エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相

この手には命が握られてる

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「少し長旅になるわよね?」
「けど、あっという間かもよ?」


 コックピットの後ろの方に備えてある補助席を取り出し、並んだゾーイと俺はそんな会話を交わす。
 目の前の大きな窓からは、俺達に手を振る見送りの奴らが視界に入る。
 その中には、レオ、コタロウ、モカの姿もあり、俺は変にさっきの三人の言葉を思い出していた……
 ゾーイを託すとか、お願いとか、見届けろって、どういう意味だよ?


「おっと……こりゃ大変だ」


 しかし、一方で、俺の真剣で深刻な思考とは裏腹に、隣からは大きな物音と、棒読みにもほどがあるだろとツッコミたくなるような声が聞こえて、俺は隣を振り向く。
 予想通りに、ゾーイは何かを落としてそれを拾っていたようだ。
 そんな姿に俺は、最近、ますますゾーイは、何かを落とすだとか、そこら辺で軽くつまづくとか、他の人間ならあれだけど、ゾーイだからこそ目立ってしまうような細かいミスが増えたなと、何となく考えた……さすがに疲れてるのか?
 そんな風に、俺は無意識にじっと見続けていたものだから、偶然にも俺はゾーイの変化に俺は気付いてしまった。


「あれ? ゾーイ、髪飾り変えたの?」
「え? おお、よく気付いたね?」


 少し驚いた様子のゾーイから、俺の視点は間違っていなかったようである。
 ゾーイはいつも高いところで長い髪をまとめているが、その髪飾りというのは何の変哲もない黒い太いゴムである。
 しかし、今はどうだ……青く、綺麗な繊細に作られた蝶が、ゾーイの透き通るような髪を着飾っているのだ。
 真由や、他の女子達は、時々は気分転換だと言って髪型を変えたりしていたこともあったのだが、ゾーイは十か月の間に、一回も変えたことがなかった。
 まあ、整いまくってる容姿に反し、本人の性格からして、無頓智とか、面倒だとか、そんな理由なんだろうけど……


「えっと……気分でも変わった?」
「まあ、そんなとこ? せっかく、空島に帰るんだし、久しぶりにオシャレとかしよっかなって」


 伺うような俺の質問に、淡々として感情が読めない感じで、つまりはいつも通りに答えるゾーイ。
 ゾーイにも、女の子らしいとこがあるのだなと、本人に言ったら飛行機から投げ出されかねないような、これでもかと失礼極まりないことを俺は密かに思ってしまった。


「昴くん、地図係お願いね!」
「うん、任せろ」


 そんな俺達のやり取りを、前からクスクス笑って、タイミングを見計らって俺に話しかけたのは、我らがリーダー、クレアだ。
 お願いと言われた俺は力強く、その責務を果たすと誓うように頷く。
 これから数時間、目的地まで俺は地図係で、クレアは機長だ。


「大丈夫か? 昨日の夜とか、震えが止まらないって言ってたけど……」
「ええ、すっかり大丈夫よ。何度も、この機体を飛ばしたし、何度も無事に地上に着陸させた。ここまで来たら、自分の技術をとことん信じるわ! それに本番は空島に着いた後なんだから、こんなとこで躓いているわけにいかないし!」


 俺の心配をよそに、そう答えるクレアは強がっているわけではなく、心から自信に満ち溢れている表情だった。
 その表情を見ると、二回目になる未知の空の旅も不安が消えていく。
 クレアは間違いなく、俺達の中で一番優秀なのに、真面目すぎるが故に、自分に自信が持てず、優柔不断なところが最初は目立っていた。
 ある日突然、脆く崩れてしまわないかと心配になるほど、クレアはギリギリの状態だったのではないかと思う。
 けど、リーダーとして、その役割を自分なりのやり方で貫けるようになり、クレアは少しずつ自信を手に入れた。
 ゾーイの言う通り、俺は心から俺達のリーダーはクレア以上にふさわしい人間はいないと、今は断言できる。
 

「ねえ、それなら、こっちにクレアの震えが伝染ったんじゃないの?」


 ちなみにだが、そう呆れたように俺達二人に吐き捨てたゾーイは、コックピット内でアシストをしてくれと俺とクレアと副機長になる人物が頼んだから、ここにいる。
 その副機長となる人物というのが……


「モーリス!? しっかりしてって!」
「む、むむむっ、無理です! 少し、時間を……時間をください!」
「さっきまで普通だったじゃない!? 尋常じゃないわよ!?」
「そうもなり、ますよ!? この手、手には……仲間全員の命が、命がああ!」
「おおっ、お願いだから! 深呼吸!」


 最早、何かの病気なのかと心配になるほど震えている、モーリス。
 クレアが必死に宥めているが、震えは収まるどころか、もうクレアまで震えが伝染する始末……
 そんなモーリスの姿に、俺は不安と嬉しさが込み上げていた。
 出会ったばかりの頃のモーリスは、お世辞にも愛想とか、人当たりがいいとは言えなかった。
 他にも、自分さえ良ければ他人は眼中にないって感じで、正直、俺の中で一番苦手なタイプだった。
 けど、今はどうだろう……あんなに冷血漢だった奴が、今では自分は仲間の命を背負い切れないと叫ぶのだ。
 あまりの変化に笑うけど、モーリスは過去に戻りたいかと問うても、首を縦には振らないはずだ。
 モーリスは、責任とか大切なものを背負うことの尊さを学んだんだと思う。
 今思えば、そこに人間味がなくて、俺は苦手だったんだろな……今じゃ大切な仲間の一人だ。
 本当に、俺達はこの十か月で、君と出会って変わったんだ。


「まあ、事実は事実よね? あたし達が生きるも死ぬも、運命はあんた達二人次第なわけだし?」
「いや、ゾーイ!? 余計にモーリスのこと追い詰めてどうすんだよ!?」


 そんな君は……ゾーイは、楽しそうにモーリスに追い討ちをかける。
 俺の注意なんか聞きやしないでな?

 何だかんだの攻防の末に、俺達は、見上げ続けた空へと旅立ったのであった。
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