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第三章-⑶ ジェームズとコタロウ
帰るとはとても残酷な言葉
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帰る、それはいつからか俺達の中で口にしなくなってしまった言葉。
「もう僕達が地上に落ちてから、四か月は経ってるんだよ!? いつになったら、救助は来るの!? あと何日? あとどのくらい、僕達はここにいるの……」
溜まっていたものを全部吐き出してスッキリしたのか、または力が抜けてしまったのか。
ジェームズはカクッと膝を折って、砂浜に座り込んでしまった。
「ジェームズ!」
思わず俺は名前を叫び、すぐにジェームズに駆け寄った。
それは他のみんなも、同じだった。
「不安、恐怖、孤独感など、いろんな感情からくる過剰なストレスがジェームズの過食の理由よ」
俺はジェームズの背中を、ゆっくり優しく擦りながら、ゾーイの淡々とした言葉をただ聞いていた。
「……ゾーイ? どうして、ジェームズの過食の原因がわかったんだ?」
そんな時にその質問をゾーイにしたのは、デルタだった。
俺達は一斉に視線を、俯いていたジェームズも含め、ゾーイに向けた。
「そんなの簡単よ。まず、人一倍食べるジェームズが二週間もまともに食事を食べていなかった、これがもう異常事態でしょ?」
「え、二週間!?」
「ゾーイ……気付いてたの……?」
デルタの叫びの後に、ジェームズは目を見開いて驚く。
驚いているのは、俺も同じだった。
俺がジェームズの食欲がないって気が付いたのは、つい一週間前のこと。
それよりも、もっと前からゾーイは知っていたんだと思うと、改めて君への驚きを隠せなかった。
「当たり前でしょ? まあ、それであの量で足りるわけないって思ってたけど、特段動きはなかったから放置してたのよね。けど、冷蔵庫ができた途端、どっかの誰かさんは動いた。みんなご存知の食料盗み食い事件の発生ね?」
ゾーイは、いつも通りに淡々と言葉を紡いでいくばかり。
けど、その口調が余計にジェームズの罪悪感を刺激するようで、とてもばつが悪そうな顔をしていた。
「盗み食い中の、ジェームズの様子を見せてやりたいわよ。あれは、ちょっと繊細な人間にはトラウマものよ? 夜中にノロノロ起き出して、目は虚ろで、手当り次第に食べまくってさ……ほとんど意識がないみたいだったし?」
よく知るジェームズの様子とはかけ離れた衝撃の事実を、俺達は信じられなかった。
けど、ジェームズの顔を見れば一目瞭然で、その顔はゾーイの話す内容が全て事実だと物語っていた。
「まあ、そうなると原因は十中八九ストレスってなるわけよ? じゃあ、そのストレスの原因はって考えると、今のこの救助がいつ来るのかもわからない状況が最大のストレスだろうなって。それで暴飲暴食、夜中の徘徊ってヤバい単語がチラつく事態になったんだろうなってあたしの中で着地したわけよ」
一連のゾーイの話の流れに、俺は頷くことしかできなかった。
ゾーイには何もかもがお見通しで、俺達の遥か先を歩いていると、まざまざと突きつけられたようだった……
けど、俺には一つだけ気になることがあった。
「ゾーイ? 聞きたいんだけど……そこまでわかっていたなら、どうしてジェームズのこと……」
「放っておいたのかって?」
「う、うん……ごめん」
俺の質問に被せるように、ゾーイは聞き返してきた。
きっと、それはこの場の全員が疑問に思っていることだと思うんだ。
どんな答えが返ってくるのか、俺は少し緊張しながら待っていたんだけど……
「そんなの、ジェームズが何も言わなかったからだけど?」
ゾーイは当然だと言うように、そう答えた。
すると、その場の全員が唖然とし、異様な沈黙が流れたが、ゾーイはまったく気にもせず、ジェームズの目を見てこう続けた。
「自分でもどうすればいいのか、本当にわけわからなくなってたけど、誰かに相談するのも変なプライドが邪魔をした。そんなとこでしょ?」
淡々としたゾーイの言葉は、しっかりとジェームズの図星をついたようだ。
少し泣きそうなジェームズに、俺達は何も言えなくなってしまった。
けど、俺には気持ちがすごくわかる。
誰も弱音も言わず、目の前の生活に向き合ってる中で自分だけが寂しいと、不安だとぶちまけることは、すごく恥ずかしくて、勇気がいることで……
そんなことすらも言えない空気にしてしまったのは、他ならぬ俺達で……
まるで、幸せな夢から目が覚めてしまったような気分だった。
けど、もちろん、そんな結論に納得をしない者もいた。
「は? おい、ふざけんなよ? そんなくだらねえことが理由で、逃げ切れると思ってんのか!?」
コタロウは、今度こそブチ切れてしまっていた。
「いつ帰れるのか? それはこっちのセリフだ! こっちは、ほとんど情けで住まわしてやってんだ! ただでさえ、テメーらのせいで食い扶持が減ってるってのに、こんな面倒起こしやがって! この疫病神が!」
「言いすぎだ! コタロウ!」
「レオ、お前は黙れ!」
レオが声を荒らげても、それを突っぱねるほどにコタロウはブチ切れていた。
「何かと言えば、空島、家族ってバカの一つ覚えみたいによ! つーか、地上に落ちて四か月なんだろ? そろそろ、諦めた方がいいんじゃねえのか? とっくに、家族と世間はテメーらのことなんか頭の片隅に忘れ去ってるぞ? もう救助とかいうのは……」
