ちゆりさん、俺じゃダメですか?

おおいししおり

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第四話 風邪の引き始めは片想いの終わり

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 現在、ちゆりさんは正座をしている。
 今にも泣きそうな表情で反省の色を表に出し、省察を静かに語った。電話の主について。

「彼は……大学の先輩なの。明るくて、少し強引なところもあるけど憎めないというか、普通に談笑している分には問題なく楽しい人だったの。けど、ね」
「けど?」

 気になる追及に、彼女は視線を外す。
 ほんの一瞬だけ迷いながらも、自身の片腕を抱きながら震えた唇を開く。

「……長谷川くんと別れてから、態度が変わった。最初は遊びに誘われるくらいで、やんわりお断りしてたんだけど」

 彼女が語るに、その男の行為は段々とエスカレートを辿ったらしい。少し会話する程度から二人きりで休日を満喫するような誘い、デート。それから申し出は要求と徐々に加速は増し――。

「そして、ついに交合……つまり、身体だけの関係求めてきたわけですね。脅しという、最低クソ野郎なやり方で」

 まあ、つい先程、そのクソ野郎にウザ絡みするなって言葉強めに忠告を放ったわけだけど。

 彼氏の域を超えて、冷徹な極道風に。

「とりあえず、また連絡が来たり、大学で絡まれたら教えてください。……ヒロ兄にも協力してもらいます」

「……うん、ありがとう」

 元気は、出ないよな。
 きっと、俺が想像している以上に怖い思いをしてきたんだろうし。誰にも話さずに抱えていたのかもしれない。元カレであるヒロ兄にも。いや、その肩書きだからこそ相談出来ずにいた。これはあくまで予想に過ぎないが。

 さて、暗い表情の彼女を放置するのは趣味ではないがこちらも病気を患ってる身。あまり長居されるのは願っていないと男心を伝えたい。もちろん、傷付かないように丁寧に。

「ねえ、智也くん」

 と、刹那。呼び掛けが重なる手前で、ちゆりさんが先行して俺の名前を呼ぶ。やけに思い詰めた顔で。対応に迷ったが知らない振りをして問うた。

「何でしょうか、ちゆりさん」
「昨日、言ってくれたこと覚えてる? わたしの悪癖を治すために、二人で見つけようって言ってくれた話のこと」

「……はい、もちろんです」

 忘れるわけがない。自分で言ったことを。おまけに彼女の救いになれるのであれば、尚更。

「あれね、とっても嬉しかったの。こうやって言葉にすると難しいけど……。あぁ、わたしは一人じゃないんだなぁって思うことが出来て。さっきのも、凄く格好よかったよ」

 ちょっと怖くてやりすぎなのも同時に感じだけどね、と苦笑も添えて。

 好きな人からの感謝と称賛。これ以上ないくらいの、嬉しい名誉。素直に喜ばしい。喜ばしいけど、その奥にはまだ何か秘めているような気がした。

「わたしね、智也くんに惹かれてる、と思う」
「っ!」

 驚く、言うまでもなく。
 まさか、あの絶望的な状況から変化を成し遂げられるとは。しかし、煮え切らないというか確信が持てないところが彼女らしい。

「年齢の差だとか、わたしの性格の問題とか。……ヒロくんのことも」

 壁は厚い。酷く、分厚い。
 年齢はどう足掻いても追い付かないし。カウンセラーでもない俺が、彼女の性格を満足のいく形で矯正出来る保証はどこにもない。ヒロ兄にもしっかりと心から認めて貰えるように努力しなくてはいけない。

「……自分勝手で、都合がいいのは十分に承知です。もしよかったら、わたしと――」



「待って、ちゆりさん!」

 止める。止めてしまった、自ら。
 数年にも待ち望んだ、この展開を。けど、これでいい。

「ここから先は男の俺に言わせて。……ただ、日を改めて貰えると嬉しいです」
「あっ、ごめんなさい。わたしったら」

 風邪だったことをようやく思い出してくれたのか、ちゆりさんは謝罪の言葉を口へと溢す。

 その後、風邪を早く治す約束と週末のデート交わして解散。
 ヒロ兄には彼女の身に起きたことを詳細に話して、大学内では可能な限り一緒に行動するようにしてくれるらしい。

 ……もっとも、あれから男がちゆりさんの前に現れることはなかったようだが。小心者め。

 まあ、おかげで彼女との距離が縮められて付き合えたのだからちょっとは感謝すべきかな。これから何年も愛し続ける予定なのだから。
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