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恋する私
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私はもう母になったのに、大切な夫たちが居るのに他の人に気をやっているなんてと思うと自己嫌悪で心に黒い靄がかかる。
こんな嫌な気持ちで恋なんかしたくないのに…。
ヨルアノくんが好きだと気づいてからその事ばかり考えてしまって、私は余計に落ち込んでいた。
次の日の夜になってもぼんやりとしてしまって、一度部屋に戻ろうとソファから立ち上がった。そこでちょうどリビングの扉が開く。
「サキちゃん」
「!ラグトさん……」
「最近何か悩んでる?」
優しく微笑んだ彼にはやっぱり分かってしまうのだ。きっと他の皆も気づいてはいたのだろうけど。
「……話しても良いですか?」
「うん、部屋行こっか」
私の部屋に移動して、私は考えていたことを全部話した。
いつもこういう事を相談するのはラグトさんだった。上手く説明出来ない複雑な感情も彼は受け止めてくれる。
「そんなの気にしないでって言うのは簡単だけど、サキちゃんにとってそれが難しいことなのは分かるよ」
「はい……私、まだこの世界の考え方に馴染めて無くて……」
「この世界の考え方なんて無いよ、一人一人違うんだから。君自身を否定はしないで」
そう言われて思い出す。夫たちにはそれぞれ違う考え方があると知ったこと。そしてラグトさんに想いを伝えてもらった時のこと。
「母でも妻でも、それはあくまで一つの立場であってサキちゃんを縛り付けるものじゃないよ」
そっか……無意識に囚われすぎていたのかな。大切な人たちがまるで足枷のように……。
「サキちゃんが教えてくれたことで言うと、まず俺の妻、ヴェルストリアの妻、先輩の妻とか。君は俺たちを纏めて考えたりしないでしょ」
「はい……」
「その中にヨルアノに恋する立場があってもいいんじゃないかな」
「!」
「その立場が増えたってサキちゃんが他のことを蔑ろにすることは絶対無いって知ってるよ。ヨルアノも……ううん、二人のことは俺からは何とも言えないけどサキちゃんの恋する気持ちは良いものだと俺は思う」
一気に靄が晴れた気がした。
一人の男性に恋する女性としての私が居ても良いのだと。
自分だけで考えて無理やり納得させようとしてもきっと駄目な事だったのだろう。彼から許しを得られたことでまた前に進める。
「ラグトさん……ありがとうございます」
隣に座る彼に縋るように抱きつくと、抱きしめ返して背中を撫でてくれた。
「大丈夫だよ」
「はい……」
何度も心を掬い上げてくれる彼の言葉に感謝しながら、私はこの恋に真っ直ぐ向き合おうと決めた。
次の日になり、私は暗い気持ちを無くして今一度考える。
ヨルアノくんを好きになったけれど結局どうするのか。告白して想いを伝えるのかどうか。
恋の終着点は必ずしも告白だけでは無いと思う。その気持ちを抱えたまま今の変わらない関係を大事にすることも出来る。
一度断った身としては告白するのはやっぱり躊躇われて。ヨルアノくんと気まずくなって彼に気を遣わせてしまうかもと思うとなかなか勇気が出ない。同じ仕事場で何度も顔を合わせるからこそ、今のままが良いのではと思えてしまう。
「でも……」
やっぱり想いは伝えたい。昔、恋に気づいた時もそう強く思ったんだ。
そして大事なのは夫たちの気持ちだ。彼らにもきちんと伝えよう。
そう考えが纏まった、その時だった。
「サキさん」
「よ、ヨルアノくん!」
突然想い人に声をかけられ大袈裟に反応してしまう。
ど、どうしよう……ちゃんと顔見れない……。
少し挙動がおかしい私にヨルアノくんは心配そうに言う。
「どっか具合悪いですか?」
「全然!そんなことはないんだけど」
「そうですか?あの……ちょっと食堂の方行きませんか」
誘われて不思議に思いながらも彼についていく。その背中を見て彼の近くに居れることの喜びを感じた。
私……ずっとヨルアノくんのこと好きだったんだなぁ……。
今まで意識していなかったけれど彼が会いに来てくれるのが楽しみで、ふとした時に「今どうしてるかな」なんて思ったりしていた。
