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第一章 物語は落下して始まった
空に逃げ出した人類
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遥か昔、第三次世界大戦と呼ばれる大きな戦争が起こった。
核兵器が大量に持ち出されたこの戦争は地上をほぼ全部焼け野原にした。
美しかった地上は見る影もなく、人々の心に大きな傷を残した。
しかし、こうなることを予想していた科学者達は空に目を付けていた。
絶望の渦の中にいた人類に差したその光とは――科学装置、シエロ。
シエロは人類を空に住まわすことを可能にした世紀の大発明と言われた。
地中深く埋められたシエロによって生き残った全人類は、空に移住した。
『2034年 空島移住計画~完成』
新しい人類の住居を人々は、空島と名付けた。
そして、約九百年で人類は失った文明を取り戻し、さらに進めた。
闇に葬られた地上の様子を知る者は今は誰もいないのだ。
***
2958年に、俺、澤木昴は、ナサニエルに入学を果たして一年が経った。
ナサニエルとは未来ある子どものための養成施設であり、三年間通えばエリートへの道が約束された場所でもある。
この空島全体をナサニエルが管理してることもあり、生徒か教師しかいない。
中学を卒業してれば誰でも入学試験を受けられるが、難易度は高めで俺も必死の勉強を強いられた。
情けないが、将来への目標や希望も特になかった俺はエリートなら親も文句を言うまいと思って、ノリでナサニエルの入学を決意したようなものだった。
まあ、一番は家を出たかったとそこそこの理由もあったので、勉強を頑張った甲斐もあってか無事に合格。
八つの学科があり、俺はその中の環境学科に通っている。
「はあ……レポート終わらねえわ」
「環境学科は大変そうだな、ほとんどが講義なんだろ?」
「適材適所だよ、俺は体力ないから建築科なんて絶対に無理だね」
「またそれかよ~」
生徒には、それぞれ学科関係なく男女別で二人部屋が与えられており、三年間変わることはない。
この男は、俺のルームメイトで建築科に通う雨野サトル。
銀髪に碧眼で細身だがしっかりと筋肉もついててイケメン、性格も明るいし面倒見もいいから、もう入学してから一年と五か月なのに毎月告白されてる。
暗い茶髪で別段特徴のない平凡な顔をしてる俺とは何もかも違う。
「昴、気分転換に食堂でも行くか?」
「金ないし、パス」
「この間の授業の替え玉のお礼に、僕が奢りますよ~?」
「よし、さっさと行こうぜ」
けど、調子のいい性格のこの男を俺は嫌いじゃなかった。
何だかんだで気が合うし、授業以外では俺はサトルといることが多い。
ナサニエルには約六百人の生徒が通っており、どこに行っても賑やかだ。
俺は食堂で、サトルに奢ってもらったパフェを隣で食べながらくだらない話をしていると、そこに近付いてくる人影。
「昴! あんたはどうして、長期休暇に実家に帰らなかったのよ!」
「真由、また説教は勘弁しろよ……」
「おばさん寂しがってたわよ? 今年は望まで帰らないって言うし、おばさんが可哀想じゃないの!」
「まあまあ、真由? 抑えて抑えて」
出会い頭にお節介にも説教を噛ましてきたのは幼なじみの湖中真由。
青みがかった黒髪のセミロングで、細くてスタイルはいいし黙ってればそこそこだけど、口はうるさいし、そもそも真由とはただの腐れ縁だ。
そして、もう一人は真由のルームメイトで真由と同じ医療科に通う橘菜々美。
もう十七歳になるのに、高い位置で揺れる巻いたツインテールが似合う童顔で真由とは正反対の可愛らしい印象だ。
ああ……医療科とは、授業のペースが被らないから最近は真由とは全然顔を合わせてなかったのにツイてないわ。
