エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第五章 ゾーイ・エマーソンの正体

ディストピアな未来の話

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「は、何を……? 三百年、未来?」


 まったく予想もしていなかったその言葉に、ただただゾーイから言われた単語を繰り返すしかできなかった。
 瞬時にみんなとも目を合わすが、何を言っている、意味不明だと、全員の顔に揃いも揃って書いてあるだけで……


「まあ、信じろって言っても、さすがに無理よね? そこで、そんなあんたらには、そこの手紙を授けよう」
「……え?」


 しかし、当の本人のゾーイは、呆れるほど堂々としたもので……
 切り株に座ったまま、パーカーに手を突っ込んだ状態で、目の前の平らな石の上に置かれた手紙を視線で示す。
 え、俺が取るの? そして、ゾーイは動かないの?
 言いたいことはいろいろあったが、ゾーイの思う通りに行動した方が早いと身をもって知っている俺は、歩み寄り、無造作に置かれたその手紙を手に取った。


「説明は面倒だし、予定狂ったし、もうここでそれ読んで理解して」


 真っ白な、何の変哲もないその封筒には『読め』とだけ書かれていた。


「ゾーイ、これって……」
「開けないの? 大丈夫よ。それ読み終わるまで、どこにも行かないから」


 そのゾーイの、無表情なままに吐き出される答えがすべてだ。
 これは、ゾーイが書いた手紙なんだ。
 俺は手紙を覗き込むみんなと目を合わせてから、意を決して封筒を開けた。
 

『まず、よくここにたどり着いたわね?
そこを褒めてあげる、おめでとう。
多分、あんたらのことだから、あの刑事に余計なこと吹き込まれて慌てて捜し始めたんでしょ?
本当に刑事って、嫌な職業だわ。
ねえ、あたしがいなくなってから、どのくらい経った?
単刀直入に言うけど、あたし、しばらくあんたらには会わないから。

あー、会わないってより、会えないって言った方が正しいか。
実はあたしさ、三百年後の未来から来た未来人ってやつなんだよね。
つまりは、あたしは未来に帰ったってことよ。
あ、騙されたとか思ってんなら、それは大間違いよ?
あたしは隠してたわけじゃないし、聞かれなかったから答えなかっただけよ。
もし、いつの時代から来たのって質問をされたら、三百年後って答えてたわよ。
ナサニエルの史学科の生徒ってのも、嘘じゃないわよ?
ただ、この時代の生徒じゃなかったってことと、あたしっていう人間が、まだこの世に生まれてないってだけの話よ。

じゃあ、あたしは何のためにこの時代に来たのか……最大の疑問でしょ?
それは単純明快、未来を変えるためよ。
あたしの生きてる未来は、まるで監獄のような世界よ。
性格、能力、感情、あらゆることが管理された、そんな嘘みたいな世界なの。

あたしの出身島がアイランド77ってのは、本当よ。
調べたら昔は廃島だったらしいけど、未来ではここに大きな人材育成センターが建てられる。
あたしは、このアイランド77で人工授精児として生まれたの。
未来では、綿密な計算によって選ばれた遺伝子をかけ合わせて、理想の子どもを作り出すの。
だから、未来では親、ましてや家族って概念すらも失われてるわ。
誰かが誰かの親と子どもであることは遺伝子上では存在するけど、ほとんど意味をなさないっていう、そんな反吐が出る世界なのよね。

けど、そんな世界であたしは見事なまでの失敗作だった。
管理される範疇を超え、無駄な知恵と感情を持ってしまった。
物心ついた時には、こんな世界も、平然としてる人間も、クソ喰らえだなって思ってた。
けど、失敗作だとわかれば、どんな目に遭うかわからないから、あくまで普通を装った。
演技するのは疲れたわよ? 
笑いたくないことで笑ったり、仲良くなりたくもない奴とご飯食べたり、まさに地獄そのもの。
けど、ある時に変わることを怖がってる自分に嫌気がさしたのよね。

我慢の限界を超えたあたしは、こんな世界をぶっ壊そうと思ったわ。
そこであたしは、こんな世界になるまでの歴史を調べ始めた。
それで歴史を学ぶ上での最高峰の環境だと思って、ナサニエルの史学科に入学をしたの。
本当に世界がこんなんじゃなかったら史学科なんて選ばないわ、ムカつく。
それでいろいろ調べていくと、こんな世界になったきっかけとも言われてる事件の存在を知った。
それが未解決とされた、ナサニエル墜落事件……あんたらの事件よ。

多少はショックかもだけど、あくまで可能性の一つだった未来の話だから、気楽に聞いてほしいんだけどさ?
あたしの生きる未来では、ナサニエル墜落事件の生存者はゼロだったわ。
しかも、発見をされたのは、事件から五年も後のこと。
もっと調べると、その事件で亡くなった生徒の中に、当時の首相の孫娘、次期第一王位継承者、大財閥の跡取りとか、有名人もいたことを知った。
それを見てあたしは、ああ、そういうことかって納得してたわ。
当時の記事とかには、空島を神に捧げるとかってスローガンをもとに、当時の首相の最早お馴染みマイルズが空島の改革を進めて、今の世界の基盤を作ったって書いてあったから。
あたし、首相が孫娘を失ったことで気が狂ってできた世界なのねって、ほとんど呆れてたのよね。
まさか結末が、一族全員が黒幕だったで落ち着くとは驚きだったわよね?

けど、その線で調べてたから、あたしはローレン家に接触しようと思った。
簡単じゃなかったけどね。
まず、ローレン家は、五十年以上も前に没落していて、その生き残りの子孫を捜し出すだけでも骨が折れたわ。
それでも、やっと見つけて……いや、嗅ぎ回っていることを知られて、あたしに向こうから接触して来たって言った方が正しいわね。
けど、まだあたしの苦労は続くわ、ローレン家の生き残りは、何と反乱軍のトップに君臨してたんだもの。
そりゃ、簡単に見つからないわよね?』


 一枚目だけでも十分な破壊力を持つ手紙だったが、それでも読み進める手は止まらず、俺は視線を二枚目へと移した。
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