仲間としての好きが少しずつ変わっていき、一つのきっかけでそれは恋になる。その気持ちに気づけて良かった。知らないままが一番悲しいから。
誰も居ない食堂に着きヨルアノくんはこちらを振り返る。
「昔、告白させてもらったん覚えてますか?」
「う、うん!勿論!」
告白という単語に反応してしまった。
「だいぶ前のことなんに、覚えてもらえてん嬉しいです」
「凄く……嬉しかったから。私の中の大切な思い出だよ」
「!」
もし今彼を好きになっていなかったとしても忘れることはないと思う。そのくらい仲間としても大切な人だから。
一度深呼吸をした彼は、ゆっくり口を開いた。
「俺、まだサキさんのこと好きです」
「……えっ」
「あの時は叶わんって分かっとったし、そのうち諦めつくかなぁ思っとったけど……全然無理やった」
彼は「自分でも呆れている」と言い笑うが、その瞳の中の意思は強かった。
「ずっとサキさんのこと想ってます。誰よりもサキさんが大事や」
昔と変わらず、真っ直ぐに私を見つめる。
「しつこくて本当すみません。でももう一度だけ言わせてください。サキさんが好きです、俺と付き合ってください」
……うそ、好き………って……。
思わず泣きそうになったが……グッと堪えた。
「……少し、時間を貰ってもいいかな」
「え、あ……はい!全然!いつでも大丈夫です!」
すぐに断られると思っていたのか随分驚いた様子だったが、彼はコクコクと頷いて了解した。
先に食堂を出て少し早く歩き、誰も居ない部屋に入った。扉を閉めたら力が抜けてそこにもたれかかる。
「っ……」
抑えていた涙が零れた。
本当……だよね……。
まさかこのタイミングで再び告白してもらえるとは思いもよらず、まだ驚きと混乱が残りながらも嬉しさで心がいっぱいになる。
ヨルアノくんも……私のことが好き……ずっと好きでいてくれた……。
彼と出会って、告白してくれてから約四年。
その間に私は妊娠して子供が二人できて幸せいっぱいで。しかし彼はどんな気持ちで過ごしていたのだろう。
もう一度告白したいと思うくらいに私を強く想って、想い続けてくれていた。
「……うれしい……」
止まらない涙を何度も拭い、私自身の彼への気持ちを再び噛みしめた。
こんな嫌な気持ちで恋なんかしたくないのに…。
ヨルアノくんが好きだと気づいてからその事ばかり考えてしまって、私は余計に落ち込んでいた。
次の日の夜になってもぼんやりとしてしまって、一度部屋に戻ろうとソファから立ち上がった。そこでちょうどリビングの扉が開く。
「サキちゃん」
「!ラグトさん……」
「最近何か悩んでる?」
優しく微笑んだ彼にはやっぱり分かってしまうのだ。きっと他の皆も気づいてはいたのだろうけど。
「……話しても良いですか?」
「うん、部屋行こっか」
私の部屋に移動して、私は考えていたことを全部話した。
いつもこういう事を相談するのはラグトさんだった。上手く説明出来ない複雑な感情も彼は受け止めてくれる。
「そんなの気にしないでって言うのは簡単だけど、サキちゃんにとってそれが難しいことなのは分かるよ」
「はい……私、まだこの世界の考え方に馴染めて無くて……」
「この世界の考え方なんて無いよ、一人一人違うんだから。君自身を否定はしないで」
そう言われて思い出す。夫たちにはそれぞれ違う考え方があると知ったこと。そしてラグトさんに想いを伝えてもらった時のこと。
「母でも妻でも、それはあくまで一つの立場であってサキちゃんを縛り付けるものじゃないよ」
そっか……無意識に囚われすぎていたのかな。大切な人たちがまるで足枷のように……。
「サキちゃんが教えてくれたことで言うと、まず俺の妻、ヴェルストリアの妻、先輩の妻とか。君は俺たちを纏めて考えたりしないでしょ」
「はい……」
「その中にヨルアノに恋する立場があってもいいんじゃないかな」
「!」
「その立場が増えたってサキちゃんが他のことを蔑ろにすることは絶対無いって知ってるよ。ヨルアノも……ううん、二人のことは俺からは何とも言えないけどサキちゃんの恋する気持ちは良いものだと俺は思う」
一気に靄が晴れた気がした。
一人の男性に恋する女性としての私が居ても良いのだと。