「おい待て、望もって……あいつもここに残ってんのか?」
「本人から聞いたからね?」
「サトル‼︎」
「ええ⁉︎ 知らないって! 弟くんとはまともに話したことないし! てか、今の時点でここにいるってことは二人も長期休暇に帰らなかったの?」
「そうだよ、真由! お前だって人のこと言えないじゃないか!」
「私は、あんた達の監視をおばさんから正式に頼まれたの! それに、家が改築中で帰ってもホテル暮らしだしね」
「はあ……母さんも余計なことを……」
「菜々美は何で帰らなかったんだ? 親御さん達、心配してるだろ?」
「ギリギリまで反対されたけど、真由が残るって言うし、あと、サトルも!」
「ぼ、僕?」
「サトルと一緒にいたかったの!」
俺は目の前に広がる光景に、同じ女子と話しててこうも漂う雰囲気が違うことに理不尽にも苛立ちを感じていた。
おまけに真由だけじゃなく、望までナサニエルに残るなんて……
何のために二年続けて長期休暇に帰宅申請書出さなかったと思ってんだ……
ナサニエルには、夏、冬、春にそれぞれ三週間ほどの長期休暇があり、生徒は実家に帰るか、ナサニエルに残るのかを選ぶことができる。
「それにしても、今日は人がいるはいるけど、何か少なくないか?」
「あー! サトル、話変えたでしょ!」
「そ、そんなことは……ね? 昴!」
「え……まあ、少なくて当たり前だろ? 今日は三年が試験だろ?」
「それに、今日は空島会議だからって先生達が言ってたわよ?」
今日はその夏の長期休暇が始まって最初の週だ。
おまけに、最年長クラスの生徒は将来に関わる夏と冬に行なわれる大事な試験の一回目で全員出払ってるし、教師陣の大人達は定期的に行なわれる空島会議に出ていて空島にはいない。
だから、今のナサニエル内の人口密度も人数もいつもの三分の一だ。
こんなに人がいないナサニエルなんて初めてだな? 偶然ってあるもんだ。
――昔から決まっている、何か事件が起きるのは大人がいない空間だって……
その時、けたたましくナサニエル内に警報が鳴り響いた。
核兵器が大量に持ち出されたこの戦争は地上をほぼ全部焼け野原にした。
美しかった地上は見る影もなく、人々の心に大きな傷を残した。
しかし、こうなることを予想していた科学者達は空に目を付けていた。
絶望の渦の中にいた人類に差したその光とは――科学装置、シエロ。
シエロは人類を空に住まわすことを可能にした世紀の大発明と言われた。
地中深く埋められたシエロによって生き残った全人類は、空に移住した。
『2034年 空島移住計画~完成』
新しい人類の住居を人々は、空島と名付けた。
そして、約九百年で人類は失った文明を取り戻し、さらに進めた。
闇に葬られた地上の様子を知る者は今は誰もいないのだ。
***
2958年に、俺、澤木昴は、ナサニエルに入学を果たして一年が経った。
ナサニエルとは未来ある子どものための養成施設であり、三年間通えばエリートへの道が約束された場所でもある。
この空島全体をナサニエルが管理してることもあり、生徒か教師しかいない。
中学を卒業してれば誰でも入学試験を受けられるが、難易度は高めで俺も必死の勉強を強いられた。
情けないが、将来への目標や希望も特になかった俺はエリートなら親も文句を言うまいと思って、ノリでナサニエルの入学を決意したようなものだった。
まあ、一番は家を出たかったとそこそこの理由もあったので、勉強を頑張った甲斐もあってか無事に合格。
八つの学科があり、俺はその中の環境学科に通っている。
「はあ……レポート終わらねえわ」
「環境学科は大変そうだな、ほとんどが講義なんだろ?」
「適材適所だよ、俺は体力ないから建築科なんて絶対に無理だね」
「またそれかよ~」
生徒には、それぞれ学科関係なく男女別で二人部屋が与えられており、三年間変わることはない。
