モブでも認知ぐらいしてほしいと思ったのがそもそもの間違いでした。

キングダム・レボリューション 開幕（シックザール学園 第四章）

悪役よりタチが悪いよね

　あのまま周りを信用せずに衝動のままに動いていたら、今の私の生活はどうなっていたのだろうか。
　アリーの笑顔を見て、この笑顔を奪うようなことにならなくて本当に良かったと心から思う。
　あのまま罪を犯していたら、長い時間を共にする友人達を得ることも、アリーを愛するという未来さえもなかった。
　後悔ばかりで、愛する心を知らない世界なんてゾッとする。
　あまりにも愚かだった私を止めたのはあなたよね？　スピカ・アルドレード。


「ああ、大変！　申し訳ござ……」
「お構いなく、大丈夫です」
「す、スピ……カ……」
「お気になさらいでくださいね？」


　未だに慣れない一人での食堂での食事を終えて、紅茶を半分ほど残した。
　カップを持ったまま立ち上がって、前を見ていなかった私は他人のドレスに紅茶をかけてしまった。
　私は何をしてるの……と、自己嫌悪に陥っている私を更に追い詰める。
　相手はスピカだった。
　リオンの発言から数日、リリーからは何度も誘ってもらうけれど、私はスピカとの食事を避けていた。
　そして、私はこの光景に懐かしさを感じて胸が締め付けられる思いだった。


「あ、ど、どこ……か、火傷は？」
「大丈夫です、カプリス様」
「本当に申し訳なかったわ、すぐ新しくドレスを用意させますわ」
「どうか、お気遣いなく」
「そういうわけにはいきませんわ」


　スピカはさほど気にした様子もなく事務的な会話を繰り出すだけ。
　目の前のこのご令嬢が、スピカの皮を被った偽物だとしたら、私はどんなに救われるだろう。
　その顔や形はスピカだけど、初めて出会った日に紅茶をかけ返してきて私と喧嘩を始めるような、伯爵令嬢としては大失敗でも、自慢の友人のスピカ・アルドレードはそこにはいなかった。
　みんなのように割り切れてしまえるほどの強さは、私にはないの。


「こんなことで、カプリス様の手を煩わせるわけには……」
「こういう場合には黙って受け取ることもマナーですわ」
「……そうなんでしょうか」
「まあ、納得しなくても構いませんわ」
「はあ……？」
「後ほど、また伺いますわ」


　一刻も早くこの場を去りたくて、私は乱れる心を隠しながら、強気な態度でスピカに向かい合った。
　そして、無理矢理話を切り上げて食堂を出ようとした私を、スピカは何故か引き止めた。


「あ、カプリス様！　お話するのはお久しぶりですよね？」
「……そうでしたわね」
「あの、ずっとお聞きしたくて……質問をしてもよろしいですか？」
「……何かしら？」
「何故、私と友人になったのですか？」


　それを聞く私はきっと怖い顔ね、油断をすると涙がこぼれそうだったから。


「あなたが、土足で私の領域に無理矢理に入り込んで来たからですわ！」
「え？　無理矢理とは……」


　初めて出会った時、あの行動は私を助けるためか、はたまた自分に素直に行動した結果かは分からないわ。
　あの時から、あなたの瞳に映すものを一緒に見たいと思った。
　本当に昔から、あなたは人を驚かせるのが得意だったわね？
　あなたを失ったら、私達は一体どうすればいいのよ？
　こんなに人の心を占領してるくせに次は離れるなんて、そこらの悪役よりよっぽど悪役がお似合いよ。


「あなたはずっと、思う存分に私達を振り回し続けてればよろしいのよ……」