エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
240 / 257
第四章-⑶ ラスボスとの直接対決

お先真っ暗な生中継

しおりを挟む
「これ……これは! 一体、どういうことなんだ、何が起きている!?」
「す、すみません! あの、まだ原因は急ぎ解明中なのですが、国営放送を利用した大規模な電波ジャックが起こってまして……!!」
「電波ジャックだと!? そんなこと、有り得るのか!?」


 今、俺達の目の前のテレビには、この執務室がバッチリと映し出されていた。
 紛れもなく生中継で……真っ青な顔で慌てふためくマイルズの顔も、くっきりと放送されている。
 改めて確認をしてみたが、それは空島全域で放送されてるチャンネルの画面で間違いなかった。
 電波ジャック? この映像は隠しカメラの映像? けど、それをどうして、ゾーイが把握してる?
 まったくもって理解はできないが、その放送画面には一つだけ、見逃せない違和感がある……画角だ。
 この画角を見る限りは、俺の背より少しだけ低いところから撮影をしているように見えるが、辺りを見回しても隠しカメラらしきものは見当たらず……
 何なら、そこにいるのはゾーイ本人だけで……え?


「前代未聞だ……!! そもそも、カメラなど、そんなものどこにも……」
「じゃあ、ここで特別に種明かしをしてあげよっか!」


 俺の視線に気付くと、ゾーイは絶望に染まってわなわなと震えるマイルズに向き直り、わざとらしいほどの明るい声でそう問いかけた。


「これよ?」


 そう言って、満面の笑みでゾーイが指差したのは髪の毛……などではなく、地上を出発する時に俺が指摘した違和感。
 青く、綺麗な繊細に作られた蝶の髪飾りだった。


「これはね、ある機械周りに強い奴に作ってもらった髪飾りなんだけど、これが何と! レコーダー、カメラ、中継機能付きっていう優れものなのよね?」


 ゾーイの言う通り、改めてテレビの画角を見ても、その髪飾りから撮影された映像が、現在進行形で放送されてることに間違いないようだ。
 違和感というものは、現実の世界に隠れてる身近なヒント。
 おそらく、マイルズほどの慎重で用心深い人間であったなら、普段からのゾーイの着飾らない姿勢から、このヒントに気付いていたのかもしれないが……
 生憎、マイルズは今日がゾーイと、この女王の仮面を被ったとんでもない魔女と、初対面だ。


「は? 待て待て! どの部分から放送してたんだよ!?」
「あー、どこからかな? けど、この中継画面の放送時間を見る限り、ほぼあたし達が、この部屋に入って来てからと大差ないから、全部じゃない?」


 極度の驚きと呆れで、わけがわからなくなってる望に、ゾーイはこれまた淡々と何でもないように答える。
 ゾーイの言う、テレビの中継画面に映し出された放送時間は約十七分。
 俺達がここに来てから、二十分経つか経たないかぐらいだと思うから……確かに、この執務室で起こったほとんどのやり取りが、空島全域に放送されていたことになるわけで。
 同時に、俺の中ではあることが消化できてもいた。


「……これで謎が解けたよ」
「え? 何がよ?」
「さっきシンとの別れ際にゾーイが交わしてた、無茶ぶりがどうしたとかの会話の意味だよ。あれって、電波ジャックの準備するためにスタジオに向かえってことだったんでしょ?」
「あら、大正解」


 俺の言葉に、ゾーイはおちゃらけた返事を返してニヤリと笑う。
 髪飾りを作ったのはシン、地図を頭に叩き込ませたのは国営放送のスタジオの道のりを覚えるため、電波ジャックのこともシンにだけ伝えた、理由は、俺達の中で一番シンが機械に強いからか……
 確かに、こりゃとんでもない史上最強の無茶ぶりだな。


「どうも? けど、もしも、シンが失敗して、そもそも電波ジャックができなかったらどうするつもりだったのさ?」
「さあ、その時はその時よ。まあ、通信のおかげで、あいつらが捕まってないことがわかったから、無事に電波ジャックのお膳立てには間に合ったんだろなって思ったけどね?」


 俺の質問に、ゾーイはあっけらかんと答える。
 初めから、失敗の文字は頭にはないと言うような絶対的な自信を持った、あの目を向けて答える。
 奇跡を起こすのはいつだって、ゾーイのように奇跡を自分のもとに、手繰り寄せてしまうような人間なんだろう……
 奇跡も甘くないってことか。    
 別プランとゾーイは言っていたが、初めから、このプランを主軸に考えていたのではないかと俺は思う。
 敵を騙すには、まず味方からか……本当に、君には敵わないよ。


「動物ってさ、一つのエサを手に入れると、もう一つのより豪華なエサに気が付きにくくなるのよ。まあ、人間は一番単純な動物だけど、そう上手くいくかってヒヤヒヤしてたのよね。けど、そんな心配皆無だったわね? マイルズ首相?」


 そして、俺との会話に一段落ついたと思ったのだろうゾーイは、ゆっくりとマイルズに向き直って、名前を呼んだ。


「ボイスレコーダーを壊して、完全に勝利を確信した時のあなたの顔ったら、見物でしたよ~? しかし、普通に考えて大切な証拠を、そう易々と床に放っておきますかね? あー、そんな判断が鈍るほどの興奮状態ってやつですか?」
「あ……あ……ああ……ッ!!」
「まあ、その後の、あたしの煽りにも面白いほど予定通りに爆発して、その不気味で胡散臭い笑顔の化けの皮も剥がれたことだし、あたしは大満足だけど?」


 形勢逆転……いや、それ以上の光景だと、俺は思う。
 ゾーイは、わざとらしくマイルズの周りを何周も回りながら、丁寧に一連の流れを説明していた。
 ゆっくりと、鳥の翼を毟るように……
 すべてはゾーイの手の内で、俺達はコマに過ぎなかった。
 それを思い知って、ただただ現実を突き付けられているマイルズは、敵でも同情したくなるほどで……
 得体の知れない不気味な気を放った恐怖の根源はもうおらず、そこには我らが女王様に追い詰められている、一人の気の毒な老人がいるだけであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...