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第四話 風邪の引き始めは片想いの終わり
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俺という面倒な人間は、嘘を吐くことは問わない。
但し、自身の抱える想いって奴を騙すのは好ましくないと語る。
「ありがとうございます、ちゆりさん」
味気ない粥を手に止め、素直な例が喉から出る。
ヒロ兄には約束を破った、とあとで激怒するのはいいとして。好きな人が見舞い来たと題して訪問してくれたことに嬉しくないはずがない。
「ううん、食欲があるようでよかった。あ、林檎も食べられそうならどうぞ。……ちょっと失敗しちゃったけど」
と、差し入れられた林檎は少々、少しばかり形が崩れているが気にしないのが吉だと理解した。
大事なのはちゆりさんが俺のために見舞品として用意してくれたことに意味があるのだから。
「ありがとうございます。頂きますね。ところで、ちゆりさん」
「な、何かな?」
俺の呼び掛けに吃りながらも答えてくれるが、目線が合わない。泳ぐ翡翠色の瞳に問い掛けするように素直に聞く。
「いや……そんな舐め回すように部屋を見られると、さすがに恥ずかしいなって思いまして」
「えっ⁉」
顔が一気に赤くなる。と、同時に下を向いてしまった。
「ご、ごめんね! そんな不快にさせるつもりとかはなくて……」
「いえ、全然。不快だなんて思ってすらいませんよ」
むしろ、ヒロ兄以外の誰かが自分の部屋に来ていることが物珍しくて嬉しいというか。俺、家に呼ぶほど仲いい友人とかいないし。
「なら、よかったのかな」
「はい」
ですが、どうせ見るのであれば俺のことを直視してくださいね。……なんて、自信を持って言えない自分が悔しい。いいや、言ったらさすがに引かれるかも。
彼女の顔に安堵の笑みが溢れた。
うん、やはりちゆりさんは笑顔が一番、それに限る。もちろん、どんな表情も素敵だけど。
「智也くんは。この前の、偶然本屋さんでばったり逢った時にも思ったのだけど、勉強熱心なんだね」
机の方を見ながら聞かれる。そりゃ、問題集や参考書の山を見ればその答えに行き着くのも自然の流れか。
「勉強は、まあ嫌いではないですね。何かを学んで自分の糧に出来ますし。志望校に近付けるなら、尚更」
「うんうん、やっぱり自分が行きたいところに行きたいもんね」
「です、ね。あとは……」
言葉に詰まる。
一緒に遊ぶような友達がいなく、これといって趣味も夢もないからなんて事実をぶつけていいのか、わからなかったから。
暫しの迷いの果て、口を開こうとした瞬間に電話が鳴る――ちゆりさんの。
「っ、出ても大丈夫ですよ」
「ごめんね、ちょっとだけ失礼します」
スマホを抱えて、部屋をあとにする。声は微かに聞こえるが、ドア付近まで行かないと聴取することは出来なさそう。
「……気になる」
と、言うのも下心あってというわけではない。いや、多少はあるかもしれないけど。
……しかし、渋いというか怪訝そうな顔をしていた。ただ、画面の表示を見ただけで。
「要するにこれは、偵察。決して、邪心から来るものじゃない」
自身を正当化すると、先程の懸念が嘘のように晴れる。さて、バレないようにこっそりと。
「――すみません。今日は外せない用事がありまして。……はい、はい、っ」
一体、何の話で電話の相手は誰だ?
