エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
196 / 257
第四章-⑴ 良い子は謎解きの時間だよ

手足の鈍さが俺達の鈍さだ

しおりを挟む
 ゾーイは、はっきりと包み隠すことなく、言い切ったのだ。
 淡々としたいつもの口調と、人を金縛りにする、何度となく見たあの青の瞳と不気味なほどの笑みを添えて……


「それは……どういう意味で言っているのかしら?」
「さあ? あたしにもさっぱりだよ?」


 そのゾーイの言葉に対して、ローレンさんは震える声で聞き返した。
 けど、一方でゾーイは、自分で言っておきながら、まるで他人事のようなトーンで、そう返したのだった。


「そっ、そんな! なぜ、そんな紛らわしいことを言うのよ!? あなたが言ったことでしょ!? そもそも、言った本人のあなたがわからないのなら、この世の誰にもわからないじゃない! もっと、自分の言葉に責任を持つべきだわ!」
「あら、怒ってる?」
「当然だわ! まるで、私のことを疑うようなことを言っておいて……!!」
「けど、言葉の意味がわかる奴なら、この世にたった一人だけいるけど?」
「は……? そんなのいるわけが……!!」


 そんなゾーイの、ここまできたらバカにされたようにも感じられる態度に、ローレンさんは怒鳴り声を上げる。
 それを受けても、ゾーイはいつもの調子と変わらずに、また煽っていく。
 ゾーイの問いかけにすら、ヒートアップしたままの状態でローレンさんは答えようとしていたのだが……


「バカなの? 言われた本人が、一番自分でわかるに決まってんだろうが」


 それはゾーイの稀に見る、ブチ切れ寸前を意味する口調により、その場の時は止まったので、ローレンさんの言葉が最後まで紡がれることはなかった。
 何より、今のその瞬間のゾーイは一段と迫力がすごいもので……


「わっ、私! 申し訳ないけど、少しだけ、風にあたってくるわ!」


 当然というか……そんなことを、正面切って言われた本人のローレンさんは、これでもかと顔を強ばらせて、逃げるように走り去って行った。
 今、目の前で何が起こったんだ……?
 確実に今、二人の間だけで会話に似たようなものが成立したよな?


「……ねえ、昴」
「はっ、はい……!?」
「あんたがいてくれてよかったわ」
「え? あ、うん?」


 状況が上手く読み込めず、俺はゾーイに呼ばれて、声が裏返ってしまうほど動揺をしていた。
 そんな俺のことは受け流し、ゾーイは俺の顔を見ることなく、そう呟く。
 何なんだ、さっきから何を言って……


「あたし、やっぱり、あの子のこと好きじゃないわ」


 フラッシュバック、そのゾーイの言葉を聞いて、俺はその場で九か月前のナサニエルを出発した時を思い出した。

 ――あの子のこと好きじゃないわ

 あの日、ゾーイは俺に、はっきりとローレンさんのことを、そう告げた。
 あの時と同じトーン、同じ淡々としたこの感じ、すべてを繰り返している。


「ゾーイ! 聞きたいことが……!!」
「さてと、散歩も飽きたし、アラン達のとこでも行きますか!」
「え? あのさ、ゾーイ!」
「ほらほら、昴もはや、く……!?」
「ゾーイ!? え、ちょっ、大丈夫!?」


 意を決して、ゾーイにローレンさんのことを問おうとしたら……ゾーイは俺の言葉をあからさまに遮った。
 そんなことをされるとは思わず、俺はゾーイを引き止めるように声を上げる。
 しかし、ゾーイはどんどん歩を進めると思いきや、またもや予想外のことが起き、俺は慌ててゾーイに駆け寄った。


「ゾーイ! ケガとかしてないか!?」


 ゾーイが転んだのだ……いや、あれは転んだって言っていいのか?
 俺の目の前で、ゾーイは急にバランスを崩し、その場に手をついていた。
 まるで、両足の力が突然一気に抜けてしまったかのように……


「おい! おいってば! ゾーイ!? 大丈夫だったか!? どこか痛いのか!?」
「え? あー、うん。全然平気!」
「いや、平気じゃないだろ!? この前だって、急に手が滑ったとか言って皿を落としてたし、最近多くないか?」


 俺の声が届いてなかったのか、ゾーイにしては珍しいことにボーッとしていたようで、少し遅れて返事をしてきた。
 こんなことが、ゾーイはここ数週間でとても増えた。
 よく物を落としたり、特に何もないところで転んだり、前までのゾーイなら考えられないことばかりで……


「十日間の旅もそうだけど、最近本当に働きすぎなんじゃないか?」
「……うーん。まあ、今日寝れば少しは良くなると思うよ」
「寝ればって……寝ることは、人間には当たり前なんだからな? 少し休んだらどうだ?」
「大丈夫だって。何か、真由の心配症が伝染ったみたいだよ?」
「ゾーイ? 俺は真剣にだな……!!」
「わかったから! 無理はしないよ!」


 ゾーイは、俺の忠告をことごとく、聞こうとはしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...