モブでも認知ぐらいしてほしいと思ったのがそもそもの間違いでした。

行倉宙華

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シックザール学園 第三章

娘のことが真剣に心配です

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 私はサイモン・アルドレード。
 伯爵の爵位を持っており、この王国の宰相を務めている。
 妻のミランダ、娘のスピカ、そして多くの使用人を抱えており、今日も激務に追われている。
 先日、第一王子のシリウス殿下とガブリエル様の結婚式がようやく終了した。
 ちょうど、結婚式の来客リストの最後の書類にサインをし終わった時に、部屋の扉が勢いよく開いた。


「サイモン! 仕事は終わったか!」
「ジェイコブ!? お前から訪ねて来るなど珍しいな、どうしたんだ!?」
「合格だ!!」
「は?」
「セドリックだ! 騎士団の入団試験に合格したんだ! ハハハッ!!」
「つまり? 忙しい時に、お前は息子の自慢をしにわざわざやって来たと?」
「一段落ついてるだろ? 今日は来客リストの確認しか仕事はないはずだ」


 状況把握が抜かりないとこは昔から変わらない。
 ジェイコブ・ドーソン。
 騎士団長で、娘のスピカの友人のセドリック・ドーソンの父親で、私の親友。
 どうやらこの親友は、愛する息子の騎士団入団が余程嬉しかったらしい。
 そういえば、スピカがセドリックの入団試験合格のお祝いをすると、まだ合格もしてないのにはりきっていたな。
 今頃、我が家は賑やかになってるな。


「けど、正式な騎士団への入団は学園を卒業してからだろ?」
「まあな? けど、これで晴れて騎士見習いだ! 共に王国を守る日も近い!」
「セドリックの前でも、それくらい素直になったらどうなんだ?」
「はあ……お前は、娘しかいないから息子への父親の接し方を知らないんだよ」
「それは失礼したな」
「スピカ嬢には本当に感謝だ……」


 あとから聞いた話だが、当時ジェイコブは息子のセドリックとの関係ですごく悩んでいたらしい。
 仕事を理由に息子から逃げ、息子が裏の世界に染まっていくことを防ぐことも出来なかったようだ。
 その関係に終止符を打ったのが、何とスピカだった。
 セドリックについて不良達の溜まり場に乗り込んだとか、突然騎士団の訓練所に来てジェイコブに説教したとか。
 本当に卒倒しかけた。


「この世に、あの子を産んでくれたお前にも感謝だ!」
「産んだのは俺じゃなく、ミランダだ」
「それもそうだな! じゃあ、ミランダとミランダを射止めたお前に感謝だ!」
「本当に機嫌がいいな……まあ、伯爵令嬢としては問題大有りだけどな?」
「お前に似たんじゃないのか?」
「はあ!?」
「見た目は、お前とミランダのいいとこを見事に半分ずつ受け継いだが、中身は完全に学生時代のサイモンだろ」
「待て待て待て待て? 俺は暗殺者に立ち向かったり、禁断の呪いを解いたり、伝説の魔女を拾ってきたりしたか?」
「まあ、スケールは些かスピカ嬢の方が壮大だが、お前も当時まだ王子だった国王陛下に喧嘩を売ったり、敵国のスパイを暴いたりしてただろ? おまけに学園脱走は日常茶飯事だ」
「それはお前もだろ!?」
「まあな? 女癖が悪くないとこ、授業に出席するとこ、学園長を脅して泣かさないとこ、あだ名が帝王じゃないとこはお前とは違うな?」
「本当に黙れよ、ジェイコブ……」


 確かに、スピカと根本の性格は私とそっくりだとは思う。
 ミランダの方に性格は似て欲しかったと最近特に思うこの頃だ。
 学生時代は多感な時期で、どんなことにもとにかくイラついていた。
 敷かれた未来のレールに乗るのも、貴族としての立場も、全てにイラついて亡くなった両親を始め、周りにそのストレスをぶつけてしまっていた。
 たくさんの人達を泣かせてしまった。


「そんな帝王も社交界の薔薇の魅力には骨抜きだったな?」
「お前、楽しんでるよな?」
「まさかまさか! お前がミランダに初めての淡い恋心を抱いて、悪さばかりだったお前は見事更生した! しかし、百戦錬磨の帝王は社交界の薔薇に振られてばかり……」
「絶対に楽しんでるよな!?」


 本当にどうしようもなかった私の暴走を止めてくれたのは、妻のミランダだ。
 恥ずかしながら、まともに授業に出席してなかった私はクラスメイトの顔と名前すら知らなかった。
 ひと目で、ミランダに恋に落ちた。
 あの出会いは運命だったとミランダが言っていたが、私も同じ気持ちだ。
 ミランダに振り向いて欲しくて、私は彼女に恥ずかしくない人間になるためにとにかく必死だった。
 ミランダがプロポーズを受けてくれた日は私の最良の日の中の一つだ。


「帝王の一途な想いは実り、二人は夫婦となった! いやあ、何度聞いても心温まる物語ではないか!」
「今日は一段と喋るな……」
「あ、待て! スピカ嬢がお前と違うとこがまだあったぞ!」
「一応聞いてやる、何だ?」
「恋愛に疎いとこだ」


 ジェイコブはニヤリと学生時代を彷彿とさせる悪い顔をする。
 普段は戦場に生きる怪物とか呼ばれてるくせに。
 騎士団の奴らに見せてやりたいよ、騎士団長はお前らが思ってる厳格で威厳のある尊敬するような男ではないと。


「サイモンも気付いているだろ? スピカ嬢の周りを渦巻く恋の負の連鎖を」
「どんな言葉のセンスだよ……」
「真面目に! お前どうする気だよ? 俺のイチオシはセドリックだ!」
「息子だからな」
「けど、いいじゃないか! もし、スピカ嬢とセドリックが結婚すれば、お前と俺は家族になるんだぞ!?」
「ライバルは第二王子、四大貴族、我が王国が誇る天才だぞ?」
「最高の友人を持ったもんだ……」
「ジェイコブ、話がズレてるぞ」
「おっと? まあ、確かに強力だが、セドリックも騎士見習いで、未来の団長候補と言われるほど将来有望だ! 戦うカードとしては申し分ないだろ?」


 スピカは、いつの間にか強力な人間関係を築いていた。
 どうやって親しくなったかはセドリックのことがあるため、頭痛や胃が痛くなるのが恐くて聞けてはいないが……
 おまけに見て分かるぐらいに、娘の友人達は娘にご執心らしい。
 あんなにあからさまなアプローチもスピカは平気で跳ね除けていく。
 父親としては嬉しいやら、心配やら複雑なところだ。


「何かをしてきたわけではないし、私は口を挟むつもりはないぞ?」
「ほう?」
「まあ、スピカを泣かすようなことがあれば誰でも俺が全力で潰しにいく」
「帝王は健在だな」


 娘のことを守るのが父の務めだろ?


「サイモン様!! 大変です!!」


 しかし、一番の願いは大人しくして欲しいということだ。
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