ヒートアップしたコタロウがさらに言葉を続けようとした時に……
鈍い音が、波の音と消えていった――
「グハッ……!! て、てめ……!!」
「ごめんよ? うっかりびっくり、手が出ちゃったわ」
「もう僕達が地上に落ちてから、四か月は経ってるんだよ!? いつになったら、救助は来るの!? あと何日? あとどのくらい、僕達はここにいるの……」
溜まっていたものを全部吐き出してスッキリしたのか、または力が抜けてしまったのか。
ジェームズはカクッと膝を折って、砂浜に座り込んでしまった。
「ジェームズ!」
思わず俺は名前を叫び、すぐにジェームズに駆け寄った。
それは他のみんなも、同じだった。
「不安、恐怖、孤独感など、いろんな感情からくる過剰なストレスがジェームズの過食の理由よ」
俺はジェームズの背中を、ゆっくり優しく擦りながら、ゾーイの淡々とした言葉をただ聞いていた。
「……ゾーイ? どうして、ジェームズの過食の原因がわかったんだ?」
そんな時にその質問をゾーイにしたのは、デルタだった。
俺達は一斉に視線を、俯いていたジェームズも含め、ゾーイに向けた。
「そんなの簡単よ。まず、人一倍食べるジェームズが二週間もまともに食事を食べていなかった、これがもう異常事態でしょ?」
「え、二週間!?」
「ゾーイ……気付いてたの……?」
デルタの叫びの後に、ジェームズは目を見開いて驚く。
驚いているのは、俺も同じだった。
俺がジェームズの食欲がないって気が付いたのは、つい一週間前のこと。
それよりも、もっと前からゾーイは知っていたんだと思うと、改めて君への驚きを隠せなかった。
「当たり前でしょ? まあ、それであの量で足りるわけないって思ってたけど、特段動きはなかったから放置してたのよね。けど、冷蔵庫ができた途端、どっかの誰かさんは動いた。みんなご存知の食料盗み食い事件の発生ね?」
ゾーイは、いつも通りに淡々と言葉を紡いでいくばかり。
けど、その口調が余計にジェームズの罪悪感を刺激するようで、とてもばつが悪そうな顔をしていた。
「盗み食い中の、ジェームズの様子を見せてやりたいわよ。あれは、ちょっと繊細な人間にはトラウマものよ? 夜中にノロノロ起き出して、目は虚ろで、手当り次第に食べまくってさ……ほとんど意識がないみたいだったし?」
よく知るジェームズの様子とはかけ離れた衝撃の事実を、俺達は信じられなかった。
けど、ジェームズの顔を見れば一目瞭然で、その顔はゾーイの話す内容が全て事実だと物語っていた。
「まあ、そうなると原因は十中八九ストレスってなるわけよ? じゃあ、そのストレスの原因はって考えると、今のこの救助がいつ来るのかもわからない状況が最大のストレスだろうなって。それで暴飲暴食、夜中の徘徊ってヤバい単語がチラつく事態になったんだろうなってあたしの中で着地したわけよ」
一連のゾーイの話の流れに、俺は頷くことしかできなかった。
ゾーイには何もかもがお見通しで、俺達の遥か先を歩いていると、まざまざと突きつけられたようだった……
けど、俺には一つだけ気になることがあった。
「ゾーイ? 聞きたいんだけど……そこまでわかっていたなら、どうしてジェームズのこと……」
「放っておいたのかって?」
「う、うん……ごめん」
俺の質問に被せるように、ゾーイは聞き返してきた。
きっと、それはこの場の全員が疑問に思っていることだと思うんだ。
どんな答えが返ってくるのか、俺は少し緊張しながら待っていたんだけど……
「そんなの、ジェームズが何も言わなかったからだけど?」
ゾーイは当然だと言うように、そう答えた。
すると、その場の全員が唖然とし、異様な沈黙が流れたが、ゾーイはまったく気にもせず、ジェームズの目を見てこう続けた。
「自分でもどうすればいいのか、本当にわけわからなくなってたけど、誰かに相談するのも変なプライドが邪魔をした。そんなとこでしょ?」
淡々としたゾーイの言葉は、しっかりとジェームズの図星をついたようだ。
少し泣きそうなジェームズに、俺達は何も言えなくなってしまった。
けど、俺には気持ちがすごくわかる。
誰も弱音も言わず、目の前の生活に向き合ってる中で自分だけが寂しいと、不安だとぶちまけることは、すごく恥ずかしくて、勇気がいることで……
そんなことすらも言えない空気にしてしまったのは、他ならぬ俺達で……
まるで、幸せな夢から目が覚めてしまったような気分だった。
けど、もちろん、そんな結論に納得をしない者もいた。
「は? おい、ふざけんなよ? そんなくだらねえことが理由で、逃げ切れると思ってんのか!?」
コタロウは、今度こそブチ切れてしまっていた。
「いつ帰れるのか? それはこっちのセリフだ! こっちは、ほとんど情けで住まわしてやってんだ! ただでさえ、テメーらのせいで食い扶持が減ってるってのに、こんな面倒起こしやがって! この疫病神が!」
「言いすぎだ! コタロウ!」
「レオ、お前は黙れ!」
レオが声を荒らげても、それを突っぱねるほどにコタロウはブチ切れていた。
「何かと言えば、空島、家族ってバカの一つ覚えみたいによ! つーか、地上に落ちて四か月なんだろ? そろそろ、諦めた方がいいんじゃねえのか? とっくに、家族と世間はテメーらのことなんか頭の片隅に忘れ去ってるぞ? もう救助とかいうのは……」
ヒートアップしたコタロウがさらに言葉を続けようとした時に……
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