この男は、俺のルームメイトで建築科に通う雨野サトル。
銀髪に碧眼で細身だがしっかりと筋肉もついててイケメン、性格も明るいし面倒見もいいから、もう入学してから一年と五か月なのに毎月告白されてる。
暗い茶髪で別段特徴のない平凡な顔をしてる俺とは何もかも違う。
「昴、気分転換に食堂でも行くか?」
「金ないし、パス」
「この間の授業の替え玉のお礼に、僕が奢りますよ~?」
「よし、さっさと行こうぜ」
けど、調子のいい性格のこの男を俺は嫌いじゃなかった。
何だかんだで気が合うし、授業以外では俺はサトルといることが多い。
ナサニエルには約六百人の生徒が通っており、どこに行っても賑やかだ。
俺は食堂で、サトルに奢ってもらったパフェを隣で食べながらくだらない話をしていると、そこに近付いてくる人影。
「昴! あんたはどうして、長期休暇に実家に帰らなかったのよ!」
「真由、また説教は勘弁しろよ……」
「おばさん寂しがってたわよ? 今年は望まで帰らないって言うし、おばさんが可哀想じゃないの!」
「まあまあ、真由? 抑えて抑えて」
出会い頭にお節介にも説教を噛ましてきたのは幼なじみの湖中真由。
青みがかった黒髪のセミロングで、細くてスタイルはいいし黙ってればそこそこだけど、口はうるさいし、そもそも真由とはただの腐れ縁だ。
そして、もう一人は真由のルームメイトで真由と同じ医療科に通う橘菜々美。
もう十七歳になるのに、高い位置で揺れる巻いたツインテールが似合う童顔で真由とは正反対の可愛らしい印象だ。
ああ……医療科とは、授業のペースが被らないから最近は真由とは全然顔を合わせてなかったのにツイてないわ。
「おい待て、望もって……あいつもここに残ってんのか?」
「本人から聞いたからね?」
「サトル‼︎」
「ええ⁉︎ 知らないって! 弟くんとはまともに話したことないし! てか、今の時点でここにいるってことは二人も長期休暇に帰らなかったの?」
「そうだよ、真由! お前だって人のこと言えないじゃないか!」
「私は、あんた達の監視をおばさんから正式に頼まれたの! それに、家が改築中で帰ってもホテル暮らしだしね」
「はあ……母さんも余計なことを……」
「菜々美は何で帰らなかったんだ? 親御さん達、心配してるだろ?」
「ギリギリまで反対されたけど、真由が残るって言うし、あと、サトルも!」
「ぼ、僕?」
「サトルと一緒にいたかったの!」
俺は目の前に広がる光景に、同じ女子と話しててこうも漂う雰囲気が違うことに理不尽にも苛立ちを感じていた。
おまけに真由だけじゃなく、望までナサニエルに残るなんて……
何のために二年続けて長期休暇に帰宅申請書出さなかったと思ってんだ……
ナサニエルには、夏、冬、春にそれぞれ三週間ほどの長期休暇があり、生徒は実家に帰るか、ナサニエルに残るのかを選ぶことができる。
「それにしても、今日は人がいるはいるけど、何か少なくないか?」
「あー! サトル、話変えたでしょ!」
「そ、そんなことは……ね? 昴!」
「え……まあ、少なくて当たり前だろ? 今日は三年が試験だろ?」
「それに、今日は空島会議だからって先生達が言ってたわよ?」
今日はその夏の長期休暇が始まって最初の週だ。
おまけに、最年長クラスの生徒は将来に関わる夏と冬に行なわれる大事な試験の一回目で全員出払ってるし、教師陣の大人達は定期的に行なわれる空島会議に出ていて空島にはいない。
だから、今のナサニエル内の人口密度も人数もいつもの三分の一だ。
こんなに人がいないナサニエルなんて初めてだな? 偶然ってあるもんだ。
――昔から決まっている、何か事件が起きるのは大人がいない空間だって……
その時、けたたましくナサニエル内に警報が鳴り響いた。
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