転生したら推しが王子のフリしてやってきた。

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60話 実技大会4

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決勝の試合中に、ウィルが攻撃を受けて結界に叩きつけられたのを見た私が、一緒に居たアリスにウィルの所に行っていいか尋ねると「後は全部私がやっておくから、早く行きなさい」と送り出された。

私が慌てて選手出入口の方に向かうと、控え室に向かう途中のウィルが前から来ていた。

「ウィル!」
「あ、マリーどうしたの?」
「どうしたのじゃないですよ!怪我は!?」
「あ~…うん、まぁちょっとしてるかな」
「治すので控え室行きましょう」

私はそう言うとウィルの手を引いて控え室に入り、どこを怪我したのか聞くと「左の脇腹あたりだよ」と言ったので、服を脱いでもらうとウィルの左の脇腹から腹筋にかけて大きなあざが出来ていた。
私はすぐに治癒魔法を使いそれを治すとウィルに「どうですか?」と聞いた。

「うん、どこも痛くないし治ってるよ、ありがとう」
「いえ、でもウィルが怪我するなんて私の付与のかけ方が甘かったんですかね」
「違うよマリー、兄さんの攻撃の威力がおかしいだけだから」
「そうなんですか?」
「うん、兄さん最後の攻撃は本気出してたらしいし、マリーから貰ったコレが無かったら、俺怪我じゃすまなかったかもね」

私はウィルの発言に驚きつつも、ウィルが未だに上半身裸な事の方が気になり始めていた。
いや、脱げと言ったのは私ですけど、でもそれは怪我の場所を見るのに必要だったからで、今はもう目のやり場に困るだけである。

「ねぇウィル、もう服着て大丈夫ですよ?」
「あれ?もういいの?今日のマリーは積極的だなぁって思ってたんだけど」
「もう!からかわないで下さい」

私がそう言うと、ウィルは笑いながら服を着て「冗談だよ、それよりマリーを抱き締めたいんだけど構わない?」と聞いてきたので、少し不思議に思いながらも「構いませんよ」と言ったら少し強めに抱き締められた。
ウィルは私を抱きしめると、暫く何も言わずにそのままだったので、やっぱり何かおかしいと思った私は「ウィル?」と名前を呼んでみた。

「マリーごめんね」
「何がですか?」
「応援してくれたのに負けちゃって」
「いえ、私はウィルがあんなに強いと知らなかったので、それが知れて良かったです」
「そう?なら良かったけど、俺は負けちゃったせいで、これから起こる事にあまり口出せないのが悔しいかな」
「え?」

私がウィルの言葉の意味を理解出来ないでいると、控え室の扉が勢いよく開き「ウィル居るかー?」とカルロス様が入ってきたので驚いた。
控え室に入ってきたカルロス様は、ウィルに抱き締められている私という状況を見るとニヤリと笑って「それじゃあ約束を守ってもらおうか」と言った。
私は何の事か分からなかったが、ウィルはため息を吐くと、カルロス様の方を向いて私の肩を抱き寄せ、嫌そうに「マリー、知ってると思うけど、これが俺の兄さんのカルロス・クレメントだよ」と紹介してくれたので、私は挨拶をした。

「カルロス様初めまして、ウィルの婚約者のマリアンヌ・ガルディアスです」
「マリーちゃん初めまして、ウィルの兄のカルロスだよ、俺の事は気軽にお義兄ちゃんと呼んでもらえる?」
「いえ、流石にそれは…お義兄様では駄目ですか?」
「マリー、そもそも呼ばなくていい、兄さんも何要求してんだよ」
「母さんがマリーちゃんにお義母さんと呼ばせてるんだから、俺も呼んでもらったっていいだろ?マリーちゃんの好きな呼び方でいいからよろしくね」
「あ、はい、よろしくお願いします、お義兄様」

私がそう言うと、お義兄様と呼ばれるのが気に入ったのか、カルロス様が「俺、妹自慢してくる奴らの気持ちが少し分かったわ」と言った。
するとウィルが「兄さんもういいだろ、早く帰れよ」と言い出した。

「おいウィル、帰るも何も次は閉会式だからお前も行くんだよ」
「え~、兄さんに勝てなかったから俺もう閉会式とかいいんだけど」
「そんな事言わずに行くぞ、兄弟で表彰台なんてもう無いんだからな」

カルロス様にそう言われてもウィルが嫌がった為、カルロス様が強制的に連行していった。

その後私も、アリスの所に戻ろうと思い歩いて移動していると、後ろから「すみません」と声をかけられた。
私は声のした方を振り向いたのだが、そこに居た人物を見た瞬間、酷い寒気に襲われた。
声をかけてきた人物は、40歳くらいの男性で、服装から治療班として学園に来た、ティルステア聖国の関係者だというのは分かった。
人を見てこんなに酷い寒気と気持ち悪さを覚えたのは初めてだったので、私はどうしていいか分からず黙っていると、その人物は薄気味悪い笑みを浮かべ「少しよろしいですか?」と話しかけてきた。

「…何でしょうか」
「そんなに警戒しないで下さい、本日こちらに治療班として呼ばれた者です」
「服装で、分かります」
「それは良かった、実は道に迷いましてね、良ければ玄関まで案内をお願いできますか?」

その人物はそう言うと、こちらに近寄ってきた、すると気持ち悪さも増したので、これはヤバいと思った私が後ずさると、それを見たむこうが1度足を止めた。

「君はアリアンナから何か聞いているのかい?」
「は?何の事ですか?」
「君、アリアンナの娘だろう?彼女の若い頃によく似ている」
「…確かにアリアンナは私の母ですが、それが何か」
「聞いてないのか、なら悪いようにはしない、さあ、こちらにおいで」

そう言われた瞬間全身に鳥肌が立った。
こいつヤバい人だ、逃げなきゃと思ったが、なぜか急に寒気も気持ち悪さも無くなり、相手を見ると私の後ろを睨みつけていた。
何だろうと思っていると「マリアンヌさん大丈夫ですか?」とヴィンス先生が後ろから来て、私の肩に手を置いた。

「私の生徒が何かしましたか?」
「いえ、道をお尋ねしていただけですよ」
「案内が必要でしたら私がしますが」
「結構です、もう分りましたから」

謎の人物はそう言うと、こちらに背を向けて去っていった。

姿が見えなくなってホッとした私がその場にへたり込むと、ヴィンス先生に「大丈夫ですか?」と心配された。

「すみません大丈夫です、人をあんなに気持ち悪いと思ったのが初めてだったので驚いて」
「それは先程の人物が、マリアンヌさんに危害を加える気があると精霊が警告してるんですよ」
「えっ?でも以前サイモン様に掴みかかられそうになった時は何も感じませんでしたけど」
「あの時はウィリアム君がそばに居たでしょう、害意を持つ者から守れるだけの実力がある人物がそばにいればそれ程感じません、まぁ害意の程度にもよるんですが」
「あっ!それでさっき先生が来た途端、気持ち悪さが無くなったんですね」
「おや、そうでしたか」
「はい、ありがとうございました、でも先生はどうしてここに?」
「アルヴィンに頼まれましてね、それについては明日話しましょう」
「分かりました」

そうして私は先生に記録席まで送ってもらい、その後は何事もなく1日が終わった。
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