67 / 70
EP 67
しおりを挟む
『決闘、妖刀VS鬼奉行』
日本橋の大通り。
逃げ惑っていた群衆は、いつしか遠巻きに足を止め、固唾を飲んでその光景を見守っていた。
狂乱の大名と、謎の遊び人。
まるで芝居のようだが、張り詰めた空気と漂う殺気は、これが命のやり取りであることを雄弁に物語っていた。
「……死ねぇぇぇ!!」
松平定兼が吠えた。
理性を失った彼を突き動かすのは、妖刀『村正』の渇望と、傷つけられた矜持のみ。
彼が踏み込んだ瞬間、石畳が砕けた。
人ならざる脚力。
ヒュンッ!
赤い軌跡を描く横薙ぎの一閃。
「……ッ!」
坂上真一は、瞬時に『同田貫』を立てて防御した。
ガギィィィン!!
凄まじい衝撃が坂上の腕を走り、足がズザザッと地面を滑る。
(……重い!)
坂上(中身50歳)は、冷静に衝撃値を分析した。
あの夜よりも速く、重い。妖刀が持ち主の限界を超えた力(リミッター解除)を引き出しているのだ。
「……ハハハハ! どうした、防戦一方ではないか!」
定兼が嗤う。
切っ先を返し、嵐のような連撃を繰り出す。
袈裟斬り、逆袈裟、突き。
息つく暇もない猛攻に、坂上は紙一重の回避と防御を強いられる。
ガチン! キィン! バギッ!
数合打ち合う度、坂上の愛刀・同田貫から、悲鳴のような音が上がる。
「……見てみろ! 下郎!」
定兼が動きを止め、勝ち誇ったように叫んだ。
坂上が手元の刀を見る。
質実剛健を誇る同田貫の刀身が、鋸(のこぎり)のようにボロボロに刃こぼれしていた。
対して、定兼の持つ村正は、これだけ打ち合ってもなお、刃こぼれ一つなく、妖艶な赤色を放っている。
「……我が村正は無敵だ! 貴様のなまくら刀など、鉄屑も同然!」
「……次の一撃で、刀ごと貴様を両断してくれるわ!」
群衆から悲鳴が上がる。
「だ、ダメだ……! 武器が違いすぎる!」
「逃げてくれ、真さん!」
蘭と雪之丞も、拳を握りしめて見守るしかない。
だが。
坂上は、刃こぼれした刀を見つめ、フッ、と鼻で笑った。
「……なるほどな」
「……よく切れるし、硬い。……最高の業物だ」
「……命乞いか? 今更遅い!」
「……だがな」
坂上は、同田貫を正眼(せいがん)に構え直した。その構えは、今までとは違い、切っ先がわずかに右に開いていた。
「……硬すぎるんだよ」
「……何?」
「……刀ってのはな、『斬る』道具であると同時に、衝撃を逃がす『粘り』が必要なんだ」
坂上は、冷徹な目で村正を見据えた。
「……だが、その刀には『柔軟性(フレキシビリティ)』がねえ。ただ斬ることだけに特化した、異常な硬度だ」
坂上の脳内シミュレーションが完了する。
硬すぎる物質は、衝撃に対して脆い。
一定の角度、一点に強烈な衝撃を加えれば――。
「……そいつは、刀じゃねえ」
坂上の全身から、静かな闘気が立ち昇る。
背中の仁王が、衣の下でカッと目を見開く。
「……ただの、出来損ないの『凶器』だ」
「……き、貴様ァァァ!!」
定兼の顔が真っ赤に染まる。最強の相棒を侮辱された怒りが、頂点に達した。
「……後悔して死ね! この村正こそが至高!」
「……受けよ! 我が剣技の全てを乗せた、最強の一撃!!」
定兼が、刀を大上段に振りかぶった。
全身全霊、村正の妖力全てを注ぎ込んだ、必殺の唐竹割り。
防御すれば刀ごと叩き斬られ、躱せば追撃で斬られる。
回避不能の絶技。
「……来い」
坂上は、動かない。
自分から死地に飛び込むように、一歩、前へ踏み出した。
「――チェストォォォォッ!!」
定兼の村正が、音速を超えて振り下ろされる。
死の閃光が、坂上の脳天に迫る。
その、コンマ一秒の刹那。
坂上の身体が、半身に沈んだ。
防御ではない。
回避でもない。
彼は、同田貫を、下から上へと、渾身の力で振り抜いた。
狙うは、定兼の身体ではない。
振り下ろされる村正の、刀身の「側面(ひら)」。
北辰一刀流、秘伝。
相手の武器を破壊する、剛剣の極意。
「――砕けろォッ!!」
二つの鋼が、空中で交錯した。
日本橋の大通り。
逃げ惑っていた群衆は、いつしか遠巻きに足を止め、固唾を飲んでその光景を見守っていた。
狂乱の大名と、謎の遊び人。
まるで芝居のようだが、張り詰めた空気と漂う殺気は、これが命のやり取りであることを雄弁に物語っていた。
「……死ねぇぇぇ!!」
松平定兼が吠えた。
理性を失った彼を突き動かすのは、妖刀『村正』の渇望と、傷つけられた矜持のみ。
彼が踏み込んだ瞬間、石畳が砕けた。
人ならざる脚力。
ヒュンッ!
