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EP 1
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地下帝国の模型屋と、便利ツールの『雷霆』
「おい、小僧! 貴様、いい加減にするのだ!」
脳内に直接、バリトンボイスの怒鳴り声が響く。
だが、俺――タクミは、その声を無視して手元の作業に集中した。
「うるさいな。ちょっと黙っててくれ。手元が狂うだろ」
「ぬかせ! 我は神をも殺す伝説の魔導兵装『雷霆(らいてい)』であるぞ!? それをなんだ、その……チマチマとした樹脂を溶かすためだけに、我の神聖なる雷熱を使うとは何事だ!」
「はいはい。温度、あと五度上げて。三百度キープで頼む」
「……くっ、覚えおれよ! ……ぬううぅん!」
俺の右手に握られた、鈍い輝きを放つ金属の棒――『雷霆』が、ブォンと微かな唸りを上げる。
本来なら、持ち主の覇気に呼応して「雷光の大剣」や「嵐の長弓」に変形するはずの神話級武器。
だが今、こいつは俺のオーダーに合わせて、**極細の「超高温はんだごて」**の形状をとっていた。
ジュッ……。
ペン先ほどに細くなった雷霆の切っ先が、黒い装甲パーツのバリを撫でる。
完璧だ。
魔法金属オリハルコンすらバターのように溶断する熱量は、俺の繊細な魔力制御と雷霆の自律調整によって、プラスチックのような合成樹脂をミクロン単位で加工していた。
「よし、表面処理完了。次は切断だ。振動カッターモードへ移行」
「……おのれ、次は振動か! 我の破壊の振動を、またプラモデルごときに!」
「プラモじゃない。『マグナギア』だ」
文句を言いながらも、雷霆は素直に形状を変える。
今度は薄いナイフ状になり、目にも止まらぬ超高速振動を始めた。
俺はそれを使い、関節パーツのクリアランス(隙間)を調整していく。
ここはマンルシア大陸の北端。
険しい山脈の地下深くに広がる、ドワーフたちの国「地下帝国ドンガン」。
その薄暗い路地裏に、俺の店――『工房タクミ』はある。
日本でしがない原型師をしていた俺が、女神ルチアナとかいう適当な女神に転生させられてから三年。
チート能力で無双? ハーレム?
そんなものには興味がなかった。
俺が求めたのは、前世では叶わなかった「素材も時間も気にせず、究極の造形を作ること」。
その情熱の全てを、この世界の流行りものである魔導操人形「マグナギア」に注ぎ込んでいる。
「ふん、人間ごときが作る人形など、たかが知れている」
作業が一区切りついたのか、雷霆がナイフ形態のまま、作業マットの上でふてくされたように明滅した。
「この世界の『マグナギア』は、確かにすごい技術だ。魔力を通すことで遠隔操作でき、視覚も共有できる。だが……」
俺は作業台の上に組み上がった、全高三十センチほどのフレームを見つめた。
それは、既存の商品とは決定的に違う。
この世界のマグナギアは、「コスト制」だ。
人型は「コスト1」。大型魔獣型は「コスト2」。
単純な魔力容量(パワー)の差で勝敗が決まるため、誰もがこぞって「コスト2」のドラゴン型やゴーレム型を使いたがる。
人型(ヒューマンタイプ)なんて、金のない初心者が使う「捨て駒」扱いだ。
――許せない。
前世でロボットアニメと可動フィギュアを愛した俺の魂が、それを否定する。
人型こそが至高。
パワー不足? 装甲が薄い?
関係ない。
「構造(ギミック)」と「技術(スキル)」で凌駕する。それがロマンだろ。
「見てろよ、雷霆。こいつは化けるぞ」
俺はピンセットを置き、最後の仕上げに入る。
外装(アーマー)のスライドギミック。
人体構造を模した多重関節。
そして、日本の「物理演算」の概念を組み込んだ、姿勢制御用の魔力回路。
全てが、俺の手と、雷霆という「最強の工具」によって、狂いなく組み上げられた。
「……起動(ウェイク・アップ)」
俺は指先から、糸のように細く練り上げた魔力を、人形の胸にある「マナ・コア」へと流し込む。
ドクン、と。
樹脂と金属の塊に、鼓動が通った。
シュゴオォォ……。
排熱ダクトから微かな蒸気が漏れる。
作業台の上に横たわっていた人型のマグナギアが、ゆっくりと起き上がった。
ガシャガシャという耳障りな駆動音はない。
滑らかに。
まるで、朝起きた人間が伸びをするように。
それは立ち上がり、ガラス玉の瞳(カメラアイ)で俺を見た。
そして、俺の意図を汲み取り、優雅に一礼(バウ)をする。
「……ほう」
マットの上で転がっていた雷霆から、感嘆の声が漏れた。
「貴様、ただの人形遊びかと思っていたが……。今の動き、まるで生き物ではないか」
「だろ? これが俺の『コスト1』だ」
俺は満足げに頷いた。
まだ塗装もしていない、グレー一色の試作機。
だが、そのポテンシャルは、間違いなくこの地下帝国の常識を覆す。
カランカラン♪
その時、店のドアベルが鳴った。
おや、こんな辺鄙な店に客か?
ドワーフの近所付き合いか、あるいは迷い込んだ冒険者か。
「いらっしゃい」
俺は振り返る。
まさかその客が、俺とこの人形の運命を大きく変えることになるとは知らずに。
薄暗い店内に、新聞紙を小脇に抱えた、やけに仕立ての良いコートを着た紳士が立っていた。
「……ほう。随分と、殺気立った工具を使っているな、店主」
紳士は開口一番、俺の作品ではなく、作業台の上の『雷霆』を見て、面白そうに目を細めた。
「おい、小僧! 貴様、いい加減にするのだ!」
脳内に直接、バリトンボイスの怒鳴り声が響く。
だが、俺――タクミは、その声を無視して手元の作業に集中した。
「うるさいな。ちょっと黙っててくれ。手元が狂うだろ」
「ぬかせ! 我は神をも殺す伝説の魔導兵装『雷霆(らいてい)』であるぞ!? それをなんだ、その……チマチマとした樹脂を溶かすためだけに、我の神聖なる雷熱を使うとは何事だ!」
「はいはい。温度、あと五度上げて。三百度キープで頼む」
「……くっ、覚えおれよ! ……ぬううぅん!」
俺の右手に握られた、鈍い輝きを放つ金属の棒――『雷霆』が、ブォンと微かな唸りを上げる。
本来なら、持ち主の覇気に呼応して「雷光の大剣」や「嵐の長弓」に変形するはずの神話級武器。
だが今、こいつは俺のオーダーに合わせて、**極細の「超高温はんだごて」**の形状をとっていた。
ジュッ……。
ペン先ほどに細くなった雷霆の切っ先が、黒い装甲パーツのバリを撫でる。
完璧だ。
魔法金属オリハルコンすらバターのように溶断する熱量は、俺の繊細な魔力制御と雷霆の自律調整によって、プラスチックのような合成樹脂をミクロン単位で加工していた。
「よし、表面処理完了。次は切断だ。振動カッターモードへ移行」
「……おのれ、次は振動か! 我の破壊の振動を、またプラモデルごときに!」
「プラモじゃない。『マグナギア』だ」
文句を言いながらも、雷霆は素直に形状を変える。
今度は薄いナイフ状になり、目にも止まらぬ超高速振動を始めた。
俺はそれを使い、関節パーツのクリアランス(隙間)を調整していく。
ここはマンルシア大陸の北端。
険しい山脈の地下深くに広がる、ドワーフたちの国「地下帝国ドンガン」。
その薄暗い路地裏に、俺の店――『工房タクミ』はある。
日本でしがない原型師をしていた俺が、女神ルチアナとかいう適当な女神に転生させられてから三年。
チート能力で無双? ハーレム?
そんなものには興味がなかった。
俺が求めたのは、前世では叶わなかった「素材も時間も気にせず、究極の造形を作ること」。
その情熱の全てを、この世界の流行りものである魔導操人形「マグナギア」に注ぎ込んでいる。
「ふん、人間ごときが作る人形など、たかが知れている」
作業が一区切りついたのか、雷霆がナイフ形態のまま、作業マットの上でふてくされたように明滅した。
「この世界の『マグナギア』は、確かにすごい技術だ。魔力を通すことで遠隔操作でき、視覚も共有できる。だが……」
俺は作業台の上に組み上がった、全高三十センチほどのフレームを見つめた。
それは、既存の商品とは決定的に違う。
この世界のマグナギアは、「コスト制」だ。
人型は「コスト1」。大型魔獣型は「コスト2」。
単純な魔力容量(パワー)の差で勝敗が決まるため、誰もがこぞって「コスト2」のドラゴン型やゴーレム型を使いたがる。
人型(ヒューマンタイプ)なんて、金のない初心者が使う「捨て駒」扱いだ。
――許せない。
前世でロボットアニメと可動フィギュアを愛した俺の魂が、それを否定する。
人型こそが至高。
パワー不足? 装甲が薄い?
関係ない。
「構造(ギミック)」と「技術(スキル)」で凌駕する。それがロマンだろ。
「見てろよ、雷霆。こいつは化けるぞ」
俺はピンセットを置き、最後の仕上げに入る。
外装(アーマー)のスライドギミック。
人体構造を模した多重関節。
そして、日本の「物理演算」の概念を組み込んだ、姿勢制御用の魔力回路。
全てが、俺の手と、雷霆という「最強の工具」によって、狂いなく組み上げられた。
「……起動(ウェイク・アップ)」
俺は指先から、糸のように細く練り上げた魔力を、人形の胸にある「マナ・コア」へと流し込む。
ドクン、と。
樹脂と金属の塊に、鼓動が通った。
シュゴオォォ……。
排熱ダクトから微かな蒸気が漏れる。
作業台の上に横たわっていた人型のマグナギアが、ゆっくりと起き上がった。
ガシャガシャという耳障りな駆動音はない。
滑らかに。
まるで、朝起きた人間が伸びをするように。
それは立ち上がり、ガラス玉の瞳(カメラアイ)で俺を見た。
そして、俺の意図を汲み取り、優雅に一礼(バウ)をする。
「……ほう」
マットの上で転がっていた雷霆から、感嘆の声が漏れた。
「貴様、ただの人形遊びかと思っていたが……。今の動き、まるで生き物ではないか」
「だろ? これが俺の『コスト1』だ」
俺は満足げに頷いた。
まだ塗装もしていない、グレー一色の試作機。
だが、そのポテンシャルは、間違いなくこの地下帝国の常識を覆す。
カランカラン♪
その時、店のドアベルが鳴った。
おや、こんな辺鄙な店に客か?
ドワーフの近所付き合いか、あるいは迷い込んだ冒険者か。
「いらっしゃい」
俺は振り返る。
まさかその客が、俺とこの人形の運命を大きく変えることになるとは知らずに。
薄暗い店内に、新聞紙を小脇に抱えた、やけに仕立ての良いコートを着た紳士が立っていた。
「……ほう。随分と、殺気立った工具を使っているな、店主」
紳士は開口一番、俺の作品ではなく、作業台の上の『雷霆』を見て、面白そうに目を細めた。
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