぃちゃんとれん、一緒にねんねする」
「ありがとう」

 本当は眠たくなんて一ミリも無いけど、蓮を横に出来るのなら致し方ない嘘でもいい。
 まだ体重の軽い蓮を子供部屋へと運び、ひとつのベッドへと一緒に入る。

「蓮、おやすみ」

 頭を撫でる。さらさらとしてて柔らかい。
 俺の腹に頭を乗せて、おやすみの返事を聞く前に寝息を立てていた。

 五歳の世界一可愛い弟、蓮。
 今日もまた、弟の寝顔と共に平和な一日が過ぎてゆくのだった。
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