赤い軌跡を描く横薙ぎの一閃。
「……ッ!」
坂上真一は、瞬時に『同田貫』を立てて防御した。
ガギィィィン!!
凄まじい衝撃が坂上の腕を走り、足がズザザッと地面を滑る。
(……重い!)
坂上(中身50歳)は、冷静に衝撃値を分析した。
あの夜よりも速く、重い。妖刀が持ち主の限界を超えた力(リミッター解除)を引き出しているのだ。
「……ハハハハ! どうした、防戦一方ではないか!」
定兼が嗤う。
切っ先を返し、嵐のような連撃を繰り出す。
袈裟斬り、逆袈裟、突き。
息つく暇もない猛攻に、坂上は紙一重の回避と防御を強いられる。
ガチン! キィン! バギッ!
数合打ち合う度、坂上の愛刀・同田貫から、悲鳴のような音が上がる。
「……見てみろ! 下郎!」
定兼が動きを止め、勝ち誇ったように叫んだ。
坂上が手元の刀を見る。
質実剛健を誇る同田貫の刀身が、鋸(のこぎり)のようにボロボロに刃こぼれしていた。
対して、定兼の持つ村正は、これだけ打ち合ってもなお、刃こぼれ一つなく、妖艶な赤色を放っている。
「……我が村正は無敵だ! 貴様のなまくら刀など、鉄屑も同然!」
「……次の一撃で、刀ごと貴様を両断してくれるわ!」
群衆から悲鳴が上がる。
「だ、ダメだ……! 武器が違いすぎる!」
「逃げてくれ、真さん!」
蘭と雪之丞も、拳を握りしめて見守るしかない。
だが。
坂上は、刃こぼれした刀を見つめ、フッ、と鼻で笑った。
「……なるほどな」
「……よく切れるし、硬い。……最高の業物だ」
「……命乞いか? 今更遅い!」
「……だがな」
坂上は、同田貫を正眼(せいがん)に構え直した。その構えは、今までとは違い、切っ先がわずかに右に開いていた。
「……硬すぎるんだよ」
「……何?」
「……刀ってのはな、『斬る』道具であると同時に、衝撃を逃がす『粘り』が必要なんだ」
坂上は、冷徹な目で村正を見据えた。
「……だが、その刀には『柔軟性(フレキシビリティ)』がねえ。ただ斬ることだけに特化した、異常な硬度だ」
坂上の脳内シミュレーションが完了する。
硬すぎる物質は、衝撃に対して脆い。
一定の角度、一点に強烈な衝撃を加えれば――。
「……そいつは、刀じゃねえ」
坂上の全身から、静かな闘気が立ち昇る。
背中の仁王が、衣の下でカッと目を見開く。
「……ただの、出来損ないの『凶器』だ」
「……き、貴様ァァァ!!」
定兼の顔が真っ赤に染まる。最強の相棒を侮辱された怒りが、頂点に達した。
「……後悔して死ね! この村正こそが至高!」
「……受けよ! 我が剣技の全てを乗せた、最強の一撃!!」
定兼が、刀を大上段に振りかぶった。
全身全霊、村正の妖力全てを注ぎ込んだ、必殺の唐竹割り。
防御すれば刀ごと叩き斬られ、躱せば追撃で斬られる。
回避不能の絶技。
「……来い」
坂上は、動かない。
自分から死地に飛び込むように、一歩、前へ踏み出した。
「――チェストォォォォッ!!」
定兼の村正が、音速を超えて振り下ろされる。
死の閃光が、坂上の脳天に迫る。
その、コンマ一秒の刹那。
坂上の身体が、半身に沈んだ。
防御ではない。
回避でもない。
彼は、同田貫を、下から上へと、渾身の力で振り抜いた。
狙うは、定兼の身体ではない。
振り下ろされる村正の、刀身の「側面(ひら)」。
北辰一刀流、秘伝。
相手の武器を破壊する、剛剣の極意。
「――砕けろォッ!!」
二つの鋼が、空中で交錯した。
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
幻影の艦隊
竹本田重朗
歴史・時代
「ワレ幻影艦隊ナリ。コレヨリ貴軍ヒイテハ大日本帝国ヲタスケン」
ミッドウェー海戦より史実の道を踏み外す。第一機動艦隊が空襲を受けるところで謎の艦隊が出現した。彼らは発光信号を送ってくると直ちに行動を開始する。それは日本が歩むだろう破滅と没落の道を栄光へ修正する神の見えざる手だ。必要な時に現れては助けてくれるが戦いが終わるとフッと消えていく。幻たちは陸軍から内地まで至る所に浸透して修正を開始した。
※何度おなじ話を書くんだと思われますがご容赦ください
※案の定、色々とツッコミどころ多いですが御愛嬌
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる