ちゆりさん、俺じゃダメですか?

おおいししおり

文字の大きさ
12 / 14
第四話 風邪の引き始めは片想いの終わり

4-2

しおりを挟む
 俺という面倒な人間は、嘘を吐くことは問わない。
 但し、自身の抱える想いって奴を騙すのは好ましくないと語る。

「ありがとうございます、ちゆりさん」

 味気ない粥を手に止め、素直な例が喉から出る。

 ヒロ兄には約束を破った、とあとで激怒するのはいいとして。好きな人が見舞い来たと題して訪問してくれたことに嬉しくないはずがない。

「ううん、食欲があるようでよかった。あ、林檎も食べられそうならどうぞ。……ちょっと失敗しちゃったけど」

 と、差し入れられた林檎は少々、少しばかり形が崩れているが気にしないのが吉だと理解した。

 大事なのはちゆりさんが俺のために見舞品として用意してくれたことに意味があるのだから。

「ありがとうございます。頂きますね。ところで、ちゆりさん」
「な、何かな?」

 俺の呼び掛けに吃りながらも答えてくれるが、目線が合わない。泳ぐ翡翠色の瞳に問い掛けするように素直に聞く。

「いや……そんな舐め回すように部屋を見られると、さすがに恥ずかしいなって思いまして」
「えっ⁉」

 顔が一気に赤くなる。と、同時に下を向いてしまった。

「ご、ごめんね! そんな不快にさせるつもりとかはなくて……」
「いえ、全然。不快だなんて思ってすらいませんよ」

 むしろ、ヒロ兄以外の誰かが自分の部屋に来ていることが物珍しくて嬉しいというか。俺、家に呼ぶほど仲いい友人とかいないし。

「なら、よかったのかな」
「はい」

 ですが、どうせ見るのであれば俺のことを直視してくださいね。……なんて、自信を持って言えない自分が悔しい。いいや、言ったらさすがに引かれるかも。

 彼女の顔に安堵の笑みが溢れた。
 うん、やはりちゆりさんは笑顔が一番、それに限る。もちろん、どんな表情も素敵だけど。

「智也くんは。この前の、偶然本屋さんでばったり逢った時にも思ったのだけど、勉強熱心なんだね」

 机の方を見ながら聞かれる。そりゃ、問題集や参考書の山を見ればその答えに行き着くのも自然の流れか。

「勉強は、まあ嫌いではないですね。何かを学んで自分の糧に出来ますし。志望校に近付けるなら、尚更」
「うんうん、やっぱり自分が行きたいところに行きたいもんね」
「です、ね。あとは……」

 言葉に詰まる。
 一緒に遊ぶような友達がいなく、これといって趣味も夢もないからなんて事実をぶつけていいのか、わからなかったから。

 暫しの迷いの果て、口を開こうとした瞬間に電話が鳴る――ちゆりさんの。

「っ、出ても大丈夫ですよ」
「ごめんね、ちょっとだけ失礼します」

 スマホを抱えて、部屋をあとにする。声は微かに聞こえるが、ドア付近まで行かないと聴取することは出来なさそう。

「……気になる」

 と、言うのも下心あってというわけではない。いや、多少はあるかもしれないけど。
 ……しかし、渋いというか怪訝そうな顔をしていた。ただ、画面の表示を見ただけで。

「要するにこれは、偵察。決して、邪心から来るものじゃない」

 自身を正当化すると、先程の懸念が嘘のように晴れる。さて、バレないようにこっそりと。

「――すみません。今日は外せない用事がありまして。……はい、はい、っ」

 一体、何の話で電話の相手は誰だ?
 今日は予定があるから、唐突な変更は出来ない。アルバイト……にしては相槌からのテンポが悪い苦しそうな声。


 ……臭うな、何か。

「次、ですか……。すみません、まだ、わからなくて。あっ、いえ。嫌がってるとかではない、ですけど……」

 嘘。
 そんな声を震わせてといて、それを通すのは難しいんじゃないかな、ちゆりさん。

 それから聞き耳を立てて探った結果、ひとつの結論に達する。強引な勧誘……と、決めつけるのは些か早計だろが、概ねその結論に近いと睨んだ。

「っ、やめてください‼ ……お願い、します。長谷川くんには言わないでください。彼は今、大切な夢を追う真っ最中なんです。わたしは、いいから……どうか彼には何も。交合だけの関係も甘んじて、受け入れますからっ!」

 ――いや、早計も何もない。
 これは、善良な人助け。ドア越しでも目先で啜り泣く女性を守るための今、俺にしか出来ない救済。

 ドアを開ける。
 すると、彼女が驚いた表情でこちらを見るが関係ない。怒りでどうにかなってしまいそうだった。無意識にも、低い声音で要求する。

「ちゆりさん、スマホ貸して」
「えっ」
「いいから、貸してください。……もしもし」

 半ば強引に受け取ったスマホの電波には、予想通り男の声が乗っていた。

 軽薄な言葉遣いと脅すような発言に呆れて、冷静さを保ちながら完封を試みる。相手が中学生だ、と認識させなければ勝ち目しかないのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...