自分だけで考えて無理やり納得させようとしてもきっと駄目な事だったのだろう。彼から許しを得られたことでまた前に進める。
「ラグトさん……ありがとうございます」
隣に座る彼に縋るように抱きつくと、抱きしめ返して背中を撫でてくれた。
「大丈夫だよ」
「はい……」
何度も心を掬い上げてくれる彼の言葉に感謝しながら、私はこの恋に真っ直ぐ向き合おうと決めた。
次の日になり、私は暗い気持ちを無くして今一度考える。
ヨルアノくんを好きになったけれど結局どうするのか。告白して想いを伝えるのかどうか。
恋の終着点は必ずしも告白だけでは無いと思う。その気持ちを抱えたまま今の変わらない関係を大事にすることも出来る。
一度断った身としては告白するのはやっぱり躊躇われて。ヨルアノくんと気まずくなって彼に気を遣わせてしまうかもと思うとなかなか勇気が出ない。同じ仕事場で何度も顔を合わせるからこそ、今のままが良いのではと思えてしまう。
「でも……」
やっぱり想いは伝えたい。昔、恋に気づいた時もそう強く思ったんだ。
そして大事なのは夫たちの気持ちだ。彼らにもきちんと伝えよう。
そう考えが纏まった、その時だった。
「サキさん」
「よ、ヨルアノくん!」
突然想い人に声をかけられ大袈裟に反応してしまう。
ど、どうしよう……ちゃんと顔見れない……。
少し挙動がおかしい私にヨルアノくんは心配そうに言う。
「どっか具合悪いですか?」
「全然!そんなことはないんだけど」
「そうですか?あの……ちょっと食堂の方行きませんか」
誘われて不思議に思いながらも彼についていく。その背中を見て彼の近くに居れることの喜びを感じた。
私……ずっとヨルアノくんのこと好きだったんだなぁ……。
今まで意識していなかったけれど彼が会いに来てくれるのが楽しみで、ふとした時に「今どうしてるかな」なんて思ったりしていた。
仲間としての好きが少しずつ変わっていき、一つのきっかけでそれは恋になる。その気持ちに気づけて良かった。知らないままが一番悲しいから。
誰も居ない食堂に着きヨルアノくんはこちらを振り返る。
「昔、告白させてもらったん覚えてますか?」
「う、うん!勿論!」
告白という単語に反応してしまった。
「だいぶ前のことなんに、覚えてもらえてん嬉しいです」
「凄く……嬉しかったから。私の中の大切な思い出だよ」
「!」
もし今彼を好きになっていなかったとしても忘れることはないと思う。そのくらい仲間としても大切な人だから。
一度深呼吸をした彼は、ゆっくり口を開いた。
「俺、まだサキさんのこと好きです」
「……えっ」
「あの時は叶わんって分かっとったし、そのうち諦めつくかなぁ思っとったけど……全然無理やった」
彼は「自分でも呆れている」と言い笑うが、その瞳の中の意思は強かった。
「ずっとサキさんのこと想ってます。誰よりもサキさんが大事や」
昔と変わらず、真っ直ぐに私を見つめる。
「しつこくて本当すみません。でももう一度だけ言わせてください。サキさんが好きです、俺と付き合ってください」
……うそ、好き………って……。
思わず泣きそうになったが……グッと堪えた。
「……少し、時間を貰ってもいいかな」
「え、あ……はい!全然!いつでも大丈夫です!」
すぐに断られると思っていたのか随分驚いた様子だったが、彼はコクコクと頷いて了解した。
先に食堂を出て少し早く歩き、誰も居ない部屋に入った。扉を閉めたら力が抜けてそこにもたれかかる。
「っ……」
抑えていた涙が零れた。
本当……だよね……。
まさかこのタイミングで再び告白してもらえるとは思いもよらず、まだ驚きと混乱が残りながらも嬉しさで心がいっぱいになる。
ヨルアノくんも……私のことが好き……ずっと好きでいてくれた……。
彼と出会って、告白してくれてから約四年。
その間に私は妊娠して子供が二人できて幸せいっぱいで。しかし彼はどんな気持ちで過ごしていたのだろう。
もう一度告白したいと思うくらいに私を強く想って、想い続けてくれていた。
「……うれしい……」
止まらない涙を何度も拭い、私自身の彼への気持ちを再び噛みしめた。
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