今日は予定があるから、唐突な変更は出来ない。アルバイト……にしては相槌からのテンポが悪い苦しそうな声。
……臭うな、何か。
「次、ですか……。すみません、まだ、わからなくて。あっ、いえ。嫌がってるとかではない、ですけど……」
嘘。
そんな声を震わせてといて、それを通すのは難しいんじゃないかな、ちゆりさん。
それから聞き耳を立てて探った結果、ひとつの結論に達する。強引な勧誘……と、決めつけるのは些か早計だろが、概ねその結論に近いと睨んだ。
「っ、やめてください‼ ……お願い、します。長谷川くんには言わないでください。彼は今、大切な夢を追う真っ最中なんです。わたしは、いいから……どうか彼には何も。交合だけの関係も甘んじて、受け入れますからっ!」
――いや、早計も何もない。
これは、善良な人助け。ドア越しでも目先で啜り泣く女性を守るための今、俺にしか出来ない救済。
ドアを開ける。
すると、彼女が驚いた表情でこちらを見るが関係ない。怒りでどうにかなってしまいそうだった。無意識にも、低い声音で要求する。
「ちゆりさん、スマホ貸して」
「えっ」
「いいから、貸してください。……もしもし」
半ば強引に受け取ったスマホの電波には、予想通り男の声が乗っていた。
軽薄な言葉遣いと脅すような発言に呆れて、冷静さを保ちながら完封を試みる。相手が中学生だ、と認識させなければ勝ち目しかないのだから。
但し、自身の抱える想いって奴を騙すのは好ましくないと語る。
「ありがとうございます、ちゆりさん」
味気ない粥を手に止め、素直な例が喉から出る。
ヒロ兄には約束を破った、とあとで激怒するのはいいとして。好きな人が見舞い来たと題して訪問してくれたことに嬉しくないはずがない。
「ううん、食欲があるようでよかった。あ、林檎も食べられそうならどうぞ。……ちょっと失敗しちゃったけど」
と、差し入れられた林檎は少々、少しばかり形が崩れているが気にしないのが吉だと理解した。
大事なのはちゆりさんが俺のために見舞品として用意してくれたことに意味があるのだから。
「ありがとうございます。頂きますね。ところで、ちゆりさん」
「な、何かな?」
俺の呼び掛けに吃りながらも答えてくれるが、目線が合わない。泳ぐ翡翠色の瞳に問い掛けするように素直に聞く。
「いや……そんな舐め回すように部屋を見られると、さすがに恥ずかしいなって思いまして」
「えっ⁉」
顔が一気に赤くなる。と、同時に下を向いてしまった。
「ご、ごめんね! そんな不快にさせるつもりとかはなくて……」
「いえ、全然。不快だなんて思ってすらいませんよ」
むしろ、ヒロ兄以外の誰かが自分の部屋に来ていることが物珍しくて嬉しいというか。俺、家に呼ぶほど仲いい友人とかいないし。
「なら、よかったのかな」
「はい」
ですが、どうせ見るのであれば俺のことを直視してくださいね。……なんて、自信を持って言えない自分が悔しい。いいや、言ったらさすがに引かれるかも。
彼女の顔に安堵の笑みが溢れた。
うん、やはりちゆりさんは笑顔が一番、それに限る。もちろん、どんな表情も素敵だけど。
「智也くんは。この前の、偶然本屋さんでばったり逢った時にも思ったのだけど、勉強熱心なんだね」
机の方を見ながら聞かれる。そりゃ、問題集や参考書の山を見ればその答えに行き着くのも自然の流れか。
「勉強は、まあ嫌いではないですね。何かを学んで自分の糧に出来ますし。志望校に近付けるなら、尚更」
「うんうん、やっぱり自分が行きたいところに行きたいもんね」
「です、ね。あとは……」
言葉に詰まる。
一緒に遊ぶような友達がいなく、これといって趣味も夢もないからなんて事実をぶつけていいのか、わからなかったから。
暫しの迷いの果て、口を開こうとした瞬間に電話が鳴る――ちゆりさんの。
「っ、出ても大丈夫ですよ」
「ごめんね、ちょっとだけ失礼します」
スマホを抱えて、部屋をあとにする。声は微かに聞こえるが、ドア付近まで行かないと聴取することは出来なさそう。
「……気になる」
と、言うのも下心あってというわけではない。いや、多少はあるかもしれないけど。
……しかし、渋いというか怪訝そうな顔をしていた。ただ、画面の表示を見ただけで。
「要するにこれは、偵察。決して、邪心から来るものじゃない」
自身を正当化すると、先程の懸念が嘘のように晴れる。さて、バレないようにこっそりと。
「――すみません。今日は外せない用事がありまして。……はい、はい、っ」
一体、何の話で電話の相手は誰だ?
今日は予定があるから、唐突な変更は出来ない。アルバイト……にしては相槌からのテンポが悪い苦しそうな声。
……臭うな、何か。
「次、ですか……。すみません、まだ、わからなくて。あっ、いえ。嫌がってるとかではない、ですけど……」
嘘。
そんな声を震わせてといて、それを通すのは難しいんじゃないかな、ちゆりさん。
それから聞き耳を立てて探った結果、ひとつの結論に達する。強引な勧誘……と、決めつけるのは些か早計だろが、概ねその結論に近いと睨んだ。
「っ、やめてください‼ ……お願い、します。長谷川くんには言わないでください。彼は今、大切な夢を追う真っ最中なんです。わたしは、いいから……どうか彼には何も。交合だけの関係も甘んじて、受け入れますからっ!」
――いや、早計も何もない。
これは、善良な人助け。ドア越しでも目先で啜り泣く女性を守るための今、俺にしか出来ない救済。
ドアを開ける。
すると、彼女が驚いた表情でこちらを見るが関係ない。怒りでどうにかなってしまいそうだった。無意識にも、低い声音で要求する。
「ちゆりさん、スマホ貸して」
「えっ」
「いいから、貸してください。……もしもし」
半ば強引に受け取ったスマホの電波には、予想通り男の声が乗っていた。
軽薄な言葉遣いと脅すような発言に呆れて、冷静さを保ちながら完封を試みる。相手が中学生だ、と認識させなければ勝ち目しかないのだから。
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