エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
80 / 257
第三章-⑶ ジェームズとコタロウ

帰るとはとても残酷な言葉

しおりを挟む
 帰る、それはいつからか俺達の中で口にしなくなってしまった言葉。


「もう僕達が地上に落ちてから、四か月は経ってるんだよ!? いつになったら、救助は来るの!? あと何日? あとどのくらい、僕達はここにいるの……」


 溜まっていたものを全部吐き出してスッキリしたのか、または力が抜けてしまったのか。
 ジェームズはカクッと膝を折って、砂浜に座り込んでしまった。


「ジェームズ!」


 思わず俺は名前を叫び、すぐにジェームズに駆け寄った。
 それは他のみんなも、同じだった。


「不安、恐怖、孤独感など、いろんな感情からくる過剰なストレスがジェームズの過食の理由よ」


 俺はジェームズの背中を、ゆっくり優しく擦りながら、ゾーイの淡々とした言葉をただ聞いていた。


「……ゾーイ? どうして、ジェームズの過食の原因がわかったんだ?」


 そんな時にその質問をゾーイにしたのは、デルタだった。
 俺達は一斉に視線を、俯いていたジェームズも含め、ゾーイに向けた。


「そんなの簡単よ。まず、人一倍食べるジェームズが二週間もまともに食事を食べていなかった、これがもう異常事態でしょ?」
「え、二週間!?」
「ゾーイ……気付いてたの……?」


 デルタの叫びの後に、ジェームズは目を見開いて驚く。
 驚いているのは、俺も同じだった。
 俺がジェームズの食欲がないって気が付いたのは、つい一週間前のこと。
 それよりも、もっと前からゾーイは知っていたんだと思うと、改めて君への驚きを隠せなかった。


「当たり前でしょ? まあ、それであの量で足りるわけないって思ってたけど、特段動きはなかったから放置してたのよね。けど、冷蔵庫ができた途端、どっかの誰かさんは動いた。みんなご存知の食料盗み食い事件の発生ね?」


 ゾーイは、いつも通りに淡々と言葉を紡いでいくばかり。
 けど、その口調が余計にジェームズの罪悪感を刺激するようで、とてもばつが悪そうな顔をしていた。


「盗み食い中の、ジェームズの様子を見せてやりたいわよ。あれは、ちょっと繊細な人間にはトラウマものよ? 夜中にノロノロ起き出して、目は虚ろで、手当り次第に食べまくってさ……ほとんど意識がないみたいだったし?」


 よく知るジェームズの様子とはかけ離れた衝撃の事実を、俺達は信じられなかった。
 けど、ジェームズの顔を見れば一目瞭然で、その顔はゾーイの話す内容が全て事実だと物語っていた。


「まあ、そうなると原因は十中八九ストレスってなるわけよ? じゃあ、そのストレスの原因はって考えると、今のこの救助がいつ来るのかもわからない状況が最大のストレスだろうなって。それで暴飲暴食、夜中の徘徊ってヤバい単語がチラつく事態になったんだろうなってあたしの中で着地したわけよ」


 一連のゾーイの話の流れに、俺は頷くことしかできなかった。
 ゾーイには何もかもがお見通しで、俺達の遥か先を歩いていると、まざまざと突きつけられたようだった……
 けど、俺には一つだけ気になることがあった。


「ゾーイ? 聞きたいんだけど……そこまでわかっていたなら、どうしてジェームズのこと……」
「放っておいたのかって?」
「う、うん……ごめん」


 俺の質問に被せるように、ゾーイは聞き返してきた。
 きっと、それはこの場の全員が疑問に思っていることだと思うんだ。
 どんな答えが返ってくるのか、俺は少し緊張しながら待っていたんだけど……


「そんなの、ジェームズが何も言わなかったからだけど?」


 ゾーイは当然だと言うように、そう答えた。
 すると、その場の全員が唖然とし、異様な沈黙が流れたが、ゾーイはまったく気にもせず、ジェームズの目を見てこう続けた。


「自分でもどうすればいいのか、本当にわけわからなくなってたけど、誰かに相談するのも変なプライドが邪魔をした。そんなとこでしょ?」


 淡々としたゾーイの言葉は、しっかりとジェームズの図星をついたようだ。
 少し泣きそうなジェームズに、俺達は何も言えなくなってしまった。
 けど、俺には気持ちがすごくわかる。
 誰も弱音も言わず、目の前の生活に向き合ってる中で自分だけが寂しいと、不安だとぶちまけることは、すごく恥ずかしくて、勇気がいることで……
 そんなことすらも言えない空気にしてしまったのは、他ならぬ俺達で……
 まるで、幸せな夢から目が覚めてしまったような気分だった。
 けど、もちろん、そんな結論に納得をしない者もいた。


「は? おい、ふざけんなよ? そんなくだらねえことが理由で、逃げ切れると思ってんのか!?」


 コタロウは、今度こそブチ切れてしまっていた。


「いつ帰れるのか? それはこっちのセリフだ! こっちは、ほとんど情けで住まわしてやってんだ! ただでさえ、テメーらのせいで食い扶持が減ってるってのに、こんな面倒起こしやがって! この疫病神が!」
「言いすぎだ! コタロウ!」
「レオ、お前は黙れ!」


 レオが声を荒らげても、それを突っぱねるほどにコタロウはブチ切れていた。


「何かと言えば、空島、家族ってバカの一つ覚えみたいによ! つーか、地上に落ちて四か月なんだろ? そろそろ、諦めた方がいいんじゃねえのか? とっくに、家族と世間はテメーらのことなんか頭の片隅に忘れ去ってるぞ? もう救助とかいうのは……」


 ヒートアップしたコタロウがさらに言葉を続けようとした時に……


 鈍い音が、波の音と消えていった――


「グハッ……!! て、てめ……!!」
「ごめんよ? うっかりびっくり、手が出ちゃったわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...